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連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第150回 まさかのキッチンオシ?】

 若年性認知症の兄と暮らすライターのツガエマナミコさんが日々の暮らしを綴る連載エッセイ。症状が進んできた兄は、ベランダで排尿してしまう通称「ベラオシ」を皮切りに、排泄のトラブルが止まりません。先日は、行方不明になってしまう事件も発生し、心が休まる日のないマナミコさんですが、またまた悲しい出来事が起こってしまった模様。

「明るく、時にシュールに」、認知症を考えるエッセイでしたが、もうそれどころではない状況か…。

 * * *

連載150回をお祝いしたいところなんですが…

 いよいよ 150回目となりました。たくさんの励ましのお言葉、応援のお声がなければ、とっくに終わっていたことと思いますが、おかげさまで丸3年を迎えようとしております。自分がしている介護が正解かどうかわからない中、「大丈夫だよ」と言っていただいているような気がしております。そのお声がある限り、そして小学館さまが「書いてもいいよ」と懐深くいてくださる限り、ツガエは書き続ける覚悟でおります。(途中で気が変わったらごめんなさい)
 
 今回は、前回予告した通り、わたくしが目撃した衝撃的な場面をお話しいたします。

 それはマンションの大規模修繕工事の足場も取れ始め、兄の一人放浪の一件からも落ち着いてきたころでした。キッチンの流しのふちにお尿さまの痕跡を見たのです!

 夕食の支度をしようと台所に立つと白い流し台のふちに黄色い液体が…。洗面所で用を足す兄のおしるしとそっくりなものが、ついにキッチンにもついてしまいました。

「許せん!」と猛然と怒りがこみ上げ、手にしたコーヒーカップを床にたたきつけたい衝動にかられました。でもそれが従姉弟からいただいた値の張るカップだったのでギリギリで思いとどまり、握りこぶしを作ってワナワナと震えました。

 泣きそうになりながら掃除をし、消毒をし、嫌々食事を作りました。あとから「お茶かスープだったかも」と可能性を考えて、なんとか平静を保とう努力いたしました。

 でもその数日後、キッチンの流しの前でそそくさとズボンを上げている兄がいたのです。

 何食わぬ顔で椅子に戻ってテレビを観る兄。わたくしはその後ろ姿に向かって申し上げました。「今、ここでオシッコしたでしょう」と。でも兄は「え?」とすっとぼけます。

「ここは何をするところか知ってる? ご飯作るところなんだよ」

 そういっても兄は「そうか、そうなんだ」と白を切ります。

「ここでオシッコしちゃダメなの。食べる物を扱ってるんだから」とだんだん語気が強くなっていくわたくしに、兄は「すんません。もうしません」とのたまいました。いつもの姑息な手段です。すかさずわたくしは「今、謝ってくれたけど、何に対して謝ったの?どんな悪いことをしたか教えて?」と訊いてみました。

 答えられない兄にさらに「もうしませんって、何をしないって言ってるの?」と畳みかけ、ふと「こんなこと言わせてもしょうがないんだ」と思い、アホらしくなってやめました。

 そして天井を仰いで「ここでオシッコしないようにするにはどうしたらいいの!?」と叫び、兄と口を利くのをやめました。

 できれば流しのふちに有刺鉄線を設置したいくらいです。でもそんなことはできないので、取り急ぎお米やジャガイモを入れているキッチンワゴンを流しの前にビタリとつけ、袋ラーメンを流しのふちに並べて、オシッコするにはいろいろどかさなければならない状態を作り出しました。

 当然、わたくしにとってもかなり面倒なわけですが、“キッチンオシ”(キッチンでオシッコ)を阻止するにはやむを得ません。でも兄はチャンスがあればキッチンでやろうとする傾向があり、うっかり障害物を置くのを忘れてキッチンを離れると、次に見たときには例のおしるしがついている。油断も隙もないとはこのことでございます。

 そんな中、兄の放浪騒動でお世話になった交番と管理人さまに手土産のお菓子を持ってご挨拶に伺ってみました。でも、どちらとも受け取ってもらえませんでした。あくまで規則だったり、善意だったりするのですが、「こういうのはいただけませんから」と丁寧に押し返されたわたくしは、なぜかものすごく悔しくて、家に帰るなり手提げ袋ごと床に投げつけました。ひしゃげてしまった箱の角を見てますます悲しくなったのは言うまでもございません。この怒りはおまわりさまや管理人さまに対してではなく、兄に翻弄された上に、こんな小さな自己満足も許されない、何もかもうまくいかないここ数年の人生に対してです。「どんだけいじめたら気が済むの~!」と天を睨んだ瞬間でございました。

 まだ怒れる気力があるだけ健康だと自己分析しております。これからもどんどん怒って毒を吐いていく所存でございます。宜しくお付き合いのほどお願いいたします。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性59才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現63才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●ショートステイを賢く利用するコツ<1>~プロが教える在宅介護のヒント~

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この記事へのみんなのコメント

  • すみません

    編集部の方へ 前回と今回の記事に、「前の記事を読む」「次の記事を読む」のリンクボタンが載っていません。 あると助かるのでよろしくお願い致します。

  • ブースカ

    こんにちは。 マナミコさんの記事、毎週楽しみにしています。 今回の記事は本当に落ち込みますね。 我が家も夫が認知症で、日々格闘しております(以前は隣に住む私の両親も認知症で3人の対応で本当に大変でした。今は父は他界し、母は特養に入っております) で、今回の問題に我が家でやっている事が少しでも参考になればと、コメントさせて頂きました。 引き戸になってる夫の部屋のドアの上の方に、L字形金具を取り付け、開けると横のドアの上にぶら下げてある風鈴に当たり、チリリーンと鳴るようにしています。 トイレのドアには、熊よけベルを2コぶら下げてあるので、開けるとカランカランと鳴ります。 台所のドアにも熊よけベルを2コぶら下げて開けると鳴るようにしています。 夫の部屋には、見守りカメラをつけてあり、様子を見たり、会話もできます。 そんなふうで、夫の動きがある程度把握できるようにしています。 風鈴は家にあった物ですし、熊よけベルとL字型金具はダイソーで購入しました。見守りカメラは、3600円くらいでした。 夫はオムツを着けているのですが、トイレにも行くので、寝具、トイレ、時々廊下も汚してという状態です(それの工夫もしています) マナミコさん、周りの方に相談したり頼ったりしながら、無理をなさらずにやっていって下さいませね。 そして小規模居宅介護や特養なども検討なさってみてはと思います。 どうかお体大切に。 応援しています☺️

  • かおちゃん

    先程のコメントの補足。 小規模多機能のショートステイは正確な言い方ではないかもしれないので誤解を生むかなと思い、書き直し。 ご存知かもしれませんが、小規模多機能とは、 ・通いサービス ・訪問サービス ・宿泊サービス が一緒になったものです 24時間、定額で使い放題。 今現在のデイサービス1本よりは手厚い介護が受けられる可能性も。

  • かおちゃん

    排泄の失敗が自宅介護の限界、と言われている部分もあります。 また、排泄の失敗をする前の方が施設にすんなり馴染めるチャンスと言う方もいます。 とにかく認知症患者さんの排泄の失敗は介護する人にとっても、される側にとっても辛い物です。 とぼけいる様に思えるお兄さんも実はそうでもしないとその場にいられない居た堪れなさがあるからかもしれません。 台所でそれこそ大をするようになったり、弄便が始まる前に、グループホームに 入れる手立てはありませんか? お兄さんと世帯分離をすれば公的サービスを受けやすくなりませんか? お兄さんに年金がないのなら、お兄さんには思い切って生活保護を受けてもらうとホームへのお金の心配もずいぶん減るのではと思います(今現在同居なので色々と条件があると思いますが)。 まずは介護度の再認定をお願いしてはどうでしょうか。 そして小規模多機能という手もあります。 これは定額使い放題です。 ショートステイもあります。 記事を読む限り、お互いが限界なのではないでしょうか。 専門家でもないのに、あれやこれやとお節介申し訳ありません。

  • みかん

    ツガエさん(ツガエ様)、時々コメントさせていただいている者です。 私も認知症の義父との関わりがあったので とても他人事とは思えず、本当に心配しています。 義父は今のお兄様に比べたらまだ症状は軽かったのですが、ある時期から限界を感じて施設にお願いしました。私もストレスやイライラが蓄積し、これ以上は無理だと自分の中で"SOS"でした。 ツガエさんは、親でも夫でもなく兄妹という関係なのに、本当によく尽くしておられて立派だと思います。 私は義父のとんちんかんな行動に、ついつい声を荒らげることがありましたが、それに比べたらツガエさんは、怒りをぐっと抑えてお兄様にはなるべく普通に返答しておられるご様子ですし、 認知症介護の1番大変かもしれない部分、排尿排便の失敗についても、怒らずに黙って後始末やお掃除をされていて、ひたすら耐えておられて…本当に頭が下がります。 ツガエ様は仏様のような方だと感じますよ。 ですが今回、キッチンでの排尿・・それはさすがにキツイですよね(>_<") その後、色々あって、思わず菓子折りを壁にぶつけたとのこと、 もちろんそのお気持ちわかります。 どこにぶつけていいのか、怒りや悲しみやせつなさもありますよね。 でも、やはり危ういものを感じます。ツガエさんが何もかも一人で背負っておられますが、さすがにもう限界なのでは・・ 以前の記事で、施設入居の可能性も書いておられたような。。 (要介護認定はどうだったんでしょうか、ここまで進行したら再度要介護認定の再申請をされてはどうですか?) 可能であれば、さすがにもう施設にお願いする時期なのではないでしょうか? ツガエさんが介護うつやノイローゼにならないか心配です。 お一人で抱えこまないよう、頼れるサービスは頼ってくださいね。これからも応援しています☆彡

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