脳の熱中症に注意!暑さ、ストレス、考えごと…働き過ぎると脳は熱くなる【医師解説】
ワクチンの接種はもう始まっているというのに、ほとんどの人が今夏もマスクの下を汗だくにして過ごさなければならない。熱中症も危険だが、実はもっとおそろしいのは、脳が熱中症になることだと、専門医は警鐘を鳴らす。
熱中症の疑いがあるときは、わきの下や首など、太い血管のある場所を冷やすといいといわれるが、それだけでは安心できない。実は、最もおそろしいのは、脳が熱中症になることなのだ。
東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身さんは、脳の温度が上がることは、体の熱中症以上に命にかかわると話す。
「体中のすべての器官は、使えば使うほど血流が上がって熱を持ちます。その中でも、脳は最も血流が激しく、最も発熱しやすい器官です。パソコンやスマホを長時間使っていると熱くなるように、頭を使いすぎると、頭の中、すなわち脳が熱くなるのです」
TH東洋総合治療センター代表の外山仁さんは、今年の夏はさらにこの「頭部内熱(脳の熱)」で不調を抱える人が増えるのではないかと話す。
「脳の熱は、夏の暑さはもちろん、ストレスによっても上がります。緊急事態宣言が発出され、人々は真夏の暑さの中、これまで以上のストレスを抱えて過ごすことになる。さまざまな悩みに頭を使いすぎて、脳が“オーバーヒート”を起こしやすくなるでしょう」
まるでブラック企業! あなたの脳も働きすぎ
そもそも、脳が熱を持つとはどういうことか。
「頭にくる」「頭に血がのぼる」といった言葉のあやではない。実際に、脳は常に熱をつくり続けており、その熱をうまく冷ませなくなることこそが問題なのだ。
脳は、全身の器官が安定して機能するよう、休みなく指令を出し続けている。脳の細胞が活動するのに不可欠なエネルギーは、主に酸素とブドウ糖からつくられる。
「脳は、常に大量の酸素を燃焼して細胞のエネルギーをつくっています。脳がエネルギーをつくるとき、副産物として『熱』と『活性酸素』が生まれる。これが、脳が熱くなる原因です。鼻や口から吸い込んだ酸素のうち、1~2%が活性酸素になる。活性酸素は体内に侵入したウイルスを分解するなど、よい働きもしますが、それと同時に、ウイルスだけでなく、自分の体の中の正常な細胞まで、見境なく攻撃するのです」(梶本さん・以下同)
活性酸素は、細胞を酸化させて、炎症を起こす。老化を早める物質としても知られ、ストレスや紫外線、喫煙などによっても発生する。脳が過活動になり、過剰な活性酸素によって細胞に炎症が起きると、傷ついた細胞の働きが悪くなるため、全身のパフォーマンスが低下する。さらに、自律神経の乱れも招くという。
「自律神経の中枢である『視床下部』は、鼻の奥、鼻腔の上にあります。脳から体の各器官への指令は、視床下部から末梢に向かう交感神経および副交感神経(いずれも自律神経)によって届けられる。
自律神経は、心拍、血圧、呼吸、血液循環、消化吸収、発汗、睡眠と覚醒など、生きるために不可欠なすべての活動を24時間365日、休まず管理しています。ただでさえ働きづめなのに、全身の機能が低下していると、脳は生命維持のために“もっと全身の細胞や臓器を働かせろ”と、自律神経に指令を出します。
そうして自律神経の中枢が疲弊すると、さらに熱と活性酸素が生まれ、どんどん脳に熱がたまっていくのです」
脳は文字通り、酸素を燃料にして、休まず働き続けているのだ。
「日本人は、『思考起因の頭部内熱』を抱える人が多い。つまり、あれこれ考えすぎて、脳に熱がたまるのです。スマホやパソコンを使っているときは、たとえゲームやSNSで遊んでいるつもりでも、脳は画面からの刺激を受けながら、膨大な量の情報を処理するという“仕事”をこなしている。また、長時間画面にくぎづけになっていると、無意識に呼吸が浅くなっていることが多い。これでは脳の燃料である酸素が不足し、脳が充分に働かなくなります」(外山さん・以下同)
外山さんによれば、頭部内熱には、感情に起因するものもある。
「緊張状態になると呼吸がうまくできなくなるのと同じように、人間関係や仕事、家庭のストレスが続くと、充分な呼吸ができず、酸素不足に陥る。ストレスは自律神経の乱れも招くので、脳にとっては2倍のダメージです」
例年通りの猛暑にコロナ禍のストレスが加わり、天候不順に東京五輪強行…今年の夏は、脳にとっては過去最悪の環境になるかもしれない。
教えてくれた人
梶本修身(おさみ)さん/東京疲労・睡眠クリニック院長
外山(とやま)仁さん/TH東洋総合治療センター代表
※女性セブン2021年7月29・8月5日
https://josei7.com/
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