認知症の母がまだ乾いていない洗濯物を取り込んでしまう!息子が新たに考案した干し方の秘策
岩手・盛岡に暮らす認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。認知症の進行により要介護4となった母だが、できる家事はなるべくやってもらうようにしている。しかし、洗濯物に関して長年解決しない問題があるという。新たに考えた洗濯物にまつわる対策とは?
認知症の母と息子の小さな争い
わが家では何年にもわたって、母と息子の小さな小さな争いが続いています。その争いの正体は“洗濯物”です。
わたし:「ちょっと!ダメ!まだ洗濯物乾いてないから、触らないで!」
母:「何が!乾いているから取り込んだの!」
わたし:「ほら、触ってみて!まだ濡れているでしょ?」
母:「これくらい乾いていれば、大丈夫なの!」
母は洗濯物を見つけたら、乾いている、いないに関わらず洗濯ハンガーから外して畳んでしまいます。わたしはパリッと乾いた状態の洗濯物であって欲しいので、母の行動をいつも阻止していて、その小競り合いが何年も続いているのです。
→認知症の母の洗濯物にまつわる謎の行動に息子が取った対策 生乾き臭と消えた靴下の行方
洗濯物の生乾き臭ともうひとつ大きな問題が!
乾いていない洗濯物を畳むと、強烈な生乾き臭が服や下着、タオルなどからするようになります。最もひどかった時は、濡れたままのタオルが畳まれた状態でタンスの中から見つかりました。
生乾き臭のほかに、もうひとつ大きな問題があります。それはせっかく洗濯してキレイになった衣類を再び汚してしまうことです。母は手足が不自由で、家の中を歩くときは両手を使って、テーブルや壁を手すり代わりにして歩きます。
しかし洗濯ハンガーを持っているときは、両手は使えません。片手は壁に手をつき、もう一方の手には洗濯ハンガーを持って、濡れた洗濯物をズルズルと引きずりながら、床のゴミをキャッチして歩くのです。まるで床の拭き掃除をしているかのようです。
認知症がまだ軽度の頃の母は、口頭で注意すれば理解してくれる日もありました。しかし重度まで進行した今は、母の本能のまま行動するので、あらゆる注意喚起の効果はありません。そこで、初めから母の目の届かない場所で洗濯物を干せばいいと考えました。
帰省中は、母から見えない場所、2階にあるわたしの部屋で洗濯物を干し、乾いたら母のところへ持って行って畳んでもらうようにしていました。
それでも天気のいい日は日光のたくさん当たる場所で洗濯物を干したいので、外にある物干しに洗濯物をかけていたところ、居間に居る母は洗濯物が風で揺れる音や影の動きで気づいて、やっぱり生乾きのまま洗濯物を取り込んでいました。
特に梅雨シーズンは部屋干しが増えるので、しっかり洗濯物を乾かす必要がありますが、どうしても母は乾いていない洗濯物を取り込んでしまうのです。
なぜ乾いていない洗濯物を取り込むのか?
数年前、母に乾いていない洗濯物を取り込む理由を質問したことがありました。
母:「お客さんに洗濯物を見られたら恥ずかしいじゃない」
確かに部屋干しを見られたら恥ずかしいです。でも来客のほとんどは介護職の方で、洗濯をお願いしているくらいです。おそらく恥ずかしさよりも、母親として長年染みついた習慣だけで、反射的に動いているのかもと思うようになりました。
5人家族全員の洗濯物を一手に担ってきた母にとって、洗濯物があったら取り込んで畳むのはルーティーンであり、どんなに認知症が進行していても母親としての役割は忘れていないのだと思います。
また時間が分からない問題もあります。わたしなら洗濯物を干し始めた時間を覚えているので、乾く時間もだいたい予測できます。しかし母にはその感覚がないので、干した直後でも取り込もうとします。
おそらく自分が忘れないうちに、気づいた家事は終わらせようという気持ちが強いのかもしれません。
新しく室内に物干しを設置
昨日干したはずの洗濯物が、いつの間にかなくなっていることに、ヘルパーさんもびっくりしていました。わたしの帰省中は2階に干せばいいのですが、ヘルパーさんが洗濯をしてくださるときは、普通に部屋に干します。すると母がせっせと取り込んでしまう…。母の習慣はヘルパーさんにお伝えしたのですが、根本的な解決にはなっていません。
改めて、母に見つからない場所で、洗濯物を干せないかを考え始めました。
まず家の外に新しく物干し竿を設置しようとしたのですが、いい場所がありません。また、ヘルパーさんの滞在は1時間しかないので、洗濯物を干すことはできても、取り込むのは翌日になります。
外に干すと雨に濡れたり風で飛ばされたりする可能性があるので、室内に新しく干す場所を作ろうと考えました。
物置のようになっていた縁側の廊下を掃除して場所を確保し、床と天井を2本の突っ張り棒で支えつつ、物干し竿を通したのです。
新しい物干し竿の場所は母が多くの時間を過ごす居間とは距離があったので、濡れた洗濯物を取り込む回数は減りました。しかし物干し竿の近くのカーテンの開け閉めの際、まれに洗濯物に気づく日があって、洗濯物をズルズルと引きずる映像が見守りカメラに映っていました。
そこで、さらに洗濯物を隠すための「のれん」をつけてみました。まずは40年以上前から使っていたボロボロののれんでテストをしている最中で、効果があればきれいなのれんを購入しようかと思っています。
本当は乾燥機があればこうした悩みから解放されるのですが、見積もりを取ったら工事費込みで20万円近くしたので保留にしています。母が生乾き臭を振り撒いてデイサービスに行くことのないよう、更なる工夫を重ねていくつもりです。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。