入居前に判断!「ブラック介護施設」を見分ける10か条
逆に、“キレイ”だからいいというわけではないこともある。前出・小山氏によると、「何もなくてキレイ」な居室は怪しいという。
「例えば、転倒の危険があったり、徘徊してしまうような入居者の部屋の床には、『離床センサー』といって、ベッドの下にワイヤレスのマットを置き、それを踏むとナースコールなどで知らせる対策装置を使用しているところもあります。また、居室を見学した際に、壁の飾りや置いてある物などに、その人らしい部屋づくりを見ることができれば、個性や生き方が尊重されていることの判断材料になる。
逆にベッドと食事台など最低限のものが置かれているだけの殺伐とした居室だったら、入居者ひとりひとりが大切にされていないと考えられます」
職員同士の会話に聞き耳を立てる
いうまでもないが、実際に入居者に介護を施すのは施設の建物ではなく介護職員だ。介護職員の対応が悪ければ、最悪、入居者への虐待にもつながりかねない。社会福祉学者で淑徳大学教授の結城康博氏がいう。
「いくら施設の建物がきれいでも、そこで行なわれている介護の質が悪ければ意味がありません。介護を提供するのは職員ですから、職員が働く環境がどうなっているのか、介護現場の雰囲気をしっかり見ておく必要があります」
介護現場の実態をチェックするのは難しいが、見学の際にできるのは、職員にこと細かに質問することだ。
「細かい質問に職員がひとつひとつ丁寧に対応してくれるかどうかがポイントです。面倒臭がらずに答えてくれるかどうかは、入居者に対するひとつひとつのケアが丁寧なのかどうかの判断材料になります」(前出・小山氏)
もちろん見学者や入居者への丁寧な対応や言葉づかいも、“その時だけ”丁寧である可能性がある。そこでチェックしたいのが、職員同士の会話だ。見学者に対してはよそ行きの顔をしていても、見学とは関係のないところにいる職員同士の会話には“素”が出やすいからだ。
「職員同士が横柄な口のきき方をしているようなら、入居者に対しても横柄な態度を取る可能性があります。あとは職員の表情。楽しそうに働いているか、疲れてしんどそうにしているか。いっぱいいっぱいの状態で顔色が悪いようなら、働く環境が相当悪い」(前出・結城氏)
さりげなくシフト札をチェック
老人ホームは慢性的に人手不足に陥っているところが多い。
ある有料老人ホーム職員がすすめるのは、見学の際に「夜間は何人勤務体制か」を聞くことと、事務室の出勤札やシフト札をさり気なく確認することだ。
「入居者15人に対して2人の夜間体制ならある程度しっかりした対応をしてもらえるはずです。それ以下のところは心配ですね」(前出・ホーム職員)
施設見学時間を「午前11時半」に設定するのがおすすめ
職員の対応をチェックする上で有効なのが、見学時間を「午前11時半」からに設定することだ。食事の風景を見られるからだ。介護関連のセミナーなどを行なうケアタウン総合研究所所長・高室成幸氏はいう。
「自分で食べられない入居者の場合、職員が横について、きちんと口元まで持っていく食事介助が基本ですが、なかにはテーブルの片側に3人を座らせて、向かい側から機械的に一口ずつ順番にエサを与えるように食べさせている職員がいます。これでは入居者が喉に食べ物をつまらせてしまいます。
また、赤ちゃんがするようなエプロンを平気でつけさせている施設もありますが、入居者を大切に考えているなら、タオルかナプキンをかけるなどの対応をしているはず。そうした施設では、効率優先で入居者の尊厳は二の次という感覚が当たり前になっているかもしれません」
車いすの汚れに注目!
食事中に、入居者同士、入居者と職員が親しく話しているかも重要だ。明るい雰囲気の施設なら問題はないが、雰囲気が暗く、入居者が無表情で黙々と食べているようならかなり心配だ。細かいことだが、その際には、車いすで食事している人の、車いすの汚れにも注目しよう。
「車いすのすき間に食べかすがこぼれたままになっていないか、埃がたまっていないか。あとはタイヤの圧がしっかりはいっているかも重要です。空気が抜けた状態のままになっていれば、ケアが行き届いていない証拠ですから」(高室氏)
「ポエム」のような経営理念に注意
介護職員の労働環境の良し悪しは、その老人ホームを経営している運営会社の経営方針によるところが大きい。それゆえ前出・小山氏は「運営会社を見極めることが何よりも大切」と話す。
「ホームページの謳い文句を鵜呑みにするのは危険ですし、ネットの口コミもアテにはできません。口コミサイトは広告が絡んでいることもありますから。それよりも施設の近くのお店とか、タクシーの運転手さんなどの情報を大事にするといいですね。もし地元のタクシー運転手が施設の場所を知らないようなら要注意。その施設に来訪者が少ない、つまり家族や地域住民によるボランティアが出入りしていない閉鎖的な施設だと考えられるでしょう」(前出・小山氏)
ホームページやパンフレットなどに、大げさな謳い文句を掲げている施設も疑ってみたほうがいいようだ。ある現役介護職員が実態を明かす。
「『入居者の天使のような微笑みが我々の喜びです』とか『我々は100%の献身に何よりも喜びを見出します』とかいうポエムみたいな経営理念を打ち出している施設は気をつけたほうがいい。そういう経営者は何か問題があった時に、職員に対して精神論や根性論を振りかざして乗り切ろうとしがちです。逆説的かもしれませんが、パンフレットや事前説明会などで、むしろサバサバしたところのほうが信用できたりする」
良い施設は、見学者のペースにあわせてくれる
ここに「怪しい老人ホーム」のチェックリストを掲げた。多くの項目に該当するならば要注意だ。逆に「良い施設」をチェックする方法について、有料老人ホーム入居支援センター代表理事の上岡榮信氏はこう語る。
「良い施設は向こうのペースではなく、こちらのペースで見学させてくれます。運営方針も熱心に語ってくれるので、45分以下では絶対に終わりません。1時間以上、大型施設では3時間かかることもある。また、玄関に活け花が活けてあったり、食堂のテーブルに一輪挿しが置かれていたり、壁に絵画が掛けてあったりするのは良い施設です。植物を枯らさない施設は人間も大事にしているし、動物を大切に飼っている施設も同様です。『うちの職員です』と、ワンちゃんが一緒にお出迎えしてくれる施設もある。犬、猫、亀、ハムスターを飼っている施設には、毎日小学生が学校帰りに遊びに立ち寄って、とても和やかな雰囲気でした」
また、長くその施設で生活するうえでは、食事の内容も大切な要素だ。
「仕出し弁当やレトルトが毎日届くところが多いですが、おすすめは自前で食事を作っている施設です。決して高級和食である必要はありません。月に1度はカップラーメンとか、年に1回はすいとんや流しそうめんをするとか、バラエティーに富んだメニューで家庭の延長になっているところがいいですね。マイ箸やマイ茶碗を用意できる施設もありました。こうした配慮のできる経営者は素晴らしいと思います」
本人に合った良い施設かどうか、じっくり見極めたいものだ。
※初出:週刊ポスト
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