兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第187回 アレを楽しくお片付けできる日がくるのか】
ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症の兄と2人暮らし。マナミコさんを悩ます大きな問題の一つが、兄の排泄です。大きい方も小さい方も…です。今回は、朝から大きい方で、またまた試練が訪れたというお話です。
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新調したばかりの羽毛布団の上で起きた悲劇
こんにちは。リハビリパンツの中に綿のパンツを穿いてしまう兄と同居中のツガエでございます。順番がわからないだけじゃなく、綿パンツの方が100倍気持ち良いことを肌が感じているのだろうなと思うと、すぐに穿き替えさせるのは気が引けてしまいます。今は気温が低いのでいいですが、夏のリハパンは蒸れて、わたくしは去年夏1日お試しでギブアップでした。みなさん、夏もずっとリハビリパンツなのでしょうか?
昨日の朝は、自室を一歩出た瞬間からお便さま臭がしておりました。「やっちゃってるな…」と思いながら、朝のルーティンを済ませ、兄を起こしてリビングで朝食を食べさせている間に兄の部屋を覗きに行きました。すると2カ月半前に新調したばかりの羽毛の掛け布団の上に、泥のようなお便さまが鎮座していらっしゃるではありませんか。
掛け布団カバーはしておりますが、とろりと柔らかいお便さまは中身のお布団に浸透していることは明らか。仕方ない。仕方ない。仕方ない。
いつもお尿さまが入っているゴミ入れのポリ容器にも内側外側にお便さまがベットリと付き、床にも、シーツにも点在しております。ふと見ると物陰にお便さま付きのリハパンが無造作に脱ぎ捨てられておりました。脱ぐのに手間取り間に合わなかったのでございましょう。兄なりに努力したのかもしれません。
点在するお便さまを踏まないように注意しながら、掛け布団の上の軟らかいお便さまをゴム手袋の手ですくい取りました。なんとも言えない感触。兄の排泄物を手のひらですくう妹の図が俯瞰で見えて、「そんな人生もあるんだわ」と映画を観るような思いでございました。
その後、カバーを剥ぎ、洗面所で下洗いをし、洗濯機へ。シーツも同様にお洗濯いたしました。カバーを通り抜けたお便さまの水分は羽毛布団に黄色いシミを作っておりました。丸洗いはできないので、しばし外干し&ファブリーズ「シュッシュッ」。真新しいふかふかの羽毛布団にできたシミを眺めて「仕方ない」を呪文のように繰り返しました。
その後、床掃除とゴミ入れのポリ容器を洗い、紙パンツの処理などを淡々とこなして、静かに食卓につきました。兄がリンゴを食べるシャクシャクとした咀嚼音を聞きながら「それがお便さまになったときにはどうかトイレに」と祈りました。
思えば、失敗をするときはたいてい泥状でございます。立体的なバナナスタイルをキープしたお便さまが不適切な場所にあったことは数えるほどしかございません。
やはり、緊急時に対応できないのでございましょう。リハパンの中でしてしまった場合、まともに脱ごうとしたら必ず幾ばくかのお便さまはこぼれてしまうでしょうし、サイドを破いて前後からお便さまを挟むようにしてこぼさないように抜き取るなどという高等技術を兄ができるわけもございません。
処方された整腸剤は毎日飲んでおりますが、どうしても緩くなるときはあるものです。栓をするわけにもいきませんから、お便さま掃除はわたくしのライフワークと思うしかございません。お便さまにしろお尿さまにしろ、排泄物のお片付けは何回やっても楽しくない。「いい加減に慣れろや」と我ながら思います。いかに楽しくお片付けをするか、それが今後の課題でございます。
今日はひとつだけいいことがございました。わが町唯一の書店が閉店して1カ月。跡地に別の書店が入るというお知らせが目に入ってまいりました。しかも、それがなんと、あの由緒正しき日本屈指の老舗書店さま。わが町にあの書店ができるとは光栄の至り。来月オープン予定でございます。書店ジプシーになり途方に暮れていたツガエでしたが、お蔭さまでV字回復いたしました。ただうろつく楽しみを謳歌するだけでなく、そこでお金を使わないと、いつか本当に町から書店がなくなってしまうのだなぁと痛感した早春でございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現64才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ