認知症の母は季節感がない?扇風機を忘れてしまった母のために息子が試した夏の演出
岩手・盛岡で暮らす認知症の母を東京から通いで遠距離介護をしている作家でブロガーの工藤広伸さん。この夏帰省したときに感じたのが、母の体感温度が自分とあまりに違うことだという。エアコンで寒がったり、急に暑いと言い出したり、季節感がなくなりつつある母に息子が取った対策とは?
認知症の母が真夏に「寒い」という理由
夏の猛暑に備えるために、2022年4月に岩手の実家の居間のエアコンを新しく買い替えました。認知症で季節感がなく、室温や湿度を理解できない母を熱中症から守るためにエアコンを購入したわけですが、想定していなかった別の問題が発生したのです。
そもそもこれまで使っていたエアコンは、2009年製。13年も経つと、設定した室温になかなか到達しません。例えば室温を27℃まで冷やすためには、設定温度を22℃にして長時間稼働させないと、部屋がなかなか冷えません。
また冬の暖房も設定温度を30℃にしているのに、室温が1℃までしか上がらない日がありました。その日の岩手県盛岡市の最低気温はマイナス14℃で、あまりに外が寒すぎてエアコンの効きが悪かったところもありますが、とにかくエアコンの寿命が来ていました。
新しいエアコンは設定した室温に短時間で到達するのですが、効きの悪いエアコンを長期間使い続けたせいでしょうか? 前のエアコンの設定温度の感覚のまま、スマートリモコンを使って遠隔操作していたせいで、岩手に居る妹から「お母さんが寒がっている」という連絡が来ました。
エアコンの設置が4月で、設置後にすぐ帰京してしまったために、新しいエアコンの実力を分かっていなかった部分もありますが、とにかく今はきちんと動いています。
半導体不足の影響もあったので早めにエアコンを購入したわけですが、さらに入手困難な状況になっているので、4月に買って正解でした。7月に岩手に帰省し、母にとってどれくらいの室温が心地いいのか、探ってみることにしました。
母の心地いい室温を探る
母と一緒に生活する中で、どのくらいの室温になると寒いというのか、毎日設定温度をいろいろ変えて試してみました。すると25℃の冷房は寒いけど、26℃だと何も言わないことが分かりました。
ただ母の体感温度は気まぐれで、直前に居た部屋の温度感覚をそのまま次の部屋に持ち込みます。例えば台所で火を使ったあとは、室温が26℃に設定されていても、暑い暑いというのです。
しかもエアコンで部屋を冷やす仕組みを理解できていないようで、暑さを感じるとエアコンがついているのに、窓を全開にして冷気を逃がしてしまいます。
かといって、居間にずっといて動かないと26℃では寒いというので、27℃に設定するのですが、今度はわたしが暑くてたまりません。親子の体感温度の差を埋める方法はないかと考え、思いついたのが扇風機です。
エアコンの設定温度は母に合わせつつ、わたしだけに扇風機の風を当てるようにしてみました。たまにわたしに当たった風が母のほうへいって、寒いと言われることはありますが、この方法で親子の体感温度の差を埋めることに成功したのです。
母の体感温度を探るのは大変でしたが、扇風機のおかげで同じ部屋に居られるようになりました。
母は扇風機を忘れてしまった?
扇風機は、わたしが遠距離介護生活を始めた10年前より、さらに昔の扇風機だと思います。なので経年劣化が進んでいて、白かった扇風機が黄ばんでいます。そんなに使う機会のない扇風機を見た母が、こう質問してきました。
母:「この丸いの何なの? いくらしたの? どこで買ってきたの?」
わたし:「だいぶ前の扇風機じゃないの?」
扇風機を「丸いの」というくらいなので、単語自体を忘れてしまっているようです。母の目の前には扇風機がずっとあるので、1日中扇風機の質問をされ、いっそのこと「これは扇風機です。昔から家にありました」という貼り紙を貼ろうか、真剣に悩んだほどです。
結局母の質問攻撃に耐えながらも、わたしだけ扇風機の風にあたる生活を3週間ほど続けました。母が扇風機という単語を覚えてくれるかも? と少しだけ期待したのですが、全く覚えられませんでした。
季節感がない母のためにした「夏の演出」
居間にはエアコンがあって、扇風機があって、8月のカレンダーが壁にかかっているのに、母は今が夏だと理解できません。わたしのTシャツと短パン姿を見て、寒くないのかと心配するほどです。
夏の雰囲気が足りないかもしれないと思い、うちわを飾り、おいしいスイカを何度も食べてもらって、これでもかってくらい夏を演出してみたのですが、リンゴはないのか? とまるで冬のような発言を繰り返していました。
季節感のない母の熱中症対策のために帰省しましたが、岩手の梅雨明けは7月末でしたし、8月もずっと雨続きで、この夏はそれほど熱中症の心配はいりませんでした。
高齢になると暑さを感じづらくなると言われていますが、母の場合は涼の取り方自体を忘れてしまったのかもしれません。新しいエアコンと古い扇風機を使って、残りの夏を快適に過ごせるといいなと思います。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(79歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442。
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