高血圧・心筋梗塞のリスクが高い環境とは?「職場がうるさい人」は要注意【医師監修】
慌ただしい毎日や家庭、仕事での人間関係、小さなトラブルなどで気づかぬうちにストレスを溜めている人も多いはず。ストレスを感じる環境に長く居続けると自律神経が乱れて血圧が上がりやすくなるといわれている。研究データから調査した専門家も警鐘を鳴らす「血圧を上げるNGな行動」を紹介する。
喜怒哀楽が激しすぎると死亡リスクを高める
同じように食べるものに気を配り、生活習慣を改善し、汗を流す生活をしている人でも、身を置く環境が異なれば血圧の数値は大きく変わる―過去の多くの研究データが指し示すのは「騒音と血圧」の相関関係だ。
「普段から騒音に曝露される生活をしていると、無意識のうちに交感神経が刺激されて、血圧が上昇します。騒音が原因で脳血管障害や心筋梗塞になることもわかっています。職場や自宅の近くに大きな道路や空港があって騒々しいとか、夜も起こされるという環境なら注意が必要です。自分はうるさいと思っていなくても、就寝中、知らず知らずのうちに反応してしまうだけでも血圧は上がります」(群星沖縄臨床研修センター総合診療医の徳田安春さん)
外的要因に加え、自らの内面の波乱も血圧を上げるリスクファクターとなりうる。『ズボラでもみるみる下がる 測るだけ血圧手帳』著者で、日本歯科大学内科客員教授の渡辺尚彦さんは“怒り”から脳卒中を発症し、亡くなった患者もいると話す。
「電話口で娘さんとけんかしたお母さんがその後すぐに脳出血で亡くなってしまったことがあります。これは怒りに限ったことでなく、喜怒哀楽すべてに言えることであり、興奮するとアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されて、血管が収縮して血圧が上がります。小さい声で笑うよりも、大声で笑った方が上がりやすい。昔、プロレスを見て興奮して亡くなった高齢男性もいました」
翻っていえば、感情を安定させることができれば血圧は下がっていく。ナビタスクリニック川崎の内科医の谷本哲也さんは瞑想を推奨する。
「瞑想は軽めの薬と同じくらいの降圧効果が期待できるという研究があるので、ぜひ日常生活に取り入れてほしい。心と体をリラックスさせて何も考えない時間を持つようにすると、ストレスが減って血圧も下がっていきます」(谷本さん)
おひとりさまの高齢者は血圧が上がりやすいというデータも
身近な人の死、離婚、家庭や仕事のトラブルなど、ライフイベントによる変化が与える影響も大きい。
「ストレスがたまるとストレスホルモンの『コルチゾール』が出て、血圧が上がります。過労もコルチゾールを増やすので、ワークライフバランスには気をつけましょう」(徳田さん)
京都大学大学院医学研究科社会疫学の井上浩輔さんらによる研究でも、ストレスホルモンが高血圧と密接に関係することがわかっている。いま現在の血圧が正常値でもストレスホルモンのレベルが高い成人では、低い成人と比べて、6~7年以内に高血圧になりやすいとする結果が報告された。とはいえ、無感動で単調な生活が血圧の数値を安定させるかというとそうではない。
「生き物にとってストレスは生存のために必要なもの。昔は、猛獣に襲われるような命の危険がある環境で、ストレスで神経を高まらせているからこそ、とっさに反応できて逃げられていました。現代社会でも、家庭や仕事である程度のストレスを感じるのは仕方がないこと。ストレスや感情の高まりをうまくコントロールすることが大切です」(谷本さん)
実際に対人ストレスのないはずのひとり暮らしの高齢者は血圧が上がりやすいという。また、韓国の研究では、ひとりで食事をとる高齢女性は心疾患リスクが高いというデータもある。
「孤独が認知機能や精神に与える影響は以前からいわれていましたが、高血圧との関係も注目されています。特にひとり暮らしの高齢者は、食事がおざなりになるなど、生活スタイルの乱れが血圧を上げる可能性があります。毎日家で適当に食事をすませてしまうという人は、たまにはお弁当を持って公園で食べるなど、気分転換して血圧を下げる行動をうまく生活に取り入れましょう」(谷本さん)
あなたの行動が未来を変える。年をとると血圧が上がるのは仕方がない、薬をのんでいれば下がるからなど安易に考えるべからず。食事や行動の一つひとつが血圧の数値にかかわっていると意識することが、何よりの降圧効果と健康をもたらすのだ。
血圧を「上げる」「下げる」環境7選
※対象や行動など/リスク/研究・調査内容、原因・理由など
【1】デスクで深呼吸する人/血圧が40mmHgダウン
渡辺さんの研究によると、鼻から肺いっぱいに空気を吸い込み、その4倍の時間をかけて吐き出すとすぐに30~40mmHg下がったという。
【2】コンビニの近くに住んでいる人/心筋梗塞リスクが34%アップ
米ノースウエスタン大学が発表(2019年)。自宅から3km以内のコンビニ比率が10%上がるごとに、心筋梗塞の原因となるアテローム性動脈硬化症リスクが上昇した。
【3】職場がうるさい人/高血圧リスクが24%アップ
米疾病予防管理センターが2万2906人を対象に調査(2018年)した結果、1日に4時間以上、非常に大きな音にさらされた日が週に数日以上あった人は高血圧リスクが24%高まることが明らかに。
【4】自宅付近がうるさい人/心筋梗塞リスクが72%アップ
米ニュージャージー州の調査(2022年)による。空港や高速道路など騒音のある場所の付近に自宅がある人はそうでない人よりも心筋梗塞の発症率が72%も高い。
【5】1人で食事をする女性/狭心症リスクが2.58倍アップ
韓国国民健康栄養調査にて「孤食群」と「共食群」に分けて調査(2021年)を行ったところ「孤食群」はあらゆる病気のリスクが高く、とりわけ狭心症のリスクが上がることが明らかに。
【6】ストレスを感じることが多い/高血圧リスクが21%アップ
京都大学の研究(2021年)によると、ストレスを感じることが多い人はそうでない人よりも6~7年早く高血圧になりやすく、またリスクも高いことが明らかに。
【7】離婚歴2回の女性/心筋梗塞リスクが77%アップ
米デューク大学の2万人追跡調査(2015年)による。離婚歴1回であっても24%リスクが上昇する。
教えてくれた人
徳田安春さん/群星(むりぶし)沖縄臨床研修センター総合診療医、渡辺尚彦さん/日本歯科大学内科客員教授。『ズボラでもみるみる下がる 測るだけ血圧手帳』著者
取材・文/戸田梨恵 取材/奥窪優木、小山内麗香、田村菜津季、三好洋輝 写真/PIXTA
※女性セブン2023年7月20日号
https://josei7.com/
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