早朝のフリーダムなクイズ番組『クイズ!脳ベルSHOW』地上波放送をやめないで!
早朝の人気番組『クイズ!脳ベルSHOW』が、この3月で地上波(再放送分)を終了してしまうという。ゲストの独特なラインナップや岡田圭右の愉快なMCを愛してやまないテレビウォッチャー・北村ヂンが、改めて番組の魅力を訴えます。
変な夢でも見ているんじゃないか?
飲んで朝帰りしたとき、もしくは徹夜明けにテレビをつけた際、『おはよう!時代劇』と並んで遭遇する確率が高い番組が『クイズ!脳ベルSHOW』。本放送はBSフジで月~金曜に22時から放送されているが、地上波のフジテレビで朝4時からやっている再放送の方で目にしている人も多いのではないだろうか。
年齢とともに衰えていく脳に警鐘を鳴らす「脳活性化クイズバラエティ」と銘打たれているように、頭の回転がスローになりつつある40代~80代のベテラン有名人たちをパネラーに、脳トレ系のクイズを繰り広げるこの番組。
異様にテンションの高い司会の岡田圭右と、ベテラン有名人たちが繰り広げるゆる〜いクイズバトル。飲み明けだと、変な夢でも見ているんじゃないかと混乱してしまうほど、独特の空気を放っている。
視聴者の脳を刺激するゲストのラインナップ
『脳ベルSHOW』の魅力はやはり、「いたなぁ〜、こんな人!」と唸らされるゲストのキャスティングだ。
「40歳以上」という条件以外はほぼ縛りなし。芸能人に限らず、スポーツ選手、格闘家、社長、ときには「コレ、ほぼ素人なんじゃないの!?」という人も登場する。
一線を退いて、他の番組ではなかなかお見かけしないゲストも多く「お……お元気だったんですね!」と感動したり、だいぶビジュアルが変わり果てていて「誰……!?」と困惑したり。ゲストのラインナップを見るだけで、視聴者の脳が刺激される。
ゲストの組み合わせも、狙っているのかランダムなのか判断しかねるごちゃ混ぜっぷり。天龍源一郎、マリアン、大木凡人、JAGUARさんなんて組み合わせ、他の番組では絶対に成立しないだろう。ときどき「○○特集」と題して、無理やりひとつのカテゴリーに押し込んだゲスト出場回が行われているが、そちらのラインナップもどうかしている。
語り草になっているのが「白塗り特集」。
芸人のコウメ太夫、バンドブーム期に活躍したバンド・ニューロティカのアツシ、カブキロックスの氏神一番。そして俳優の岩崎ひろし。
花魁メイク、ピエロメイク、歌舞伎メイク、暗黒舞踏風メイクと、全員が白塗りメイクでの登場。異様な絵面の上に画面がやたらと明るく、徹夜明けの脳には刺激が強すぎた。そもそも岩崎ひろしに至っては普段、白塗りで活動しているわけではなく、この特集に合わせて白塗りキャラを作ったのだとか。
放送1000回記念週には、「名前に“せん”がつく有名人特集」として、千原せいじ、せんだみつお、駒井千佳子、千秋、松鶴家千とせ、坂下千里子、田子千尋、山咲千里が登場。
これまた「せん」以外にはまったく接点のなさそうなゲストが妙なグルーブを生み出していた。
さらに3月20日には、TOKIOの城島茂を迎えて「しげる特集」も予定されている。
城島くんに加え、梶原しげる、斉木しげる、泉谷しげる、歌のゲストとして松崎しげると、またもや混ぜるな危険な組み合わせが行われている。城島くんも、よく引き受けたな……。
『脳ベルSHOW』はキャスティング自体がエンターテインメントになっているのだ。
公式サイトの「過去の放送」コーナーでは、恐ろしいことに1400回以上にわたる放送の全ゲストのラインナップがアーカイブされている。『脳ベルSHOW』ファンは、コレを見ているだけで一週間くらいは楽しめるだろう。
岡田圭右のすさまじい猛獣使いっぷり
フリーダムなキャスティングをされたゲストたちのフリーダムな回答も、クイズ番組の常識を飛び越えている。
一般的なクイズ番組のゲストに求められるのは、知識や教養があること、もしくはボケ回答が面白いこと。しかし『脳ベルSHOW』のゲストはそういうクイズ番組スキルは関係ナシに集められているため、常識やお約束がまったく通用しないのだ。
まず、シンキングタイム時間内で回答を書けないゲストの多いこと……。他のクイズ番組と比べてもかなりたっぷりとシンキングタイムがとられている上、ちょいちょい(やり過ぎなほどの)ヒントが出されるが、それでも答えられないものは応えられない。
「残念、タイムアップ!」
書き問題でタイムアップするって、なかなか見られない光景だ。シンキングタイム内に書けたとしても、ハチャメチャな回答が頻発する。
そんなとき、MC・岡田圭右のゲストさばきが絶妙なのだ。
わざとボケているわけではなく、真剣に考え抜いた結果、ものすごいOB回答を出してしまっているケースも多いため、むやみに突っ込まず、いったん飲み込む。
「魔女のキキが修行で実家を出るときに父親からもらったものは何?」
という問題に対し、ゲストのなべおさみが出した回答は「まほうびん」。事前に「電化製品」というヒントまで出していたのに……。
「ああー、魔法の何かをかけて魔法瓶ね、なるほど」
無理やり納得する。
しかし、続く格闘家・宮本正明の回答は「iPhone13 Pro Max」。
「iPhone……やかましいわ、ホントに! んなわけないやろ! 何の作品チラッと見たんや!」
作為的なボケにはメチャクチャ冷たい。特に若手芸人(といっても40代だが)の練られたボケには厳しく突っ込んでいく。ゲストを傷つけすぎず、甘やかしすぎずのさじ加減が見事なのだ。
そんな岡田でも、さすがに飲み込みきれない、あんまりな回答や行動をとるゲストもいる。そんなときに活躍するのが“笛”だ。
ピッピー! ピッピー!
サッカーの審判が警告するような形で、無言で突っ込むことができる。ゲストもそれほど傷つかず、笑いも 起こすことができる。『踊る!さんま御殿』における、さんまの指し棒並みの大発明だ。
ガッツ石松の出演回。「ガラガラチャンス」で福引機を回したガッツ。出た玉の色によって得点が決まるわけだが、福引機フタが壊れていたのか、ガッツが回すと全ての玉がこぼれ出てしまった。
ピッピー! ピッピー! ピッピー!
あまりの事態に、さすがの岡田も的確な言葉が出てこなかったのかもしれないが、笛を吹くことで、しっかりとオチがつけられていた。
地上波での放送終了の再考を!
この番組、恐ろしいことに1週間分、5本をまとめ撮りしているという。
1時間番組の5本撮りというだけでも恐ろしいが、トータルの収録時間は12時間以上に及ぶこともあるのだとか。ただでさえ長いシンキングタイムだが、収録現場ではもっと長いのでは……!?
12時間も収録していると、さすがに疲れがたまるのだろう、週の後半になると岡田のゲストさばきが雑になっていることも。その辺も含めて味わい深い番組だ。
フリーダムなゲストと、意外な名司会っぷりを見せる岡田のゆるくも真剣なぶつかり合いによって唯一無二の番組となっている『クイズ!脳ベルSHOW』。残念なことにこの3月をもって地上波のフジテレビでの再放送は終了してしまうという。
BSフジでの本放送は継続ということで一安心ではあるが……。夜10時に腰を据えてみるというよりは、早朝の薄らボンヤリした頭で見るのがサイコーな番組なのに!
週一の総集編でもいいから、地上波での放送を継続してもらいたい……!
文とイラスト/北村ヂン
1975年群馬県生まれ。各種おもしろ記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。……といいつつ最近は漫画ばかり描いています。