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健康

80代はやらないほうがいい3つの治療・健康な80代のための予防策5つ【医師監修】

「80代は、手術をはじめとした大規模な治療がかえって生きる気力を奪ってしまうケースもある」。こう語るのは、高齢者専門の精神科医・和田秀樹さんだ。80代を元気に超えるために、やってはいけない3つの治療法や、5つの病気予防法について専門医に解説いただいた。

過度な治療が体の衰えを生む

 食生活の改善や運動のようなアクティブに取り組むべきことがある一方、80代を迎えたら控えるべきこともある。

 高齢者専門の精神科医で、『80歳の壁』(幻冬舎新書)の著書があるこころと体のクリニック院長・和田秀樹さんは「治療のしすぎ」に注意すべきと警鐘を鳴らす。

「体力や身体機能が衰えてくる80代は、手術をはじめとした大規模な治療がかえって生きる気力を奪ってしまうケースが少なくありません。特に、がんの治療は80才を過ぎたら必ずしも必要ではない。そもそも、通常はがんが1cm大の腫瘍になるまで10年かかるといわれているうえ、年をとればさらに進行が遅くなり、転移もしにくくなります。

 一方で、手術や抗がん剤治療などが体に与えるダメージは大きく、高齢者であればそれによって食欲や体重が大幅に落ち、もとの生活ができなくなる可能性が高い。痛みがあったり、生活に大きな支障をきたさない限り、何もせずにがんと共存していくのもひとつの選択肢です。

 また、こうしたQOL(クオリティー・オブ・ライフ:生活の質)を第一に考え、その人に合った病気との向き合い方を一緒に考えてくれるかかりつけ医を健康な体のうちに見つけておくことも大切です」(和田さん・以下同)

 高血圧の治療も同様だ。

「動脈硬化は、どんなに健康な人でも加齢とともに必ず起こります。実際、病理解剖をしていたとき、80才を超えて動脈硬化のない人はいませんでした。しかも、年を重ねてすでに収縮している血管の血圧を下げてしまえばかえって血液が滞って脳に酸素や栄養が行き渡らなくなります。その結果、頭がぼんやりして意識が飛んだり、認知症のような状態になることは少なくない。高齢者は、むしろ血圧を高めにコントロールした方がいいのです」

 控えるべきは治療だけではない。在宅医療で多くの高齢者を診療してきた、たかせクリニック理事長の髙瀬義昌さんは、80代を健康に過ごすために、60才を超えた後はのむ薬を減らすことを推奨する。

「特にうつや不眠の症状で処方されるベンゾジアゼピン系の精神薬は副作用が強く、せん妄が起きたり、認知機能が低下したりするため、控えた方がいい。また、どんな薬であっても年を重ねるほど副作用が出やすくなるため、60才以降はなるべく薬に頼らずに生活することを意識してほしい。不眠なら運動量を増やして日光を浴びるなど、生活習慣の改善で対処するのがベストです。特に年を重ねるほど『熟眠できない』という理由で睡眠薬を服用する人は多いですが、そもそも高齢者は4~5時間の睡眠でも充分。“遅寝遅起き”で問題ありません」(髙瀬さん)

80才を超えたらやってはいけない治療

●がん治療

 そもそもがんの進行は遅いうえ、年を重ねるほどその傾向は顕著になる。一方で手術や抗がん剤など治療による体への負担は大きく、食欲の減退や体重の減少につながる。80才を過ぎてからは治療しないことを選択肢に入れることも検討したい。

●血圧のコントロール

 年を重ねればどんな健康な人であっても動脈硬化になる。収縮した血管の血圧を下げようとすれば、血流が滞り認知機能の低下にもつながる。血圧値を気にするのは80才までに。

●薬ののみすぎ

 健康な体で80代を迎えるためには60代の頃から薬ののみすぎに気をつけて生活するべし。特に向精神薬は副作用も強く依存性も高い。そもそも高齢者になれば睡眠が浅くなるのは当然の傾向。日光に当たるなど自然治癒を心がけたい。

病気予防の「5か条」を実践

 体に負担をかける治療や無駄な薬は避けるべきだが、80才を超えて健康に生きるために必須の医療もある。髙瀬さんは高齢者の生死を分ける重病を遠ざけるための「予防5か条」を提案する。

「肺炎・骨折・帯状疱疹・脳卒中・脱水は80才を超えたら命取りです。これらは事前にしっかり予防することを意識してほしい。まずは65才になったら、誤嚥(ごえん)性肺炎などを予防する肺炎球菌ワクチンを接種してほしい。かかりつけ医に相談して、『ニューモバックス』と『プレベナー』の2種類を受けておくといいでしょう。肺炎球菌による肺炎は高齢者に多く、重症化しやすい。新型コロナウイルスによる感染よりも亡くなる人が多い、恐ろしい病気です」(髙瀬さん・以下同)

 帯状疱疹も年を重ねてから罹患すると、後遺症として神経に痛みが残るリスクが上昇する。

「帯状疱疹の原因は水ぼうそうのヘルペスウイルスです。水痘ワクチンを接種することで罹患率が大幅に低下するうえ、万が一かかってしまっても軽症で済む。一度接種しておけば、5~8年は効果が持続します」

 一度寝たきりになればあっという間に筋力が低下してしまう高齢者にとって、骨折対策は不可欠だ。

「骨がもろくなればそれだけ骨折リスクが上がるため、骨粗しょう症の予防は重要です。特に女性は閉経後にホルモンの分泌量が減少すると一気に骨がもろくなります。のみ薬や注射によって予防ができるため、早いうちから医師に相談してほしい」

 早期対策が必須なのは脳卒中や心筋梗塞といった血管病も同様だ。

「これらの病気はいかに早期に発見できるかが明暗を分けます。最近では、首の頸動脈の硬化度を超音波で調べられるようになり、昔に比べて、心臓まわりの血管系の検査も痛みや体への負担がほとんどなく検査できるようになっています。一度、人間ドックで検査することを推奨します。家族に血管系の病気罹患者がいる人や、糖尿病や脂質代謝異常症の人は特に気をつけてほしい」

 これからの季節は、脱水への備えも忘れずに。

「年を重ねるほど体内の水分量は減少していくため、高齢者になるほど脱水症状に陥りやすい。自宅に経口補水液を6本は常備しておくと安心です。“飲む点滴”と呼べるほど、水やスポーツ飲料よりも体への吸収が速い。常に飲む必要はありませんが、体調が悪いときや下痢をして脱水気味のとき、食欲がないときなどに飲むといいでしょう」

健康な80代のための5つの予防

●肺炎

 65才になったら肺炎球菌ワクチンを受けておくこと。肺炎球菌による肺炎は高齢者に多く、死亡者数は新型コロナよりも多い。

●骨折

 骨がもろくなればそれだけ骨折リスクが上がる。のみ薬や注射によって早いうちから予防に努めたい。

●帯状疱疹

 高齢者は後遺症として痛みが残りやすい。ワクチンを打つことで罹患率が下がり、もしかかっても軽症で済む。5~8年に1度受けておくべし。

●脳卒中

 早期発見が明暗を分ける。首の頸動脈の硬化度を人間ドックで検査すべし。

●脱水

 年を重ねるほど脱水症状のリスクが上がる。自宅に経口補水液の常備を。

※女性セブン2022年6月2日号
https://josei7.com/

●薬を減らすために今日からできる5つのこと 高血圧ほか病気別・減薬法を医師が解説

●多剤併用の弊害が大きい薬の種類と減薬を医師がアドバイス「正しい検査と生活習慣の改善を」

●高脂血症と糖尿病の治療は“一生もの”ではない 服薬のメリット・デメリットと“インスリン・オフ治療”で減薬した実例

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