小学館IDについて

小学館IDにご登録いただくと限定イベントへの参加や読者プレゼント にお申し込み頂くことができます。また、定期にメールマガジンでお気に入りジャンルの最新情報をお届け致します。
閉じる ×
連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第167回 兄と2人きりの日常】

 若年性認知症を患う63才の兄と2人暮らしをするアラ還のライター・ツガエマナミコさん。穏やかで優しい性格の兄ですが、予想外の行動も増えてきて、その対応に戸惑うマナミコさんは、心安まる時間がどんどん減ってきています。今回は、日常生活のサポートだけではない、マナミコさんが人知れず抱える“大変なこと”を明かします。

 * * *

「妹」ではなく「女性」として見られてる瞬間がある?

 兄は、テレビをご鑑賞しながら、時に食卓の椅子に座ったまま、時にフローリングに横たわってちょくちょくお舟を漕いでいらっしゃいます。普通ならソファやクッションでくつろぎの場所を作るのでしょうが、ツガエがあえてラグマットさえ敷かずに板の間をキープしているのは、夜には兄にご自分の部屋へ行ってほしいからでございます。

 ただでさえ時間の感覚がない兄は、「もう夜中の12時だからテレビ消して寝てください」とわたくしが言わないといつまでもリビングに居座ってしまいます。そこにソファでも置こうものなら、そこから動こうとしないにちがいありません。

 わたくしは、兄がリビングにいると気が抜けないのでございます。いつキッチンオシ(キッチンのシンクにオシッコをする意)をするかわからないので常に警戒していると申しあげたらいいでしょうか。

→関連の回を読む「150回 まさかのキッチンオシ?」

 また、考えすぎと言われようとも、兄は男子でわたくしは女子。兄がわたくしを「妹」と認識してくれていればいいですが、ときおり「この店は何時までなの?」とおっしゃることがあるので不安になるのです。ここを自宅と認識していない瞬間があり、わたくしが誰かわかっていない瞬間がある。突如オオカミになって襲われることは99%ないと思っておりますが、「妹」ではなく「女性」として見られることがあるとしたら、それだけでわたくしにとっては気持ちが悪く、兄を警戒せずにはいられないのでございます。

 兄が妙な気を起こさないようにツガエは「女らしさは封印」しております。そもそもそれほどないのですが、基本ジーンズにTシャツで、この夏もノースリーブや襟ぐりの大きいシャツなどは兄の前では着ませんでした。パジャマ姿もほとんど見せません。ただ最近中年らしいムチムチボディが我ながらエロチックに思えるので、ボディラインが出ない服選びに苦労しております。

 もっと言えば、兄とはパーソナルスペースを多めに取っております。家の中では真後ろに立たれないように用心しておりまして、外では、わたくしが前を歩く時は、「競歩ですか?」ぐらいの早足で兄との距離をキープしております。

 部屋で掃除機をかける時にも、玄関で靴を履く時も兄に対して「菜々緒ポーズ」(お尻を突き出して前屈する女優・菜々緒さんのセクシーポーズ)にならないように立ち位置に気を配り、膝を曲げてしゃがんだりしているのです。

 最近の体の疲れは、こうした変な気遣い、用心、警戒のせいではないかと思っております。

 ちなみにわたくしの部屋はリビングと引き戸一枚で区切られた納戸のような隔離部屋で、一切窓がないこともあり、息苦しいので常に15センチほど引き戸を開けて過ごしております。リビングに居座っている兄の姿はギリギリ見えないようにしておりますが、ずっとテレビがついていますし、なぜかわたくしの眼を盗むように行動して挙動が不審なので、仕事をしていても気が散るばかり。

 そうかと思えば15cmの隙間からこそ~っとのぞき見されて不愉快な思いをしております。「何か御用?」と訊いても100%何もないのですが、何度も何度ものぞかれます。わたくしが無視をしますと、飲み終わった空のコップを手に「これ…どこかな?」とやってきます。とりあえず「テーブルの上に置いておいていいよ」と言うと「え?どこ?」とコップを持ったまま玄関の方まで行ってしまうありさま。 

 アンビリーバボーでございます。

「ここがテーブルだよ」とお教えしたところで覚えていただけないので、最近はすぐに受け取って「はい、どうもありがとう」と言うことにしております。

 隙間を開けておくからそうなるとお思いでしょう? 締め切っていてもだいたい同じで、ノックもなしにこっそり戸を開けようといたします。誰かいるのか、いないのか、何をしているのか、何もしていないのか、記憶できないので気になるのでしょう。気持ちはわからないでもないのですが、「いい加減にしてくれー」と嫌気がさしているツガエでございます。

◀前の話を読む

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●ピンキーとキラーズ今陽子さん(70才)認知症の母の介護で学んだ「接し方で笑顔は増える」

●【短期集中連載】なとみみわさんが振り返る介護「ばあさんとわたし」【家族になった日<8>】

 

コメント

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

シリーズ

最新介護ニュース
最新介護ニュース
介護にまつわる最新ストレートニュースをピックアップしてご紹介。国や自治体が制定、検討中の介護に関する制度や施策の最新情報はこちらでチェックできます!
新設情報!老人ホーム、介護施設、デイサービス
新設情報!老人ホーム、介護施設、デイサービス
老人ホーム、介護施設、デイサービスの新設情報をご紹介!
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「聞こえ」を考える
「聞こえ」を考える
聞こえにくいかも…年だからとあきらめないで!なぜ聞こえにくくなるのか?聞こえの悩みを解決する方法は?専門家が教えてくれる聞こえの仕組みや最新グッズを紹介します
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。