「恋してしまった」と打ち明ける高齢男性に毒蝮三太夫が自らの体験を振り返って語った金言|「マムちゃんの毒入り相談室」第38回
恋心っていうのは、いくつになっても人間には必要だ。老人ホームにいるジジイやババアだって、憧れの異性がいたり好きな人と食堂でそっと手をつないだりして、それが元気の素になっていることは多い。若い人は「年寄りが恋心なんて持つわけない」と思ってるかもしれないけど、90になっても100になってもときめく気持ちはあるんだよ。
なになに、俺もカミさん以外の女性に淡い恋心を抱くことはあるかって? そりゃあるよ。しょっちゅうあったし、これからだってないとは言えない。ただし、そういう気持ちになったからといって突っ走るのは、いい大人がやることじゃないよね。プレゼントをあげるにしても、ほかに何人もいる中でひとりにあげたら、その子の立場が悪くなっちゃう。
そんなふうに相手を気づかいながら、向こうも何となく察しているような察してないようなっていうのがいいじゃない。だけど、たとえばご飯食べに行ったとして、そのときは楽しいんだけど、頭のどこかで「やっぱりカミさんのほうがいいかな」と思っちゃうんだよね。だからいつも、そこで止まっちゃう。今となっちゃ、くすぐったい思い出だよ。
おいおい、何を言わせんだ。余計なことしゃべりすぎちゃったじゃねえか。相談をくれたあなたのケースは、お互いに独身ではあるけど、だからといって踏み込まないほうがいいだろうな。距離を縮めることだけが、恋心の“成就”じゃない。好きな人がいることで毎日に張りが出るし、自分を磨こうという気持ちになったりする。それでいいんだよ。
その人に嫌われないように、清潔感を保ってこざっぱりした格好をしようとか、今度はこんな話をしてあげようとかね。ヘルパーさんなんだから何十人も高齢者を見てるんだろうけど、自分が来るのを楽しみに待ってくれてて、毎日をちゃんと生きる上で自分が役に立てたら、介護職冥利に尽きるよ。恋心云々の話じゃなくってね。
利用者に恋心を抱かれるぐらいだから、このヘルパーさんはきっといい育ち方をした魅力的な人なんだろうな。ヘルパーさんにしても介護施設の職員さんにしても、「その人に会うのが楽しみ」と思ってもらえる人が増えるといいね。介護職っていうのは、そういう仕事だよ。本当は医者だってそうだし、ほかのどんな仕事もそうかもしれない。
恋心に後押しされて自分を高める努力をする。そして見返りは求めない。じつに高尚な境地だ。そういう気持ちになれたのは幸せだよ。そんな素敵な人なんだから、ひそかに恋心を寄せているライバルはきっと多いだろう。ライバルたちに負けないように、健康を保って元気にがんばってくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
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取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。