「血圧が高い」の基準は?医者が教えない本当の正常値「同じ数値でも人によってリスクは違う」(専門家解説)
誰にでも起こりうる一時的なものなのか、それとも脳や心臓に病気を招くものなのか。計測された数値の背景に何があるかによって、「高血圧」の意味合いは大きく異なってくるといえる。
ナビタスクリニック川崎の内科医・谷本哲也さんは、血圧の数値だけに振り回されるのはおかしいと指摘する。
「確かに高血圧は将来的に脳卒中や心疾患のリスクがあることは事実です。だから、高い人はある程度まで下げた方がいいというデータは有力です。ただし、年を重ねるほど個人差も大きくなり、同じ血圧でもふらつきが出る人もいれば出ない人もいる。画一的に十把一絡の基準値で線引きするのではなく、患者のさまざまな背景ごとに個別化し、ベストな血圧を考えていくことが大事です」(谷本さん・以下同)
実際に谷本さんは高血圧診療時、「正常値の上129mmHg以下が理想」などといっしょくたにせず、患者の体質や持病によって対処法を細かく変えているという。
「脳卒中や心疾患のリスク因子が低い人もいれば高い人もいるため、個人のリスク因子もチェックします。例えば、喫煙、脂質異常症、血管系の既往歴、糖尿病、腎臓病がある人は、しっかり血圧を下げておいた方がいい。遺伝的要因もリスク因子に関係するため、脳や心臓の病気が多い家系の人も注意が必要です。しかし、持病もなく、家族や親族に関連する病気にかかった人もおらず、ただ血圧が高いだけなら、数値にもよりますが血圧の管理は甘めにしておくという判断もできます」
★同じ数値でも人によってリスクの高さは違う
同じ数値であっても、リスクの度合いはその人の持病によって異なる。
血圧分類
高血圧(130-139/80-89mmHg)|Ⅰ度高血圧(140-159/90-99mmHg)|Ⅱ度高血圧:160-179/100-109mmHg|Ⅲ度高血圧:≧180/≧110mmHg
リスク層
リスク第一層(予後影響因子がない)…低リスク|低リスク|中等リスク|高リスク
リスク第二層(年齢・65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかがある)…中等リスク|中等リスク|高リスク|高リスク
リスク第三層(脳心血管病既往、非弁膜症性心房細動、糖尿病、蛋白尿のあるCKDのいずれか、または、リスク第二層の危険因子が3つ以上ある)…高リスク|高リスク|高リスク|高リスク|
自己判断は禁物
「医師に相談しながら、最適解を探っていくことをすすめます。病院に何度か通って、薬を服用した後の変化などを話しながら、医師とともに“理想の血圧”に体を調整していくといいでしょう。基準の数字は指標として重要ですが、一般的な目安であり、絶対ではありません。薬をのんでいて気になる点があれば、必ず医師に伝えてください」
画一的な数値に惑わされずに、自分の体の声を聞くことがベストな血圧を見つける鍵になるのだ。
「自分の体と向き合って、大体の血圧を知っておくのは大事です。私は少し高血圧気味で、上の血圧が145mmHgくらいです。でも体調が悪いかと言われればそんなことはなく、これがいまのところ自分にとってちょうどいい数値だと思っています。むしろ低くなると調子が崩れるのですが、それも個体差がある。毎日、血圧を測っていれば大きく上下した際の体調の変化にも気づくことができて、適切な治療を受けることにつながります」
加齢とともに誰しもが通る高血圧の道。まずはその数値が本当に“病気なのかどうか”を疑うことから始めたい。
教えてくれた人
池田清彦さん/生物学者・評論家、大櫛陽一さん/東海大学名誉教授・大櫛医学情報研究所所長、谷本哲也さん/ナビタスクリニック川崎・内科医
※女性セブン2023年6月1日号
https://josei7.com/
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