60才以上の乳がんが増えている理由「受診控え」に医師が警告!治療の最新事情を解説
2001年に20人に1人といわれていた乳がんは、2018年には11人に1人がかかる病気になっている。罹患者のピークは40代後半~70代と中高年に多く、高齢化の影響で10年前に比べ60才以上が増加中。乳がんは早期発見すれば90%以上が治る病気といわれるが、では、検診や治療はどう進化しているのだろうか。順天堂大学・齊藤教授に詳しい話を伺った。
2020年はコロナ禍で検診率が約30%減少
下記のグラフを見てほしい。日本対がん協会によると、新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で、2年前は乳がん検診を控える人が急増。昨年は回復したものの、コロナ禍前の2019年と比べてマイナス9.9%の受診率になっている。
★5つのがん検診別受診者数の推移(は2019年を1として計算)
乳がん検診受診者数はコロナ禍前よりも9.9%減少
日本対がん協会のグループ支部が罹患者の多い5つのがん検診の受診状況を調査したところ、2020年に比べ、2021年は回復したものの、いまだ受診控えの状況は続いている。
「このまま検診控えが続くと、発見時にはステージが進んでいる可能性がある」と、順天堂大学乳腺腫瘍学講座教授の齊藤光江さんは語る。
「乳房の中に生じた1個のがん細胞が1cmのしこりを作るまでには、7~8年以上かかるのではないかといわれていることもあり、今年、検診を受けてがんが見つかった人のステージに関しては、例年と大差はありません。ただ、今後も検診控えを続けていると、ステージが進行してしまう可能性はあります。がんは、いきなり手で触れるほどのしこりになることはありません。潜伏期間のような時期を経て、わかりやすい大きさになっていくのです」(齊藤さん)
定期的な検診で初期のがんが見つかるケースが多い
神奈川県でコンサルティング業をしているTさん(42才)は、今年2月に右側の乳房にステージⅠの乳がんが見つかった。
「約7年前に、左右の乳房に小さな水たまりのようなものが2~3か所見つかりました。その前から会社の検診に加えて、医師のすすめもあり、念のために、定期的にマンモグラフィーと超音波をセットで1年に1回、受けていましたが、2021年は検査が受けられず、2022年に生体検査を受けた結果、右側にステージⅠの乳がんが見つかりました」(Tさん)
Tさんのように定期的に検診を受けていれば、ごく初期段階でがんが見つかるケースがほとんどだ。
「自覚症状がない状態で、マンモグラフィー検診を受けると、約0.2%にがんが見つかります。その中で約80%が2cm以下のステージⅠや超早期のステージ0であることもわかっています」(齊藤さん)
★発見時のステージ
定期検診では腫瘍が2cm以下のステージ1か、ごく小さな腫瘍のステージ0で見つかるケースが半数以上を占める。
・ステージ0…12.4%
・ステージⅠ…41.8%
・ステージⅡA…24.5%
・ステージⅡB…9.1%
・ステージⅢA…2.7%
・ステージⅢB…3.4%
・ステージⅢC…1.4%
・ステージⅣ…2.2%
自己判断は要注意
一方で、気をつけたいのが、自己判断。都内に住む自営業のKさんは、ふだんから自己触診を行い、しこりがないかチェックをしていたが、6年ほど病院での乳がん検診はしていなかった。
「右わきの下に気になるしこりがあったので、6年ぶりに今年、近くの病院で検査をしたら、2cm以上の腫瘍を発見。精密検査の結果、ステージⅡと診断されました。ステージⅠに比べると乳房を切除する範囲も広いことが多く、せめて1~2年前に検診を受けていたら初期だったかもと思うと、悔しいです」(Kさん)
Kさんのように、ふだんからセルフチェックをしているから定期検診を受けなくてもいいというわけではないと、齊藤さんは言う。
「乳がんは完全に予防することができないため、早めに見つけて治療をすることが不可欠です。それだけに定期的に検診を受けることがとても重要なのです」(齊藤さん・以下同)
★年齢別乳がん罹患数「がんの統計2021」より
罹患数は40才以上で急増
乳がん細胞は女性ホルモンであるエストロゲンの影響を受け、分裂・増殖する。晩婚や少子化が進んだ現代は、エストロゲンの分泌期間が長くなっているため、発症リスクも高まる傾向に。
40才以上はマンモグラフィー検査を
そのためにも、マンモグラフィーや超音波検査を受けることが必要だ。
「40才以上の検診は乳房のX線撮影を行うマンモグラフィー検査が推奨されています。高齢になれば、乳房はやわらかい脂肪が増えるため、X線で腫瘍部分がより鮮明に写り、がんを発見しやすくなります。超音波検査は乳腺が発達した若い人向けの検査ですが、閉経が遅い人や授乳経験がなく、ハリが失われていない人にも有効な場合があります。できれば2年に1度のマンモグラフィーでの定期検診に加え、年に1度は超音波検査を併用すると、初期のがんが見つかる確率が高まります」
保険診療で受けられる治療も
以前は乳房を失ったままでがまんする人が多かったが、いまは失われた乳房のふくらみを人工物や自分のお腹、背中の組織を用いて取り戻す乳房再建術などを保険診療で行うことができ、治療法も進化している。
「現在、世界中で多くの乳がん研究が進められていますが、その治療効果もさまざま。『この条件の患者さんには、この治療方法は効果があり、安全である』と科学的な根拠に基づいて認められたものを、標準治療としています。この標準治療は、日本乳癌学会が作成する『乳癌診療ガイドライン』に基づいています。これは2~3年に1度、見直され、新しい治療法が認証されれば、改定されます」
★乳がんが発生しやすい場所
・外側上部53%
・全体にまたがるもの4%
・乳首4%
乳腺にできる乳がんの多くは、わきの下近く、外側上部に発生し、その数は全体の半分以上を占める。
個々にあった治療法を 薬の選択肢も多い
治療方針はステージだけで決まるものではなく、その人のがんのタイプにあったものがすすめられる。
「最先端の治療法が必ずしもその患者さんにとって最良とは限りません。そのため、世界中で検証されたデータをもとに治療方針を決めます」
乳がんと診断された後には、『初期治療』と呼ばれる治療に入る。
「初期治療の目的は乳がんを完治させることですから、病巣を取り除くための局所治療が行われます。それに併せて、目に見えないほど小さな転移も根絶するための全身治療(薬物療法)が行われます。局所治療は主に手術時に、これを補う放射線治療によって行われます。しこりの大きさにもよりますが、先に抗がん剤などで病巣を小さくしてから局所治療を行うこともあります」
乳がんで使われる薬物も選択肢が広がっている。
「効率的にがんをやっつけるために、働きの異なる抗がん剤を組み合わせることがあります。これを多剤併用療法といいます。抗がん剤ごとに起こる副作用は異なります。たとえば、吐き気が起きやすい薬剤には効果が証明されている吐き気止めを使います。脱毛を回避したい場合は、頭皮冷却装置を使うなど、副作用対策をしっかり行いながら、治療をするのが初期治療の原則です」
教えてくれた人
齊藤光江さん/順天堂大学乳腺腫瘍学講座教授
取材・文/廉屋友美乃 取材協力/女性からだ情報局
※女性セブン2022年10月20日号
https://josei7.com/
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