ある老健で発生したクラスター、終息までの経緯と介護職が抱える課題「出勤は地獄の片道切符だった」
介護施設で働きながらブログで情報を発信しているたんたんさんこと、深井竜次さん。たんたんが夜勤で働いている老人保健施設で7月に新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)によるクラスターが発生。その様子をレポートした記事に多くの反響が寄せられた。そこで、クラスターが終息するまでの経緯について振り返りながら、介護職のコロナ対応の方法や課題点について考察する。
介護士ブロガーのたんたんと申します。
介護現場で働いている経験や知見をもとに、「多くの介護士さんが幸せな働き方を実現できるように」という思いを込めて、ブログを運営しています。
介護ポストセブンでもこれまで僕が介護現場で経験した出来事や学びを、「介護士さんをはじめ介護にかかわる多くの人に参考になれば…」と思って記事を書いてきました。
先日公開した『30人以上のクラスターが発生した老健 職員のコロナ対応の実例と嘆き「防護服で全身汗だくの悪夢」』を公開したところ、多くの介護士さんから同じように大変な思いをしているというコメントがありました。
→30人以上のクラスターが発生した老健 職員のコロナ対応の実例と嘆き「防護服で全身汗だくの悪夢」
僕自身、初めてクラスターの経験をして、思った以上に消耗しました。今回の記事では、クラスター騒動の一件を振り返りながら、僕が感じた問題点や課題について書いてみたいと思います。
どのようにコロナは終息したのか?
僕が働く島根県の老人保健施設では、7月の初旬にコロナのクラスターが発生しました。職員、利用者様合わせて30人以上が感染して、執筆当時は本当に人手不足の中でピリピリした状態で仕事をしていました。
「次は自分の番ではないのか?」と思いながら感染者がいる施設に出勤し、ハードワークをこなしていくことに、多くの職員がストレスを感じていました。
この記事を執筆している7/28現在は、施設内のクラスター騒動はだいぶ落ち着き、感染した利用者様の隔離も解除され、最初に感染した職員も施設に戻ってきました。
1フロアで収まった不幸中の幸い
7月初旬に発生したクラスターでは、1階のフロアは職員数名と利用者様がほぼ全員感染してしまいました。感染を免れた数名の職員がフルで勤務に入って対応していましたが、このままでは1階は全滅してしまうのではないかという悪夢の日々を過ごしました。
感染した職員が復帰してきたことで勤務態勢が徐々に落ち着いてきました。僕が働いている2階では、クラスターが発生する事なく終息しました。
2階は利用者もスタッフも人数が1階より多いため、1階だけで封じ込められたのは、不幸中の幸いだったかもしれません。
また、重症化して病院へ救急搬送される利用者様も複数名いらっしゃいましたが、今は退院して全員が戻られています。
コロナ対応で勤務時間が膨大に!
今回のクラスターで感じたのは、職員が本当に頑張って働いて乗り切ったということです。
「クラスターをこれ以上広げてはいけない」という強い思いから、感染していな職員が休んでいる職員の分をハードワークでカバーしていました。皆残業も増えていましたし、毎日誰かしらが早番と遅番を同時にこなしていました。
ある程度終息した今でも、まだ現場復帰していない職員がいるので、その分を残業でカバーしている状況は続いています。
7月初旬に感染が広がった直後は、先が見えずに苦しい思いをしていましたが、「あともう少しで元の状況に戻る」という先行きが見える今は、少し気持ちも落ち着いています。
クラスター終息のためにどのようなことをしたか?
クラスター終息のためにしたことといえば、特別なことではありませんが、基本的な感染対策を徹底して、感染を広げないように努めたということです。
まず、クラスターが発生した1階で働く職員を限定し、居室対応を徹底しました。居室対応のときは、防護服、マスク2重、防護帽子という完全防備です。
食事ももちろん、通常は食堂で集まって食べますが、利用者一人一人の部屋で提供し、介助をしていました。朝食は7時半からですが、すべて終わったときには10時を回っていたという日も度々あったと、対応した職員は語っていました。
主に2階で働いている僕が所属する部署からは3名の職員が1階にヘルプにかり出されました。感染した利用者様の対応をした職員は、2階には戻らないという勤務態勢を徹底していました。
今回のクラスターは、同じ日に複数人が感染してそのまま一気に広がっていきました。1つのユニット※1内だけでの感染なら、そのユニットを封鎖すればいいのですが、今回は複数のユニットで感染者が同時に発生したため、初期対応が非常に難しかったと思います。
コロナ患者の対応は、「最初の対応が大事」と言われますが、実際にクラスターを経験してみると、対応に問題があったのではなく、「どうしようもなかった」というのが正直なところです。
※1ユニット:利用者を10人程度の「ユニット」に分け、介護サービスを提供する形態。
介護施設でのコロナ対策の課題と問題点
介護施設でのクラスターを経験して一番感じたのは、コロナ対応をすることで、施設にも職員にも大きなデメリットがあるということでした。
具体的にどのようなデメリットかというと、
●コロナが発生した場合は、新たな入居を断ったりお待ちいただいたりすることになるため、その分の利用料が減ってしまう。
●重症化した利用者様が入院してそのまま退所する場合もあるため、利用者が減ってしまう。
●人手不足で残業や休日出勤をする職員が増えるため、心身の疲労が大きい。
●コロナ対応で疲弊した職員は最悪の場合、退職を考える人もいるのではないかと考えられる。
友人の介護士が言った「地獄の片道切符」
とくに心配なのは、コロナ対応によって心身を病んで休職や退職に追い込まれるかもしれないというリスクは本当に不安です。実際、今回のクラスター騒動で多くの職員が残業・休日出勤をしていました。
感染した利用者様が施設にいるという状況で働き続けていた職員は、本当に日々不安を抱えながら心身共に疲弊していました。
以前、僕の友人が勤めている介護施設でクラスターが発生したとき、職場に行くことを「地獄の片道切符だ」と皮肉を言っていましたが、実際に経験してみた今は、その言葉の意味を理解できます。
今回のクラスターが終息したことにホッとする反面、「またクラスター起こってしまったらどうしよう」という気持ちほうが大きいのが本音です。この不安はいつまで続くのでしょうか。
介護職や施設に対してコロナ対応をしたことたの「恩恵」があってもいいのではないか。それは、慰労金という金銭的な形だけでなく、「特別休暇」のような心身をリフレッシュする時間であってもいいと思うのです。
クラスターを経験し、感染せずにギリギリで奮闘していた職員のケアを考えて欲しいと強く感じました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
文/たんたん(深井竜次)さん
島根県在住。保育士から介護士へ転職し、介護士として勤務。主に夜勤を中心に介護施設で働きながら介護士の働き方について綴ったブログ『介護士働き方コム』を運営。著書『月収15万円だった現役介護士の僕が月収100万円になった幸せな働き方』(KADOKAWA)が話題に。