連載

冷蔵庫を開けっ放しでマヨネーズを口にする認知症の母…衝撃を受けた息子が考えた過食対策

 岩手・盛岡に暮らす認知症の母を東京から遠距離介護している工藤広伸さん。じわじわと認知症が進行する母が、冷蔵庫を開ける頻度が増えている。食べたことを忘れ、冷蔵庫の中にあるものを食べてしまう「過食」も心配だ。なぜ母はそんなにまで冷蔵庫を開けてしまうのか?母を思う息子が考える、問題行動の原因と対策とは。

認知症の母が冷蔵庫の中を異様に気にする3つの理由

 母が冷蔵庫、野菜室、冷凍庫のドアを次々と開け、警告音が鳴っているのに中の食材をお構いなしに整理していました。冷蔵庫を長時間開けていると、庫内の温度が上がって電気代がムダになりますし、食材をダメにしてしまう可能性もあります。

 母がなぜ冷蔵庫を何度も長い時間開けてしまうのか、わたしなりに3つの理由を考えてみました。

1.食べたことを忘れてしまうから

 1つ目は、食事を食べたことを忘れてしまうからです。18時に夕食を食べ終わっても、19時には「あれ、ご飯食べたかしらね?」と言います。ひょっとしたらまだご飯を食べ終わってないと思い、冷蔵庫を開けてしまうのかもしれません。

 わたしが近くに居るときは母の行動を止められますが、たまに冷蔵庫の前に立ったまま、中の食材を食べてしまう日もありますし、ひどいときは2時間おきに何かしらの食材を口にしてしまう日もあります。

 以前、飲料を大量摂取した次の日の朝に、シーツやふとん、マットレス、畳まで汚れる大失禁を経験しました。1リットルサイズの飲料をぐびぐびと飲む母の姿を目撃したので失禁の理由が分かったのですが、これ以降、飲料は200mlのパックジュースにサイズダウンしました。

 かといって、冷蔵庫に食材を何も置かない状態にすると、何でもいいから食べようと思うようで、先日はマヨネーズを直に、まるで飲むように口にしていました。さすがにショックを受けましたが、制限し過ぎた自分の行動を反省して、数本の飲料だけは置いておくようにしています。

 母は食べたことを忘れて、また食べてしまう過食の症状がありますが、最近血圧が170を超える日もあるので、つい「冷蔵庫閉めて!」と言い過ぎてしまう日もあります。

 注意された内容は覚えていなくても、どこかで食べてはいけない感覚が母には残っているので、居間のカーテンの裏やふとんの中にパックジュースのカラを隠し、わたしが見つけることもあります。制限し過ぎるのもダメですし、食材を多く置いておくのもダメなのです。

2.整理整頓が好きだから

 2つ目は、整理整頓が好きでキレイ好きな母だから、冷蔵庫の中の食材も部屋のものと同じような感覚で整理しているのだと思います。

 母は認知症になってからやたらと部屋の模様替えをするようになり、実家に帰省するたびに物の配置が変わっています。冷蔵庫の食材も納得いくまで整理するので、その結果長時間冷蔵庫を開けることになるのだと思います。

3.料理ができる母親のイメージがしっかり残っているから

 最後の理由は、認知症が進行していても料理が得意だった母親としてのイメージが、しっかり残っているからだと思います。

 認知症がまだ軽度の頃は、料理ができていました。しかし重度まで進行した今は、わたしに言われるとおり、朝食で目玉焼きを作り、夕食で味噌汁とホウレンソウのおひたしを作るのみになってしまいました。

 母と話していると、自分で献立を決め、スーパーまで買い物に行って、自分で料理をしていると思い込んでいます。しかし実際はヘルパーさんかわたしが買い物をしていますし、料理をしています。

 それでも母は、

「お母さんがやるから、あんたは座ってなさい」

「今日は何が食べたいの?」

 これらが口癖で、わたしが料理を始めると、すぐ台所にやってきて料理をすると言います。あまりに自分がやると言うので、そこまで言うなら黙っているからやってみてと、結果は分かっているのに料理をお願いしたことがあります。

 しかし、台所に立った母は何もできず、わたしに何をしたらいいかを逐一聞いてきました。母も少しは現実を理解して落ち込むのかと思いきや、わたしの指示通りに動いて料理を完成させても、自分で料理を作っているイメージのままだったのです。

 わたしが一緒に居るときはこういうやりとりになりますが、不在のときは冷蔵庫の前で食材を見て、何かを作ろうと考えはするけど結局できず、すぐ口にできる食材を探すために冷蔵庫を長く開けるのだと思います。

 おそらく母は冷蔵庫の前に立って、食材を整理整頓したり眺めたりすることで、自分は料理ができる、料理をしたという達成感を得ているのだと、わたしは解釈しています。

冷蔵庫が開かないようにドアをロックするか?

 正直なところ、母にはムダに冷蔵庫を開けて欲しくありません。過食につながりますし、それが更なる高血圧を招いて、健康に悪影響を及ぼすかもしれないからです。

 とはいえ冷蔵庫を開ける行為は、母の最後の砦のような気もしていて、冷蔵庫のドアの開け閉めをロックできるツールの購入を検討しましたが、今は我慢しています。

 必要最小限の食材を置きながら、母親としてのプライドは守りたいと思ってはいますが、いつまでこの運用が続けられるのか、正直分かりません。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(78歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

●認知症が進行する母の夏の暑さ対策|エアコンの遠隔操作と熱中症警戒アラートのLINE通知

●認知症の母が要介護2から3へ!遠距離介護にかかる月額費用と内訳の実例を公開

●料理が得意だった母に異変?サラダ油を隠した息子の行動に学ぶ認知症介護の秘策

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この記事へのみんなのコメント

  • 黒猫1209

    冷蔵庫を小さめのサイズにして保存する物を少なめにしてみたらどうでしょうか。

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