急増するコロナ胃痛「機能性ディスペプシアの増加率3倍に」症状や原因を専門医が解説
50才を過ぎたあたりから、「若い頃と同じように食べられなくなった」「胃がもたれる」「ゲップや膨満感がある」など胃に不快症状を感じることはないだろうか?長引くコロナ禍のストレスから『コロナ胃痛』が増えているという。とくにここ数年で増えているのが、「機能性ディスペプシア」や「逆流性食道炎」だ。専門医に胃の不調の最新事情について教えてもらった。
ストレスで「コロナ胃痛」が増えている
7月に入り、再び新型コロナウイルスの第7波が襲来しているが、第5波が収まっていた頃、2021年11月に発表された調査(※)によると、胃の不調を感じている人は全体の45.8%。その約半数が、前年より不調の程度が「重くなっている」と回答している。
「症状がある人には、ストレスが原因だと自覚している人が多く、『コロナ胃痛』ともいわれています」と言うのは、新板橋クリニック院長で消化器内科医の清水公一さんだ。
「受診する際に、胃が痛い、食べてもすぐにお腹がいっぱいになる、胃がもたれる、胃のあたりが気持ち悪い、胃酸が逆流するという、5つの症状を訴える人が多く、皆さん深刻に悩んでいます」(清水さん・以下同)
これらの症状の中で、特に警戒したいのは胃の痛みだ。
「胃痛と思っていたのに、ほかの場所に病気が見つかることがあります。最近、増えているのは『膵臓(すいぞう)がん』。
膵臓は肝臓と同じで沈黙の臓器といわれ、がんがあっても無症状。最新機器を使った検査でも発見しにくい傾向にあります」
膵臓は胃の下部の後ろ、背中側にあるため、胃のあたりに痛みを感じることが多い。このほか、胆のうや胆管の痛みも放散痛といってみぞおちに響くため、胆石が原因で胃痛を感じることもある。
※ヒューマン・データ・ラボラトリによる第2回「胃の不調実態調査」(全国の20才以上の男女2000人を対象に2021年9月6~7日に実施したインターネット調査)。
胃と食道で行われる消化のしくみ
10人に1人は「機能性ディスペプシア」
「ただ、胃に不調を訴える人の約半数は、検査をしても胃に炎症や潰瘍、がんなどの異常が見つかりません。症状があるのに異常がないケースは以前からあり、神経性胃炎やストレス性胃炎と診断されていましたが、2013年に『機能性ディスペプシア』という病名がつきました。いまや日本人の10人に1人はかかっているといわれています」
正常な胃の運動
胃の機能障害が起きる 「機能性ディスペプシア」
「機能性ディスペプシア」の症状は?
具体的には、どんな症状が出るのだろうか。
「まずメカニズムから説明すると、私たちは体外から栄養を摂取し、吸収することで生命活動を維持しています。口から入った食べ物は、そのままでは栄養を吸収できないため、歯で噛み砕かれ、唾液と混ぜられた状態で食道を経由して胃に運ばれます。そして、胃の上部が膨らむことで食べ物を受け止め、胃酸の力を借りてさらに細かく消化し、十二指腸に送り出します。
ところが、『機能性ディスペプシア』の場合、胃の上部がうまく膨らまず、消化機能がきちんと働かなくなるため、消化に時間がかかるようになり、胸やけや胃もたれ、食欲不振、膨満感などの症状が表れます」
不規則な食生活や暴飲暴食、早食い、油っこいものを食べたときなどに症状が出やすいのが特徴で、胃の感受性が過敏になり、胃酸の刺激を痛みと感じる人もいるという。
「ストレスなど、さまざまな要因が重なり、自律神経が乱れて胃の消化活動がスムーズにできなくなることで発症するため、コロナ禍に不安を抱えたことや、生活様式が変わったことも関係していると考えられます」
胃の圧迫が招く、逆流性食道炎
もう1つ、増えているのが、胃酸が食道に逆流する「逆流性食道炎」だ。
食べ物が胃の入り口にある「噴門(ふんもん)」に到着すると、下部食道括約(かつやく)筋という筋肉が緩み、弁が開いて食べ物が胃の中に入る。本来は、食べ物が通過するとき以外は噴門は閉じているが、食べすぎなどで胃が膨らみすぎると、元の大きさに戻ろうとする際に弁に圧力がかかって噴門が開いたり、胃酸が過剰に分泌されて逆流しやすくなるのだ。
「このとき、すっぱいものがこみ上げる(呑酸・どんさん)症状や胃もたれ、胸やけ、吐き気、ゲップを繰り返す、膨満感などの症状が表れます」
胃酸が逆流する「逆流性食道炎」
この症状を訴える人がコロナ禍に増加したのは、コロナ太りでお腹まわりに脂肪がついて胃が押される、猫背姿勢で胃のスペースが狭まって胃が充分に膨らまないなどが原因と考えられる。
「骨粗しょう症で背中が曲がってしまった場合も胃が圧迫されるため、逆流性食道炎が起こりやすくなります。また、70才を過ぎる頃には、加齢により食道の筋肉や逆流を防ぐ弁の働きが衰え、胃酸が多くなくても逆流しやすくなります。逆流性食道炎を放っておくと、胃酸によって食道が傷つき、食道がんに進行することもあるので、症状があったら早めに受診して治療することをおすすめします」
前出のアンケート調査で、胃の不調により通院、検査をした人の直近の診断結果を調べたところ、2020年は「異常なし」が68.8%で逆流性食道炎と診断された人が12.6%だったが、不調を感じても72%が通院を控える傾向にあった2021年は、「異常なし」が37.4%に減り、逆流性食道炎と診断された人は30.4%に増加した(下表参照)。
コロナ禍で胃の不調からの診断がこんなに増えた!
順位:診断結果|2020年|2021年|倍率
1位:がん|0.5%|2.6%|5.2倍
2位:機能性ディスペプシア|1.4%|4.3%|3.1倍
2位:胆石|1.4%|4.3%|3.1倍
4位:逆流性食道炎|12.6%|30.4%|2.4倍
5位:その他|2.3%|5.2%|2.3倍
6位:胃炎|12.6%|22.6%|1.8倍
7位:ピロリ菌がいた|4.2%|5.2%|1.2倍
8位:胃潰瘍|2.3%|1.7%|0.7倍
9位:異常なし|68.8%|37.4%|0.5倍
10位:狭心症|0.5%|0%|0倍
胃の不調で通院、検査をした人の直近の診断結果を前年の調査と比較して、増加率でランキングにしたもの。「がん」診断の割合は9位だが、倍率は5.2倍と急増。「機能性ディスペプシア」と「胆石」が3.1倍、「逆流性食道炎」が2.4倍になった。
胃の不調は放置せず検査を
「40才以上になると、がんが発見される割合が増えます。不調を感じたら、まずは症状に合わせた市販薬をのんで様子を見るのもいいですが、1週間以内に改善されなければ病院へ。1週間以内に改善されても、1~2か月のうちに3回程度、痛みを繰り返すようなら、内科や消化器科でしっかりと検査してください。
病院で“異常なし”と診断されれば、自律神経の乱れや、胃に負担をかける姿勢や食生活が胃の不調の原因と考え、これらを解消していけばいいでしょう。加齢による胃の衰えは、50才を過ぎたあたりから見られるようになりますが、日常生活で胃を労りつつも、鍛えるように心がければ、衰えた胃は元気に若返ります」
教えてくれた人
新板橋クリニック院長・清水公一さん
消化器内科医。脳内物質と自律神経、腸・胃脳相関の視点から機能性消化管疾患(逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群)の治療に取り組んでいる。患者自らが脳内物質と自律神経をコントロールして症状を改善する専門治療を行っている。
取材・文/山下和恵 イラスト/うえだのぶ
※女性セブン2022年8月11日号
https://josei7.com/