「血圧が高い」の基準は?医者が教えない本当の正常値「同じ数値でも人によってリスクは違う」(専門家解説)
健康診断で高血圧と診断され、定期的に病院に通って薬をもらいながら食事の塩分量に気を使って生活する日々。年を重ねれば誰もがこの国民病から逃れることはできない。しかし、それは本当にあなたの体をむしばむ“病気”なのだろうか。
血圧が基準値を超えたら本当に危険?
「75才以上の7割以上が“異常”に分類される基準値って、そもそもおかしいと思いませんか?」
“高血圧の壁”について、疑問を投げかけるのは生物学者で評論家の池田清彦さんだ。
「統計学では正規分布で最も数が多い人が『正常』、そこから外れた少数が『異常』と分類されます。しかし高血圧ではそれが逆転して、『正常』が圧倒的に少数派。統計学的に言えば明らかに間違いです」(池田さん)
現在の診断基準値は、収縮期血圧(上の血圧)140mmHg、拡張期血圧(下の血圧)90mmHg。それを超えると「高血圧」として薬が処方されるが、この基準を超えたら本当に体に危険がおよぶのだろうか。
血圧の規定は年々厳しくなっている
そもそも、何をもって基準値は定められているのか。池田さんは時代とともにその規定は厳しさを増していると話す。
「かつては上160mmHg以上、下95mmHg以上が高血圧とされていましたが、1999年に世界保健機関(WHO)と国際高血圧学会(ISH)が新しいガイドラインを策定し、140mmHg/90mmHgと決めたことで、大幅に数値が厳しくなった。この数値の変更により、高血圧患者が圧倒的に増えました。医学的見地からの説明などはなく、世界のガイドラインが変わっただけでそれまでは正常とされていた人が急に病人扱いされるのはおかしな話です」(池田さん)
東海大学名誉教授で大櫛医学情報研究所所長の大櫛陽一さんは、「高血圧の基準は科学的な方法ではなく、“各学会や製薬会社ファースト”で決められている」と指摘する。
「厳しい基準の裏には、高血圧に該当する患者を増やしたいという思惑があります。基準値を低く設定すれば、“治療が必要”と診断される人が増えるため、より多くの薬が使われ、製薬会社は莫大な利益を得ることができる。製薬会社から利益供与を受ける医師たちが基準値作りにかかわっているため、本来あるべき値よりも低い基準値が設定されていると推察されます」(大櫛さん)
健康な人は血圧が上がっても戻せる
一時的な数値だけで判断することもナンセンスだと大櫛さんは続ける。
「正常か異常かの本当の違いは、値がもとに戻る『復元力』があるかないかにある。一日の中で、血圧は大きく変動しており、寒さや緊張で上がる一方、暖かいところで安静にしていれば下がります。健康な人であれば日中測ったときに異常値が出てしまったとしても、就寝前、眠くなった状態で測れば下がっていることが多いのです。
しかし、いまの基準値では復元力を見ることができないため、本来ならば健康体な人も、一時的に出てしまった異常値だけで“異常あり”と診断されてしまうこともある。
私の70万人の健診結果からの統計的分析では、女性の収縮期血圧正常値は30代で130mmHg以下、40代で140mmHg以下、70代では165mmHgまで正常範囲といえる。また、健診時の血圧と家庭血圧では、健診時の血圧は高い傾向があり、市販の自動血圧計では誤差が大きいので『医療機器』表示の機種を選んでください」
つまり、一度の健康診断で計測した数値だけで「病気のリスクあり」と判断し、病人扱いするのは大きな間違いなのだ。特に女性はホルモンの影響で年を重ねると体に異常がなくても血圧が高くなる人が多い。池田さんは、そもそも年齢とともに血圧が上昇するのは自然現象だと話す。
「生物学の観点からいえば、老化すると血管に弾力がなくなって血管が広がりにくくなるため、同じ量の血液が流れても、必然的に血圧は上昇します。体質による違いもありますが、50才を過ぎたら血圧は上がるのが自然です」(池田さん)