筋トレとあるものを組み合わせると「筋肉を作るスイッチが入りっぱなしになる」!?
夜寝ている間や空腹のときには全身の筋肉が分解され、徐々に減っていく――。
そんなショッキングな事実を紹介したのは、立命館大学 スポーツ健康科学部教授の藤田聡先生。
「筋肉は24時間、合成と分解をくり返しています。食事をしてたんぱく質が補給され、血液中のアミノ酸濃度が高まると、筋肉は合成されます。その一方で、空腹の時間には筋肉が急速に分解されて、エネルギー源として使われてしまうのです」(藤田さん、以下「」内同)
若いうちは、1日の間に起こる筋肉の合成と分解がプラスマイナス0なので筋肉は維持できる。しかし、年齢を重ねると筋肉を合成する力が衰えるため、分解される量のほうが多くなる。これが、加齢とともに筋肉が減る理由の一つだ。
70代からは筋肉量の減少が加速する
「筋肉の量は20〜30歳代にピークとなり、年齢とともに徐々に減ってきます。とくに70代からは減少が加速して、筋肉の量、質ともに低下していきます。この年代になる前に筋肉をたくさん作り、維持することがサルコペニア(※)の予防には不可欠です」
※ サルコペニア……加齢や疾患により筋肉量が減少することで、全身の筋力低下および身体機能の低下が起こることを指す。
「ロイシン」が筋肉合成のスイッチを入れる
筋肉などを含め、体をつくる材料となるのが「たんぱく質」だ。肉や魚などたんぱく質を含む食材を食べると、消化されて「アミノ酸」という細かい分子に分解される。人間の体のたんぱく質を構成するアミノ酸は20種類あるが、そのうち9種類を「必須アミノ酸」という。必須アミノ酸は人間の体内で十分な量を合成できないため、食事から摂取しなければならない。
「たんぱく質を摂取して血中のアミノ酸濃度が高まると、筋肉の合成のスイッチが入ります。では、どのアミノ酸がスイッチを押す役割を果たすのか。これについては最近ようやくわかってきました。
まず、20種類すべてのアミノ酸を与えたときと、必須アミノ酸だけを与えたときを比べると、筋肉の合成速度はほぼ同じでした。さらにくわしく調べると、必須アミノ酸の一種『ロイシン』が筋肉をつくるスイッチを押す“トリガー(引き金)”であることがわかりました」
通常は、空腹のときは筋肉がどんどん分解される。しかし、空腹時であってもロイシンを摂取すると、逆に筋肉が合成される。ロイシンはそれほど強力なトリガーとなる物質なのだ。
しかし、高齢になるとロイシンに対する反応が鈍くなることがわかっている。
「ロイシンは牛乳や乳製品などに比較的多く含まれています。若い人なら牛乳を飲むだけで、筋肉合成のスイッチを入れることができますが、高齢になると若い人に比べてスイッチが入りにくくなるのです。
ですからまず、高齢者は食事で積極的にたんぱく質を摂り、必須アミノ酸、とくにロイシンをしっかり補給することが大切です。たんぱく質の摂取量が足りないと、せっかく運動をしても筋肉が増えなかったというデータもあります。食事だけでは不足しがちであれば、ロイシンを高配合した必須アミノ酸サプリメントを活用して、筋肉をつくるスイッチを入れる手助けをすることも検討しましょう」
運動後2日間、筋肉合成のスイッチがオンに
前出の図のように、食事すると一時的に筋肉が合成されるが、2〜3時間後には合成がストップし、空腹になると分解されてしまう。しかし、筋肉合成のスイッチを入れっぱなしにする方法がある。それが“筋トレ(レジスタンス運動)”だ。
「筋トレをすると、その1〜2時間後には筋肉の合成が急激に進むことがわかっています。しかも、一度筋トレをすると、その後2日間にわたって筋肉が合成されやすい状態が続くのです。これはすばらしい効果です」
ちなみに同じ運動でも、ウォーキングのような有酸素運動では筋肉合成のスイッチを入れられない。ややきつく感じるレベルの腕立て伏せやスクワット、腹筋運動などをすることが必要だ。
さらに筋トレをした後にロイシンを摂ると、筋肉の合成がさらに進むことが藤田先生たちの研究でわかってきた。
「ロイシンの摂取と筋トレは、別々に行っても筋肉の合成を高めることができますが、組み合わせることで相乗効果が期待できます。
以前は高齢になると体は衰える一方で、筋肉がつくはずがないと考える人もいましたが、最近の研究で、高齢になってもたんぱく質を摂り、筋トレすれば筋肉が増えることが明らかになっています。また、筋肉の量が多いほど、病気になったり入院したりした後でも速やかに回復するという報告もあります。少しだけ負荷を感じる運動を毎日コツコツ続けて、大事な筋肉を守り、育てていきましょう」
教えてくれた人
藤田聡さん/立命館大学スポーツ健康科学部教授
撮影/政川慎治 取材・文/市原淳子
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