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人気声優・宮村優子さんを襲ったバセドウ病と橋本病「声が出ず、引退も覚悟した」

 甲状腺にかかわる『バセドウ病』と『橋本病』は正反対の症状だが、この2つを併発するケースは少なくないと甲状腺疾患の専門医・伊藤公一さんは言う。人気声優の宮村優子さんも2つの病を経験したという。そのつらさ、周囲の反応から得た“教訓”などを教えてくれた。

人気声優・宮村優子さん地獄は出産後に始まった…

 声優として第一線で活躍していた2004年に第1子を授かった宮村優子さんが不調を実感するようになったのは2006年頃、34才のときだった。

「地震かと勘違いするくらい大きな動悸が起こったり、食べても体重が減ったり…調子が悪い日が続いたんです。でも育児疲れだと思っていました」

 異変を感じたのは鏡で顔をきちんと見たときのこと。眼球が出ていることに気づく。

「コンタクトレンズを入れやすくなったな、くらいにしか思っていなかったのですが…」

 と当時を思い返して苦笑いする宮村さん。SNSでは、彼女の近影を見た人たちから「顔が変わった」「出目金」などと書かれ、心を痛めたという。仲間に相談したところ、似た症状の人がおり、甲状腺の専門病院を紹介された。

「血液検査でバセドウ病と診断されました。定期的に通って甲状腺ホルモンの数値をチェックしながら、薬の量を調整していくことになりました」

 薬を服用し始めると、すぐに息切れや疲労などの症状は軽くなった。しかし、それで薬の量を減らすとまた不調になる。その繰り返し…。それでも根気よく投薬を続けると、3年ほどで症状が治まったという。

2人目を出産後、今度は橋本病に!

 症状が治まり日常を取り戻した2009年、宮村さんは家族でオーストラリアに移住することになる。そして2011年、第2子を出産。するとまた徐々に体調が悪くなっていった。

「とにかく猛烈にだるくて、全身の筋肉が衰えていく感じでした。バセドウ病のときは、だるくてもまだ動けたのですが、このときはまったく起き上がれない。でも、生まれたばかりの子供がいるし、上の子だってまだ小さい。体にムチを打って、家事と育児をこなしました」

 異国の地で頼れる人や相談できる人もおらず、精神的にも落ち込んだという。

「夫から、“筋力が落ちているってことは、運動不足なんじゃない?”と言われましたが、そういうレベルの話じゃない。口まわりやのどの筋肉が衰えて、食べ物を飲み込むのも困難になったんです。でも、それを説明しても伝わらなくて…」

 そんなとき、日本で仕事が入り、一時帰国することになる。

「久しぶりに会ったマネジャーが私の顔を見るなり、血相を変えて“どうしたの?”と。覇気がなくて、いまにも死にそうな顔つきだったそうです。何より、声優にとって大切な声が出ないし、ろれつが回らない。それですぐ、病院に行きました」

 診断は橋本病。バセドウ病とは逆の病気にかかっていた。

声優なのに声が出ず、引退も覚悟

 オーストラリアに戻ってからは現地の病院を再受診し、投薬治療を続けることになった。

「このときばかりは、声優業を引退しようと本気で考えました。声が出ない、ろれつが回らない、それもいつ治るかわからない…。当時『名探偵コナン』の遠山和葉役として15年近くレギュラー出演をしていたのですが、プロデューサーに自ら降板を申し出ました」

 しかし、プロデューサーからの返事はNO。いつかは治る病気なら、まずは治療に専念してほしいと言われたという。

「“それでも無理ならそのときに考えましょう。待っています”と言ってくださいました」

 この言葉は、宮村さんの“光”となった。

「待っていてくれる仲間のためにも病気を治さなければと、前向きな気持ちになりました。病気を仲間内にオープンにしたことで、同じ病気の人や症状を理解してくれる人が周りに増え、気持ちが楽になりましたね。感謝しかありません」

 その後、投薬治療が功を奏し、2017年には映画『名探偵コナン から紅の恋歌』で声優として見事復活を遂げる。

「いまは症状が落ち着いていますが、無理はしません。ちょっと疲れたらたっぷり睡眠をとる、忙しいときほど何もしない日を作る、激しい運動は控えるなど、自分の体に耳を傾けて生活するようになりました。それと海藻類は食べない(笑い)。子供のお弁当のおにぎりに使ったのりの破片を少し食べただけで、調子が悪くなるんですよ」

 バセドウ病も橋本病もなぜなるかはわからない。だからこそ、誰もがなる可能性がある。女性の40代は忙しく自分の体をなおざりにしがちだが、そういうときこそ、体の声に耳を傾けてほしいと宮村さんは言う。

教えてくれた人

声優 宮村優子さん

1972年、兵庫県出身。1990年代から声優として活躍し、『エヴァンゲリオン』シリーズの惣流(式波)・アスカ・ラングレー役、『名探偵コナン』の遠山和葉役などを演じる。

取材・文/土田由佳

※女性セブン2022年10月13日号
https://josei7.com/

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