若手がときめきながら漫画を描く『恋愛トキワ荘』の生々しい恋愛模様「漫画家としてのライバル関係にも注目したい」
偉大な漫画家を輩出した「トキワ荘」の現代版?『恋愛トキワ荘』(フジテレビ系 月曜深夜)に集うのは、男女6人の若手漫画家たち。共同生活をしながら経験する恋愛シチュエーションを漫画作品に繋げていくという一風変わった恋愛シチュエーション番組を、テレビウォッチャーで漫画家の北村ヂンさんが考察します。
全員、若手漫画家
この9月からスタートしたフジテレビ系の恋愛リアリティーショー『恋愛トキワ荘』。
トキワ荘といえば、手塚治虫を皮切りに、藤子不二雄両氏や赤塚不二夫、石ノ森章太郎などなど、数々のレジェンド漫画家が若手時代に住んでいたことで知られる伝説のアパート。実際のトキワ荘はだいぶ昔に取り壊されているが、漫画家に限らず、若手クリエイターなどを一カ所に住まわせて切磋琢磨させるような企画に「○○トキワ荘」みたいなタイトルがつけられることはいまだに多い。
それでは『恋愛トキワ荘』とは!?
要は、若い男女が共同生活をしながら、さまざまな胸キュン恋愛シチュエーションを体験していくという『テラスハウス』的な番組なのだが、大きな特徴は参加者が全員、若手漫画家だということ。この辺が「トキワ荘」なのだ。そして、目指すゴールは恋愛を成就させることではなく、共同生活でさまざまな恋愛シチュエーションを経験することによって、心ときめく恋愛漫画を完成させること。
『テラスハウス』的な企画はたくさん生まれているが、『恋愛トキワ荘』では、この「全員が漫画家」という特徴がうまく作用し、一風変わった恋愛リアリティーショーとなっている。
イチオシが集中
恋愛トキワ荘の住人は、男3名、女3名の計6人。
男性陣は、青年漫画雑誌『ヤングアニマル』で連載を持っている和平。Twitterでエッセイ漫画を投稿している内気な漫画家・ゆきくん。歌舞伎町でホストをしながら漫画を描いているジャン。
女性陣は、恋愛経験ゼロの芸人兼漫画家・れっぴー。ゆるふわ系漫画家・ゆの。銀座でホステスとして働きながら漫画を描いている桜。
基本は恋愛リアリティーショーなので、共同生活を通してこの中からパートナーを見つけ出し、胸キュン恋愛シチュエーションを経験していくことになるわけだが、初回の段階では女性陣3人全員のイチオシが和平という偏った状態に。通常、パートナー選びにおける重要な要素はビジュアルや人柄ということになる。しかし住人全員が漫画家(&志望者)である『恋愛トキワ荘』では、そこに絵のうまさや漫画家としてのランクの高さなども加味されていそうだ。
ということで、既にプロとして商業誌に連載を持っている和平に女性人気が集中してしまっているのではないだろうか。
まあ和平は、漫画家としてのランクを別にしても、すごくいい人そうだし、話題も豊富で女性扱いにも慣れている。モテそうな雰囲気をビンビンに放っているわけだが。
その和平と比較されがちなのが“ほぼ童貞”だという、Twitter漫画家・ゆきくん。いかにも“一般の人がイメージする漫画家”といった感じの、おたくっぽく、陰キャなゆきくん。女性にも慣れておらず、二人っきりになると挙動不審になりがちなのだ。漫画の発表媒体はTwitterがメインということもあるのか、女性陣からはノーマークとなっている。
レポート漫画に注目
この『恋愛トキワ荘』の面白いところは、各住人が番組での出来事を漫画化していること。番組内でもチョロッと紹介されているが、FODではフルバージョンを読むことができる。
レポート漫画の中では、カメラの前での表層的な姿とはまた違う、内面が赤裸々に描かれている。一見、陽キャでコミュニケーション能力つよつよな和平、陰キャおたくのゆきくん。しかし内面をのぞき見ると印象が大きく変わってくる。
陰キャおたくのゆきくんは、自身の漫画内では女性陣とちょっと絡むだけで「好き!」「美人っっ!」などハイテンションでリアクションをするノリのいいキャラクターとなっている。かたや和平の漫画は、過去の恋愛を引きずり、みんなと楽しく過ごしていても、チョイチョイ、元カノの姿がちらつく、ダークなストーリーが展開されている。
他の恋愛バラエティー番組でも、独白形式で心の内を明かす場面が用意されているケースは多いが、自作の漫画による心情表現は内面のむき出しっぷりが段違いで生々しい!
モブ扱いのゆきくん
レポート漫画の中には自分だけではなく、当然、他の住人たちも登場する。相手に対する気持ちによって、漫画での描写が大きく変わってくるのも興味深い。八景島シーパラダイスでのデート企画でペアになった和平とれっぴー。和平には番組サイドからひそかに「おそろいのアクセサリーを買って身につける」というミッションが課せられていた。
“やらせ”であることを気付いていたのかいないのか、この出来事は恋愛経験ゼロのれっぴーにとってはものすごく胸キュンだったようで、レポート漫画において数ページにわたってその感動を描写している。
しかし一方の和平は、このデートのエピソードはたった3コマで終了。アクセサリーの件には触れてすらいない。告白の段階に進む前から「こりゃ脈ないわ」感がにじみでてしまっているのだ。
また恋愛漫画において、ストーリーの中心となってくるメインキャラはイケメン・美少女に。恋愛に絡まない人たちはモブ(その他大勢)顔になっているというのはお約束。今のところ、ゆきくんは全員の漫画(本人の以外)で思いっきりモブ顔となっているのが気になってしまう。
番組サイドからのミッションではあるものの、プレゼントをあげたり、いいところを10個あげたりと、何かとアプローチをしているゆのちゃんからもモブ扱いとは……。
もっと“漫画”要素を!
カメラの前での様子と、内面むき出しのレポート漫画、両面から恋愛模様をのぞき見ることができる新しいタイプの恋愛リアリティーショー『恋愛トキワ荘』。恋愛リアリティーショーとしては面白いのだが、今のところ“漫画”要素がレポート漫画だけだというのが若干物足りない。
若手漫画家(&志望者)が共同生活しているのだから、男女とはいえ、恋愛対象としてだけではなく、漫画を描く上でのライバルとしても見ているはず。誰かの新連載が決定して、嫉妬心から素直に喜べず、いい感じになっていた二人の関係が悪化してしまい……。
恋愛だけではなく、漫画家同士ならではのそんな熱い展開にも期待したい!
文とイラスト/北村ヂン
1975年群馬県生まれ。各種おもしろ記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。……といいつつ最近は漫画ばかり描いています。