健康

認知症の人が見ている世界「約束を忘れる、徘徊する」症例別の対処法を専門家が解説

 認知症の人たちが何を思って行動しているのか、わからない。だから、その言動に振り回されてしまう。約束を忘れる、急にキレる、徘徊するetc.──私たちから見たら問題行動でも、きちんとした理由があるんです。認知症の人が見ている世界を症例ごとに専門家が解説します。もし彼らと同じ世界を共有できれば、介護がもっと楽になるはずだ。大切な家族、そして将来の自分のため、未知の世界をのぞいてみませんか?

約5人に1人が認知症になる時代

 厚生労働省の調べによると、2025年の65才以上の認知症患者数は約730万人に上り、高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されている。

「認知症はもはや他人事ではありません。自分や家族など、誰もがなる可能性が高い病気だと思った方がいいでしょう」

 こう話すのは、脳内科医の加藤俊徳さんだ。しかも、コロナ禍による外出自粛などの影響で、認知症を発症する人や症状が進行する人が増えているという。

「認知症は病名ではなく、脳の病気や障害により認知機能が低下し、日常生活に支障が出ている状態や症状を示す“総称”です。主なアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症では、それぞれ症状に特徴があります」(加藤さん・以下同)
 
 たとえば、アルツハイマー型認知症は、物忘れなどの記憶障害や判断力の低下などの症状が現れやすい。レビー小体型認知症は幻視や幻聴などを引き起こしやすく、血管性認知症は感情の抑制が苦手になる。前頭側頭型認知症は無口になるなど言語系に症状が出てくる人が多い。

「認知症患者の脳の状態を知り、行動の背景にはどんな事情があるのかを知ることが大事です」

 具体策は症例別に詳述する。

【症例1】約束を忘れる

■新しいことを覚えるのが苦手に。約束したこと自体を忘れてしまう

 これは、認知機能の低下による記憶障害の状態。

「物忘れなら、何らかのヒントやふとしたタイミングで思い出せますが、記憶障害は近い過去から先に記憶が失われるので、約束したこと自体が記憶から抜け落ちてしまいます。本人は忘れているという自覚がないので、忘れたことを責めても意味がありません」(加藤さん)。

【私たちが見ている世界】約束を忘れている

【認知症の人が見ている世界】約束したこと自体が記憶から抜け落ちてしまう

【向き合い方】

「認知症の人とのコミュニケーションツールとしておすすめなのがホワイトボードです。カレンダーだと情報が埋もれて見落としてしまうので、大事な予定はホワイトボードに書き出して、目に入る場所に置きましょう」(介護福祉士・尾渡順子さん)

【症例2】お金を盗られたと思い込む

■現実とのつじつまを合わせるため都合のいい話を創作してしまう

「失われた記憶を埋め、現実とのつじつまを合わせるために、自分にとって都合のいいストーリーを作ってしまう“作話”という症状が出た結果、取ってしまう行動です。作話の内容は、昔の記憶と関係していることが多く、テレビで見たことをあたかも自分が体験したかのように本気で話してしまう人もいます」(加藤さん)

【私たちが見ている世界】お金を盗られたと思い込む

【認知症の人が見ている世界】自分にとって都合のいいストーリーを作ってしまう

【向き合い方】

「本人は財布がなくなって不安に感じているので、“それは大変”と気持ちに寄り添います。そして第三者と一緒に探しましょう。疑われた人が見つけると話がややこしくなるので、見つけても認知症の人のそばに置いて自分で気づいてもらいます」(尾渡さん)

【症例3】ボーっとしている・無視する

■言葉が頭に入ってこず、外国語を聞いているような感覚に

 認知症は右脳・左脳のどちらの症状が進むかによっても行動に差が出る。「言語情報を取り扱う左脳から認知症が始まると、耳から入ってくる情報が処理できなくなり、会話についていけなくなります。さらに、認知症が進むと聴覚系の機能も低下。会話に入れず、無視しているような反応になってしまうんです」(加藤さん)。

【私たちが見ている世界】ボーっとしている・無視する

【認知症の人が見ている世界】耳から入ってくる情報が処理できなくなる

【向き合い方】

「長い言葉は理解しづらいので“トイレに行こう”“ご飯食べよう”など、要点を絞って短く話すと伝わりやすいです。声のトーンも重要で、高めより低めの方が聞き取りやすいようなので、ゆっくりと低い声ではっきりと話すようにしましょう」(尾渡さん)

【症例4】ゴミ屋敷になる

■日付や曜日の感覚がなくなりいつゴミを出せばいいかがわからない

「時間や曜日などがわからなくなる見当識障害が原因と考えられます。今日が何月何日かわからないので、いつゴミを出せばいいのかがわからないんです。また“今日は燃えるゴミの日だ”と思い込んで出してしまう場合もあります。ご近所トラブルに発展する前に、家族が早めに気づいてあげることが大切です」(加藤さん)

【私たちが見ている世界】ゴミ屋敷になる

【認知症の人が見ている世界】いつゴミを出せばいいのかがわからない

【向き合い方】

「ゴミ出しの朝に電話やメールで“今日はゴミの日よ”と伝えてあげましょう。ただ、認知症が進むと分別ができなくなるなど、ゴミ出し自体が難しくなります。高齢者のゴミ出しを支援してくれる地域の制度もあるので、利用するのも得策です」(尾渡さん)

【症例5】同じものをたくさん買う

■いま見えてないものを思い浮かべるのが苦手になる

「買ったこと自体を忘れる記憶障害に加え、目から入ってくる視覚情報をうまく処理できなくなります。さらに進行すると、見えていないものは思い浮かべられなくなります。たとえば、冷蔵庫の中に何が入っていたか思い出せなくなり、その結果、いくつも同じものを買ってしまうと考えられます」(加藤さん)

【私たちが見ている世界】同じものをたくさん買う

【認知症の人が見ている世界】見えていないものは思い浮かべられなくなる

【向き合い方】

「いつも同じものを買ってしまうということは、それがないと不安なんです。一緒に買い物に行き、“私が買っておくから大丈夫だよ”と声をかけてあげたり、財布の目立つところに“牛乳は冷蔵庫に〇個あり”とメモを貼っておくのも手です」(尾渡さん)

【症例6】徘徊する

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