健康

乳がんと告知されたときの対処法と相談先|誰に打ち明ける?仕事はどうする?【医師解説】

 日本人女性の乳がん罹患数は、2020年には9万人以上となり、死亡者数も1万4000人を上回った。罹患者のピークは40代後半~70代と中高年に多く、高齢化の影響で10年前に比べ60才以上が増加中、乳がんは他人事ではなくなってきている。そこで、もし、自分が乳がんと告知されたらどうするか――。もしものときに知っておきたい素朴な疑問を医師に聞いた。

誰にまで打ち明けるといい?

【A】伝える相手は最小限に。

 乳がんと告知された。周囲の人に打ち明けた結果、腫れものに触るような態度を取られることもある。また、隠してしまうと、かえって臆測を呼び、ストレスを受けることも。では、周囲の誰にどのようにして伝えればいいのだろうか。

「基本的には家族や、職場の直属の上司、人事担当者など最小限の人に伝えましょう。病名は個人情報ですし、いくら仲がよくても『頑張って、大丈夫だよ』などの楽観的な励ましや、悲愴感のある反応をされると患者さん自身が傷つくこともあります。また思わぬ拡散のもとになったりすので、具体的な病名などを話す必要はありません」(順天堂大学教授・齊藤光江さん・以下同)

★職場の人

 産業医や保健師がいる場合は、治療期間のスケジュールや治療中、治療後の仕事内容を相談。いない場合は、上司や人事担当者など信頼できる人のみに報告を。

★子供

 子供の年齢や理解度によってどんな病気なのか、治療を受けるかを説明しておく。隠すのではない、わかりやすい言葉で説明する。

★親

 サポートが期待できるなら、お願いしたいことも含めて、率直に話す。高齢、闘病中、遠方にいる場合は、よく考えて判断する。無理に話す必要はない。

★パートナー

 サポートが必要なことを直接伝える。医師からの治療方針の説明の際にも、できるだけ同席してもらうと、治療に伴う心身の変化などに理解が得やすい。

★友達

 励ましや悲観的な反応に傷つくこともあるので、不安や病気のつらさは似たような経験をした人のみに話すのがいい場合もある。

治療中の仕事や金銭面の不安はどのように解消する?

【A】医師や経験豊富な看護師らが相談に応じてくれる。

 手術や薬物、放射線など科学的根拠に基づいた治療が行われる一方で、いま、重要視されるのは心のケアだ。各都道府県に1~2施設あるがん診療連携拠点病院(以下、拠点病院)は、高度ながん治療が受けられるとともに、患者の心に寄り添うシステムが充実している。

「治療といっても、人間が行うわけですから、やはり医師や看護師との信頼関係は大切です。私たちは、患者さんのがんが判明してから、最初の説明では1時間くらいかけて、よく話を聞くようにしています」

 それは治療方針だけではく、患者個人の生活全般の相談にも応じるという。

「科学的根拠は必要ですが、それにプラスして、私たちに何ができるのかを考えることがとても大切です。抗がん剤で食欲がない、吐き気がするといった場合は、『いま口にできそうなものは何ですか? アイスなら口にできる?』などと細かく話を聞いていきます。もし医師に相談しづらかったり、相談し忘れたことがあったら、拠点病院の相談窓口もしくは、がん専門看護師やブレストケアナース(乳がん看護認定看護師)、看護相談室で相談にのってもらうこともできます」

拠点病院には院内にお金の相談にのる係も

 そのほかにも、「こんなことまで聞いていいの?」と思うことでも話してほしいという。

「金銭面の不安もはっきりと打ち明けてほしいと思っています。いまは収入が減っている人が多く、民間の医療保険に入っていない人もいます。場合によっては、病気やけがで働けなくなった人向けの『障害年金』の話をしたり、同等の効果であるジェネリックや効き目が証明されていれば、少し前のガイドラインで推奨されていた薬剤を用いることも視野に入れて提案することもあります。また拠点病院には院内にお金の相談にのる係もいます。医療者は患者さんにできるだけ不安のない状態で治療を受けてもらいたいと思っているので、何でも包み隠さずに相談してください」

 加えて齊藤さんは、「乳がんになっても、可能な限り仕事を続けることが大切」と強調する。

「乳がんと診断されると、仕事に穴をあけてばかりで迷惑をかけるからなど、患者さんの4割が仕事を辞めるという報告があります。しかし、病気になると出費もかさみますから、できるだけ収入は確保したいところです。

 医師に話してくだされば、会社の産業医や保健師と連携をとって、療養のためにどの程度、時間を確保するか、今後の見通しを立てていきます。産業医らがいない場合、公的機関である『地域産業保険センター』で休職や職場復帰について相談もできます」

もしもステージⅣと診断されたら?

【A】できることがまだあることを伝える。

 検診の大切さとともに、「がんのステージが進んでしまった人たちに対する、心の寄り添い方も現代医療の課題になっている」と、齊藤さんは言う。

「以前は、ステージⅣ(乳房から遠い臓器への転移が明確なステージ)との診断を伝えたり、初期治療の後に転移や再発を起こすと、『あとは死を待つだけですか?』という質問を家族から投げかけられることが多くありました。しかし、がんは感染症と異なり、急激に変化するということが少ない病気です。そこから生きていくということが必要ですし、患者さんには、その時間が与えられています。

いまは、生きていく時間を延ばしていくための治療が豊富にありますし、中には治ってしまう人も数%ですがいらっしゃいます。医療は転移してからのがん患者さんにこそ、さまざまな治療やケアを用意しています。なるべく長生きしたいという意欲を持っている人には、上手に複数の薬をあわせ、苦痛を軽減したケアを提供しています」(順天堂大学教授・齊藤光江さん・以下同)

 説明も、患者の気持ちに寄り添った言葉遣いをする。

「私の場合は、余命がある程度予測できる患者さんには、『神様が決めた寿命というのがあるとしても、人間は抗うことができる。どこまでいけるかはわかりませんが、寿命を延ばす治療はあるので、望まれるのであれば、その努力はしましょう。また長さではなく、質を重んじるなら、それに見合ったケアを考えましょう』と伝えます。そのためにも、患者さんには『自分はこれから何をしたいのかを考えてみてください。たとえば、子供が成人するまで元気でいたいと思うのか、または子供は成人したので、日々趣味を楽しみたいのか』などの話をします」

困ったときの相談窓口を知っておこう

 がんが判明すると患者に限らず、家族や周囲にもわからないことが出てくる。自分で勝手に判断せずに、信頼ある機関に電話で相談してみよう。

 ネットで「乳がん」と検索するとあらゆる情報が出てくる。まさに玉石混交で、中には読むと不安になるものや、科学的根拠に乏しい民間療法まで交ざっている。ステージⅠと診断された前出のTさんも、「あらゆる情報に惑わされてしまった」と話す。

「同じがん患者のかたが書かれたブログやSNSを見ていました。もちろん悪いことばかりではないのですが、中には亡くなられたかたもいて、ショックを受けることもありました。そんな私を見かねた妹が、『そういうのは見てはだめ』と注意してくれたのですが、一度見てしまうと気になってしかたがないんです。私の場合は主治医にすべて話して、気持ちを落ち着かせることができました」(Tさん)

 無料電話相談窓口を設けている日本対がん協会の担当者は、これまで寄せられた相談内容についてこう話す。

「がんと診断されたときは、ショックから冷静な判断が難しいことがあります。また、相談してこられるかたの思いもさまざまです。民間療法も標準治療にプラスして、より治療効果を高めたい人、副作用や後遺症への心配があるかた、信頼性に欠けるものであるとわかっていても、わらにもすがる思いで受けたいと考える人もいます。

 間違った情報を信じて標準治療は受けずに、民間療法を選んだ結果、症状が進んで後悔されるかたも少なくありません。これは患者さんの家族も一緒。自分たちだけで判断せずに、さまざまな情報に迷ったら、まず主治医や『がん相談ホットライン』、病院の相談窓口などに相談してほしいと思います」(同協会担当者)

がん相談ホットライン(日本対がん協会)

電話:03-3541-7830 http://www.jcancer.jp/

看護師や社会福祉士など国家資格を持つ経験豊富な相談員が相談を受け付ける。相談内容は治療や副作用、退院後の生活、お金のことのほか、不安なことはなんでも。患者本人だけでなく、家族など誰でも利用できる。相談料は無料。

インターネットの場合は『女性からだ情報局』

https://josei-karada.net/fertility/

 ネットで情報を得る場合は、「公的機関が発表する第一次情報を参考にするといい」と言うのは、女性の健康にまつわる情報を発信する『女性からだ情報局』の花田秀則さん。

「乳がんについて、科学的根拠があり、信頼性の高い情報を発信している団体としては、国立がん研究センターや医学会などの治療・学術機関、日本対がん協会などが挙げられます。専門医でない人や団体のアドバイス、SNS上の口コミに惑わされず、信頼できる専門機関の情報を、優先してチェックするようにしましょう」(花田さん)

 自分の不安な気持ちを理解してくれる人はいる、ということを、頭に入れておこう。

教えてくれた人

齊藤光江さん/順天堂大学乳腺腫瘍学講座教授

日本対がん協会/同協会では乳がん啓発月間に合わせて「ピンクリボンフェスティバル」を実施している。今年は10月に開催した。

花田秀則さん/女性からだ情報局

女性特有疾患や不妊治療、更年期まで医師及び専門家監修の情報を伝えるサービス。

取材・文/廉屋友美乃 イラスト/オモチャ

※女性セブン2022年10月20日号
https://josei7.com/

●60才以上の乳がんが増えている理由「受診控え」に医師が警告!治療の最新事情を解説

●森昌子さんも経験した”子宮筋腫”の苦しさ コロナ禍の受診控えに注意を【医師監修】

●野菜は生よりスープで食べたほうがいい3つの理由|がん権威が教えるメディカルスープ

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