猫が母になつきません 第332話「むだ」
都会に住んでいる方にはぴんとこないかもしれませんが、ヌスビトハギという雑草のタネが服につくと取るのが大変なんです。とくにフリースやボアの素材は最悪で、無理に取ろうとすると生地がほつれる。タネがつかない素材を着るとか方法はあると思うのですが、母はわざとつけているとしか思えないくらいたくさんつけてきます。家の中のクッションとか敷物とか猫にまでどんどん飛び火するし、そんなのがついていると気になってしかたない性分の私は毎日毎日タネを取る取る取る。こんな無駄な時間はないなぁと思いながら。以前私が家族に「実家に帰ってからの私の人生は無駄な時間だ」と言った時、家族が口を揃えて言ったのは「人生に無駄な事はない」。なぐさめのつもりでしょうし、一見とても正しいことのようですが、受け答えとしては不正解です。私だって無駄だとは思いたくないし、甘んじて受け入れているのです。愚痴なのですから「悪かったね」とか「ごめんね」とか、欲しいのはシンプルな全肯定の言葉だけ。「人生に無駄な事はない」そう思えるほど私はデキた人間ではないのです。
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作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。