猫が母になつきません 第352話「みつになる」
これまではそれぞれ別の部屋で過ごす時間が結構ありました。母は居間で、私は自室で。でも母から目が離せなくなってきて、知らない間に外に出ていたなどということがないように基本的にわたしの部屋で一緒に過ごすことにしました。「エアコンの電気代がもったいないから」というと母は素直に従って、仕事をしている私の横でお茶を飲んだり、テレビを見たり。基本的にはずっと何かをしゃべっているのですが、私はほとんど馬耳東風。猫耳はちょっと迷惑そうですが動物の間というのか、さびは最近母の様子が変だということをちゃんと察知していて、母が来ても逃げずにそばにいてじっと見守ってくれるようになりました。そんなわけで気がつけばひと部屋のかたすみに家族全員集合。そのスペース、ほぼたたみ一畳分。実際電気代の節約にもなるでしょう。とはいえこんな生活をいつまでも続けることは無理です。母が大真面目に「お父さんは?」と亡くなった父の所在を聞いてきたのが二ヶ月前。認知症ではありましたが、母はあの日深い裂け目に落ちてしまったかのように突然ガクッといろんな認識が曖昧になり、私がどんなに手を伸ばしても届かなくなりました。それは予想外に急でした。これから母と私の暮らしは変化する。準備も始めています。その前にあるこの密な時間。だから密に。もっと密に。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。