「横柄な性格の父が大嫌い。もう世話を放棄したい」と悩む55歳女性を毒蝮三太夫が励ます|「マムちゃんの毒入り相談室」第31回
「こんな親とは縁を切りたい!」と思っても、実際にはそうはいかない。90歳の父親は独り暮らし。母親は認知症で施設に入っている。横柄でキレやすい父親のことが、昔から大嫌いだったという55歳の女性。今も理不尽なことを言われ続け、「もうお世話を放棄したい」と思い詰めている。マムシさんはどんな言葉をかけるか。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「もう父親の世話を放棄してもいいですか?」
いやあ、毎日暑いなあ。ジジイもババアも、せっかくここまで生きてきたんだから、熱中症には気をつけろよ。年寄りは暑さを感じるセンサーが鈍ってんだから、暑くなくてもエアコンをつけよう。節電も大事だけど、命のほうがもっと大事だ。水分補給も忘れんなよ。喉が渇いたと思う前に、小まめに水分をとってくれ。
今回の相談に行ってみようか。55歳の女性が、お父さんとの関係に悩んでいる。
「90歳の父親が近くに一人で暮らしています。母親は認知症で施設に入っております。父親は昔から性格が横柄で、自分の思うようにならないとすぐキレて人にあたるような人間です。昔から大嫌いですが、私しか面倒を見るものがいません。傍若無人なことを言われても、私のほうが気持ちを抑えて付き合って来ました。しかし、この歳にもなってまだ理不尽な態度、言動に限界で、縁を切りたいぐらいな状態です。私は、もうこの父親のお世話を放棄してもいいでしょうか?」
回答:「親の面倒を見た人は、いい年寄りになれる、と俺は思うんだ」
そうか、苦しいな。毎日腹が立つことを言われて、これまでのこともあって、父親と縁を切りたい、世話を放棄したいとまで思い詰めてる。そう思ってしまうことで、また苦しい気持ちになっている。がんばってるよな。もしあなたが目の前にいたら、頭をなでてあげたいところだ。まずは顔をあげて空を見上げて、思いっ切り深呼吸してみよう。
どんなに嫌いな親でも、簡単に縁を切ることはできない。自分が蒸発して別の場所で名前を変えて生きていけば、親との縁も切れるかもしれないけど、そんなことは現実には不可能だ。それに、本当に縁を切ってそのまま親が亡くなったら、きっと悔いが残るよ。
「横柄で、自分の思うようにならないとすぐキレて人にあたるような人間」と付き合っていくのは、たしかにたいへんだ。ただ、90歳の人の性格は、今さらどうやっても変わらない。「変わってほしい」と思えば思うほどストレスが増すばかりだ。現状を少しでもいい方向に変えるには、これはもう自分が受け止め方を変えるしかない。
すぐキレて扱いづらい父親は、言ってみれば瀬戸物なわけだ。硬いわりにはすぐパリンとなる「割れ物」だね。こっちも硬い瀬戸物だったら、接するたびにぶつかってお互いにすぐ割れちゃう。割れなかったとしても、ガシャガシャと嫌な音が出る。それは自分にとっても不愉快なことだ。
だったら、こっちは布団になればいい。割れ物をふんわり受け止めれば、壊れて面倒なことにならないし、嫌な音も出ない。理不尽なことを言われたからと、言い返したりこっちまで怒ったりしないで、「そうね」と穏やかに受け止めてあげよう。「なんで私がそんなことを」と思うかもしれないけど、それが苦労を少しでも減らすための知恵だ。
今は親の世話でいっぱいいっぱいかもしれないけど、自分のこれからのことも考えなきゃいけない。子どもである自分のほうが先は長いわけだから、これからどんなジジイやババアになっていくかも大事だ。手のかかる親や憎たらしい親は、子どもがいいジジイ、ババアになれるように鍛えてくれてるんだって考えることもできる。
ただ、横柄な態度でわがままばっかり言われたら気が滅入るよな。以前、阿木燿子さんに教わったんだけど、宇崎竜童さんの父親を長く介護してたときに「お義父さんの3つの言葉で救われた」って言ってた。その3つの言葉っていうのは「ありがとう」「すまないね」「惜しいなあ」。あなたの父親は、実際はそういうことを口にできないかもしれないけど、「心の中ではそう言ってる」と思っちゃえば、少しは気持ちが楽になるかもね。
多くの人を見てきて言えるのは、親の面倒を見た人は、いい年寄りになれるってことだ。とくに介護で苦労した人は、そのあといい人生を歩める。俺はそう思ってるし、やっぱりそうだと思いたい。今、「ヤングケアラー」が注目されてるよね。社会が無関心過ぎたのは大問題だし、助けてあげなきゃいけない。それは当然だけど、家族の世話で苦労している子は、きっといい大人になるよ。その経験はマイナスなだけじゃないはずだ。
もちろん、すべてを自分が背負い込む必要はない。肉体的に精神的にもつぶれてしまわないように、行政や周囲の力を上手に借りよう。そうしながら、できるだけのことをしてあげるのがいいんじゃないかな。手のかかる親の面倒を見た経験も、いつか振り返って「あれはいい勉強だった」と思える日が来るよ。「親の世話ができるのは幸せなことなんだ」と感じることだってあるかもしれない。ま、それはいなくなったあとかもしれないけど。
どんなやり方を選ぶにせよ、大切なのは悔いを残さないことだ。人生も川も、クイが残ってると余計なものが引っかかって流れがよどむからね。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。4月からポッドキャストでスタートした大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。