その手術大丈夫?受けない方がよい手術、リスクの大きい手術
厚生労働省の調査によれば、2004年を境に、日本における年間手術数は激減している。 背景には日進月歩で開発が進む新薬や最新治療などがある。それでもなお「切りたがる」医師たちに「NO」を言うためにも、どの手術にどんなリスクがあるのか、また受けても意味のない手術はあるのか、今こそ知る必要がある。
安全とされる手術でもリスクがある場合も
医師から腰痛の手術を勧められた場合も、慎重に検討すべきだ。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは、こう話す。
「縮まった背骨と背骨の間に金具を入れて固定する手法や、背骨を削って神経に余裕を作る方法など腰痛の手術は多種多様ですが、最近の世界的潮流としては、腰痛はよほどひどくなければ手術はしない方向です。
ふだんからウオーキングや水泳など激しくない運動をして筋肉をつけることで腰痛は治る、という考えになっている。コストの面でも、体への負担の面でも間違っていないと思います」
また、安全とされる手術でも、体の状態や施術環境によっては、手術が大きなリスクになることもある。
「女性に多い貧血ですが、米国の研究では、貧血の状態で手術を受けると死亡率や合併症が起きる割合を大きく高めるといわれている。血液中のヘモグロビン量が欠乏すると免疫力が低下し、後遺症が出たり、最悪の場合は命を失ったりすることにつながるのです」(室井さん)
貧血はありふれたものだが、決してバカにしてはいけないもののようだ。
全身麻酔がきっけで認知症に!?
また、手術にはつきものである麻酔も危険因子の1つだという。
「全身麻酔はそもそも危ないものですが、高齢のかたは肝臓が弱くなり、薬の分解能力が低下していることが多く、若いときより影響を受けやすくなっています。
さらに高齢者の場合、麻酔の影響で認知機能が落ち、それがきっかけで認知症になる可能性も排除できません。60才を超えたら慎重になった方がいいと思います」(室井さん)
認知症のリスクについては、秋津医院院長の秋津壽男(としお)先生も同意見だという。
「よくいわれているように、高齢の患者さんは1週間入院するだけで認知症が進み、退院すると別人のようになっていた、などというケースも現実にあるのです」
このような指摘を見ていくと、手術を受けるのが怖くなってしまうが、逆に、絶対に受けるべき手術もあるという。秋津先生は、こう話す。
「たとえば初期のがんには、手術を受ければほぼ確実に助かるものもある。これは絶対に受けるべきです。以前は『実際に開腹してみたら、予想以上に転移していて治療を断念した』ということもありましたが、今は機器の進化で9割9分、事前にわかるようになっています」
手術に迷ったら内科医に相談する
では、医療の素人である私たちは、手術を受けるか受けないかをどう判断したらいいのだろう。
「手術を勧められて迷ったら、内科の医師に相談してみるのも1つの方法。というのも、外科の医師は切って治すのが本職の人たちです。手術が仕事ですから、当然、それを勧めてくる。一方、内科医は切らない治療が本職。投薬やその他の方法で治すことを第一に考える。つまり、病状を把握した内科医が『切りましょう』と手術を勧めるならば、これは本当に必要な手術なんだと思うべき。こういったことをバロメーターにしてください」(秋津先生)
インターネットの普及で、病院のクチコミや医療に関する情報が簡単に手に入る世の中になった。自分の病気について勉強し、医師と治療方針についてもよく話し合い、適切な治療を患者自身が選択していく時代になっている。
もはや医師の言うがまま、ベルトコンベヤーに乗せられる時代ではないのだ。
ほかにも、「受けないほうがよい手術」「リスクが大きい手術」の一部を紹介しよう。