女優・南果歩さん、吉行和子さんが語る「おひとりさま生活」を楽しむ秘訣と心の持ち方
人と触れ合うことによってメンタルを高めエネルギーを発散するおひとりさまもいれば、真逆の生活を謳歌する女性もいる。
「こんなこと言ったら不謹慎だけど…」
と小声で語るのは、30代で離婚してから、半世紀近くひとり暮らしを続ける女優の吉行和子さん(87才)。
「コロナで人との集まりができなくなって、実はすごく安心したんです。別に周りの人のことを嫌いじゃないし頼りにしているけれど、“みんなで一緒にやらなきゃ仲よくない”との風潮が本当に苦手なんです。社交嫌いだから、会合に呼ばれてもコロナを理由に行かなくていいことがうれしかった」(吉行さん・以下同)
NHK連続テレビ小説『あぐり』のモデルにもなった日本の美容師の草分け的存在でもあった吉行さんの母は、常に自分の仕事に全力投球。必要以上に子供に構わず、一般的な一家団らんとも無縁だった。吉行さんはそんな母の性格を受け継いだのだと笑う。
「自分の人生において、なるべく人を頼りたくないんです。別に何か人間関係で嫌なことがあったというわけではなく、子供の頃から、身内に対してもそうなんです。学校でよく貧血を起こして倒れていたので、あるとき先生がうちにみえて、母に『どうしてお子さんは貧血に?』と尋ねたときも、母は私がそんな状態になっていることをまったく知らなかった。私も別に隠しておこうと思ったわけじゃなくて、母に相談したり報告したりしようという頭がなかった。母も母で、『どうして言ってくれなかったの』と心配することも一切なくて、不思議な親子関係でしたね」
人に頼らず社交嫌いを自認する吉行さんは、必要以上の人間関係を求めないという。
「長く一緒にドラマをやった女優さんから『撮影が終わって寂しいから、今度家に遊びにいっていいですか』と聞かれたとき、『困るわ』って言っちゃったほど。その女優さんは傷ついたらしく、それ以来廊下で会うと避けられます(苦笑)。長いつきあいがある親友の冨士眞奈美のことも家に招いたことはない。何しろウチにはお客さん用のコップすらないから。だけどそんな私を許してくれるなら、私もその人を大切にしたいなと思う」
今日の夜、何を食べるかといった些細なことから、終の住処をどうするかまで、おひとりさまの生活は選択の連続。人を頼らず、決断はひとりでするという吉行はすべての選択を「自分が楽しいかどうか」を軸に決めているという。
「そういう意味では、究極のエゴイスト(笑い)。私のおひとりさまは年季が入っているから、この年齢になってもまだ面白いことがどこかに転がってないかなと、ずっと探しています。いまは自分が選んだ女優の道で仕事をしているときがいちばん楽しい。家でじっとしているとき“あー、ひとりでよかった”と心から思います。たまに『ひとりで寂しくないですか?』と聞かれることもあるけれど、夫が浮気していて腹が立つ、子供や孫が会いに来なくて寂しいという愚痴を散々聞いてきた身としては、誰かといたって人は孤独だと思う。その孤独をどう生きるかはやっぱり自分次第なんだと思います」
吉行さんとはベクトルが正反対の南さんも、「充実したシングルライフのためには自分で決めることが大事」と話す。
「パートナーがいたときは相手に聞いてから物事を決めていたけれど、いまは自分の意思で決めています。おひとりさまになりたてで何をどう決めればいいかわからない人も、『今日はお散歩を30分』『お昼はあの店でランチしよう』と小さなことから実行していけば、自分で決めることに慣れてくるはずです」(南)
強い芯を持ち、常に前を向いて歩き続ける2人の生き方には、おひとりさまが真似すべきポイントが多くありそうだ。多くの独居女性の相談に乗っているOAG司法書士法人代表の太田垣章子さんが語る。
ひとりで楽しく生きる女性の共通点は「ポジティブなこと」
「70代を越えてもひとりで楽しく生きる女性の共通点は“明るく前向きで、ポジティブ”なこと。そして、“孤独を恐れないこと”です。もちろん最悪の事態を想定して対処法を考えておくことは大事ですが、過去を振り返りすぎたり、悩みすぎるとその先の人生全体が不安感に包まれてしまいます」
先の見えないいまの世の中で実践するのは決して簡単なことではない。特に夫に先立たれるなど本意ではない形でパートナーを失ったならば、そのハードルはかなり高いといえる。
シニア生活文化研究所代表で配偶者に先立たれた人々が交流する「ボツイチの会」もまた、この困難な課題に直面している。自身も働き盛りの夫を突然死で失った小谷みどりさんは、「ボツイチの会のテーマは、“死んだ夫の分も2倍人生を楽しむ”です」と語る。
「夫の死をどう受け止めるかは妻の考え方次第です。悲しい思いを抱くよりも、これからは夫の分もおいしいものを食べよう、美しい景色を見ようと思い、毎日の時間を自分のためだけでなく、亡き夫のためにも生きているんだと思えれば、前へ進もうという勇気がわいてくるはずです。最初はそう思えなくても、同じ境遇の女性に話を聞いてもらううちに『不幸なのは自分だけでない』と気づき、徐々に前向きな気持ちになることができます」
ボツイチの会の会員にひとりで外食できない女性がいた。昨年、この女性は一念発起して「ひとりでご飯を食べられるようにする」との目標を掲げ、勇気を振り絞って実践してみた。ディナーはハードルが高いため、まずはモーニングにトライした。
「喫茶店に行ってみたら、モーニングを食べに来ている人はほとんどひとりだということがわかった。朝から喫茶店でモーニングを食べて本を読むのがとんでもなく幸せでぜいたくな時間だと気づいて、“私はなぜいままで避けてたんだろう”と思ったそうです」(小谷さん)
夫がいない世界で感じる自由。それはつらくて寂しいものではなく、「素晴らしいご褒美」であると小谷さんは言う。
「ひとりで自由に過ごせる時間は年を重ねた女性に与えられたご褒美です。ひとりになったのだから、再婚しようが彼氏を作ろうが自由なんです。それまでできなかった夢に挑戦してもいい。おひとりさまの時間は決してネガティブではなく、ポジティブなものです」(小谷さん)
人生の長い後半戦を「素敵なご褒美」に変えられるかどうかは、あなたの心の持ち方次第なのだ。
教えてくれた人
南果歩さん/女優、吉行和子さん/女優、太田垣章子さん/OAG司法書士法人代表、小谷みどりさん/「ボツイチの会」主宰
文/池田道大 取材/小山内麗香、桜田容子、田村菜津季、戸田梨恵、辻本幸路、平田淳、三好洋輝
※女性セブン2023年5月11・18日号
https://josei7.com/
コラムニスト・朝井麻由美さん『ソロ活女子のススメ』作者が明かすおひとりさまの極意