密入国を体験できるツアー!?そこそこ攻めている旅行番組『これって攻めすぎ!? 世界旅行』が魅力的
出入国制限も緩和され、そろそろ海外旅行? という気分になりたいのに急激な円安! 世の中なかなかままなりませんが、ちょっとした冒険心を満たしてくれる旅番組を見つけました。テレビウォッチャーで漫画家の北村ヂンさんが『これって攻めすぎ!? 世界旅行』(NHK)を紹介します。
実用性のある珍旅行番組
不祥事で放送終了した『クレイジージャーニー』(TBS)が3年ぶりに復活した。
これまで深夜帯で放送されていたのが、ゴールデンタイムでの放送になるということで、スラムや麻薬密造地帯、人体改造などなど過激な内容が売りだった番組内容がマイルドになってしまうのではないか……という懸念もあったが、復活初回放送(10月17日)からコカインの密輸ルートに潜入するなど、早速ぶっ飛ばしていて、一安心といったところか!?
『クレイジージャーニー』は、自分では行きたくない……というか、行く方法も見当が付かないくらいクレイジーな世界を紹介しているが、もうちょっとゆるめに、一般観光客が行くことができる範囲の中で、ギリギリ攻めた珍スポットや珍観光サービスを紹介しているのが、7月よりNHKの深夜枠で放送されている『これって攻めすぎ!? 世界旅行』だ。
「攻めすぎ」とは言うものの、『クレイジージャーニー』と比べてしまうと、まったく攻めていないマイルドな内容。パッケージツアーでは行けそうにないが、ちょっとネットで調べてその気になれば、実際に行って体験できるレベル。実用性のある珍旅行番組と言えるだろう。
番組では、王道な観光地を紹介する「定番ガイドブック」と、「攻めすぎガイドブック」の2冊が登場し、表裏両面からテーマとなる国・地域を紹介する。
オープニングは「定番」からスタートするのがお約束。このパートが意外に長いため、知らずに見ていたら、普通の旅行番組だと思い込んでしまう視聴者もいそうだ。ところが、イギリス・ロンドンの王道観光スポットを紹介していたはずなのに、いつの間にか「攻めすぎ」パートに突入。いきなりフリーメイソンの本拠地に潜入たり、切り裂きジャックの博物館を見せられたり。
「超・有名なビッグ・ベンの近くに、こんな変な博物館があるのか!」という、普通の観光地と地続きな珍スポットを感じることができるのが、この番組の醍醐味なのだ。
密入国を体験できるツアー?
番組で紹介されるのは「一般の観光客もその気になったら行ける」レベルのスポットなので、『クレイジージャーニー』のようにガチで違法な領域には足を突っ込まない。それでも、まあまあ衝撃的な映像が流れることも。メキシコ回では、アメリカとの国境付近で行われている「密入国疑似体験ツアー」が紹介されていた。
メキシコからアメリカに亡命したり、違法薬物を密輸したりする密入国者は社会問題化しているが、このツアーはその「密入国者」を疑似体験できるというもの。最初っから最後まで覆面をかぶって、決して素顔を見せないガイドに連れられ、ウソの国境突破を目指す。
途中、地元ギャングに襲われて、参加者が地面に転がされ、ボッッコボコにケリ回されたり、射殺されたり、「はとバスツアー」では絶対にあり得ないことが起こりまくる。
実はこれ、参加者に内緒で紛れ込んでいた運営スタッフによるやらせ。
参加者も、お金を払って参加しているツアーなんだから、そこまでヤバイことは起こらないだろうと理解しているのだが、終始、お客さま扱いゼロで繰り広げられるハードなツアーに徐々に飲み込まれ、ラスト、ニセの警察官に全員逮捕される場面では、みんな恐怖で号泣してしまうほど。
お金を払って泣かされるツアーって、なんじゃそりゃという感じではあるが、ちょっと参加してみたい!
発禁おもちゃの展示会
アメリカ・サンフランシスコ回で紹介された「デンジャラス・ゲームズ(危ないおもちゃ)」という展示会も面白そうだった。
名前の通り、ここには事故を起こすなどして発売中止となってしまったおもちゃたちが展示されている。なぜか300℃まで加熱するようになっており、ケガ人が続出した(そりゃそうだろう)おままごと用のオーブン。
ガラスで作ってしまったため、遊んでいる途中で砕け散って、破片が顔や体に突き刺さる事故が多発した初期のアメリカンクラッカー。
中でも、もっともヤバイおもちゃが「ギルバート原子力研究セット」。
原子力が未来のエネルギーとして期待されていた1950年代に発売された、放射線が発生する仕組みを観察することができる学習キットである。「観察」するためには当然、放射線の発生源が必要になるわけで、セットには本物のウラン鉱石が付属。なおかつ、追加注文すると、封筒に入れられ、郵便でウラン鉱石が送られてきたんだとか。
……そりゃあアウトだ。
悲しみをジープで晴らすおじさん
観光スポットやサービスに関わる「人」にもスポットが当てられる。
珍スポットにいる人は、たいてい面白おじさん・おばさんなのだが、その中でももっとも心奪われたのが、台湾回に登場したジープ・アーノルド(66)。
本名ではなく、ジープを使ったパフォーマンスを披露する観光スポットを運営していることからジープ・アーノルドと名乗っているおじさんだ。夫婦でそれぞれジープに乗り込んで、巨大なシーソーを使ってアクロバット走行をしたり。ジープを操って三点倒立したり……。こんなジープ・パフォーマンスを30年続けている。
このジープ・アーノルドが、ジープ・パフォーマンスをはじめた理由がすごかった。彼は、30年以上前に兄弟とその家族全員を交通事故で亡くしている。その際、周囲の人たちから慰められるどころか、「お前の一族は前世で悪いことをしたんだ」なんてひどいことを言われたんだとか。
「だから私は自動車事故では死なないことを証明して、世間を見返してやろうと決意したんです」
どういう発想だ!
ジープ・アーノルドはその後、バイクから弓を射て百発百中させるというパフォーマンスも披露していた。……もうジープじゃないじゃん!
「これは戦いなんです。当たらなければ敵の弾丸が自分に当たる。それぐらいの覚悟を持った挑戦なんです」
メチャクチャ格好いい語りの後、バイクに乗り込み、バイク流鏑馬に挑戦するが……思いっきり矢を外していた。
なんと味わい深いおじさん!
このように、「攻めすぎ」とは言いつつ、ほっこり笑えるくらいの珍スポットや面白おじさん・おばさんたちが登場し、安心して見ることができる『これって攻めすぎ!? 世界旅行』。
出入国制限が緩和され、ボチボチ海外旅行も視野に入ってくる昨今。実用性のある珍旅行番組として、ホントに行ってみたくなる「攻めすぎ」珍スポットの紹介を今後も期待したい!(円安が進みすぎて、海外旅行なんて行けそうにないが)。
文とイラスト/北村ヂン
1975年群馬県生まれ。各種おもしろ記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。……といいつつ最近は漫画ばかり描いています。