【義父母の介護】という大問題 実の親より厄介か?
介護というと、ほとんどの人が「自分の親」のことを思い浮かべるはず。「義理の両親」のことは、我が身の問題と考えていない人も多いのではないか。
しかしこの「義父母の介護」には、ある意味、自分の親以上に厄介な問題が潜んでいる。対応を間違えると、家族関係でも金銭面でも重大なトラブルを引き起こすことになりかねない。
妻から別居したいと言われた
男性の間には、自分の親にすら介護の当事者意識が低い人が多い。それが義父母となれば「他人事」となりがち。だが、妻にとっては“かけがえのない存在”であることを忘れてはならない。
元会社員の男性(66)が言う。
「妻から、『父親が介護状態になったから、これから頻繁に実家に帰らないといけない』と言われました。義父とは年に一度、正月に顔を合わせるくらいであまり交わることもなかったので、『あぁ、いいよいいよ』と妻を送り出していました。
それがある日、妻から突然『別居したい』と言われたのです。理由を聞いたら、『実家に住んで父親の面倒を見る』とのこと。『この半年、あなたは一度も手伝ってくれなかった。私の親を“家族”と思ってないことがよくわかった』とも言われました。『これからは手伝うから』と説得しましたが、『何よいまさら』と妻は実家に帰ってしまいました」
“自分の親じゃないから”と妻の家族の介護に対して無頓着でいると離婚危機にもなりかねない。
こんなケースもある。
「東北に住んでいる妻の母親は91歳と高齢で足腰も弱まっているため、妻を含めて兄弟姉妹が代わる代わる介護をしに実家を訪れていました。ただ、私達夫妻は都内に住んでいて、私は仕事を休むわけにも行かないので参加しなかった。義母の介護は妻に任せてその費用を稼ぐのが私の務めだと思っていたのです。
ところが、妻の甥っ子の結婚式に出席したとき、妻の親戚から『お祝い事だけは来るのね』と嫌みを言われてしまった。後で聞いてみると、妻の姉妹の旦那たちは義母の病院への送迎などをやっていたそうなんです」(自営業の男性・61)
部外者は口を出すなと揉めてしまった
ただし“出しゃばって”もトラブルを招いてしまうことがあるから難しい。
元会社役員の男性(74)はこう話す。
「妻の兄夫婦が面倒を見ていた義父が、90才を超えた頃にガクッと弱った。介護も大変になると思い、私が義兄夫婦に『僕たちもやります』と口にした途端、態度が急変しました。妻は義兄からはっきりと『今さら出てきて遺産目当てか』と言われた。私が仲裁しようとしたら、『部外者は口を出すな』とさらに揉めてしまった」
良かれと思ってやったことが、裏目に出る例もある。
元会社員の男性(63)はこう語る。
「87才で軽度の認知症を患う母親の介護で大変そうだった妻を見かねて、『ヘルパーさんに来てもらうか、施設に入ってもらったらどうだろうか』と提案しました。
すると妻は烈火の如く怒り出し、『あなたにとっては他人かもしれないけれど、私にとってはたった1人の肉親なんだから介護くらい好きにやらせて!』と言われてしまいました。妻は1人っ子で早くに父親を亡くしており、母親をとても大切にしていました。私の発言のせいで、今でも妻とはぎくしゃくしたままです……」
どっちの親を取るのか
実際に妻と一緒に介護に携わるとなると、さらに難しい問題に直面する。
元会社員の男性(70)はこう話す。
「認知症の義父(93)の面倒を見ている妻(65)は、5年前から実家で義父と暮らしている。
当時は私の母親も介護が必要で、私の母と義父の両方の面倒を妻が見ていたが、母にストレスが溜まり、衝突するようになった。妻が滅入ってしまったので、私も手伝うようになったのですが、私が義父の世話をすると、今度は義父にストレスが溜まる。だから、お互いに自分の親だけを見ることにして、妻とは別居生活になりました。昔はお互いに義理の父母と仲良くやってきたつもりでしたが、結局は実の親子じゃないとダメなのかなと虚しさを感じます」
親からすると義理の息子はしょせん〝他人〟。「介護は娘にやってもらいたい」という親は多い。
介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子氏はこう言う。
「介護される妻の両親も娘婿に介護してほしいとは望んでいない。たとえ仲が良くても、義父にはプライドがあって弱った姿を見られたくないし、義母なら化粧もしない姿を見せたくない。特にトイレや入浴などの身体介護はデリケートなので、〝実の娘でさえ嫌だ〟と言う親は珍しくありません」
義父母の介護が財産問題に発展
人間関係だけでなく、義父母の介護に関わると、財産トラブルに巻き込まれることもある。義父を同居させている元会社員の男性(67)は、現在の状況をこう語る。
「妻は3人姉妹の末っ子ですが、義父(88)が頼りにしていたので、6年前に義母が亡くなってからは、我が家で面倒を見ていました。ところが、最近になって長女(妻の長姉)が『世話をしていても財産分与とは関係ないからね』と念を押してきた。
財産といっても家と田畑があるくらい。介護費用は義父の年金で賄っているものの、精神的、肉体的な負担は大きく、介護をしている者にしかわからない苦労はある。腹が立ったので、『介護もしてないのに何を言ってるんだ』と言い返したら、姉妹の紛争に発展してしまった。
長女は弁護士を立てて『父親を介護施設に入れろ』と主張し、『あなたたちは父親に無理やり遺言状を書かせた』と事実無根の言いがかりをつけてくる始末。それに次女(次姉)も加勢しているので、もう泥沼です」
義父母の介護がきっかけで自分の親と揉める、というケースもある。
元会社員の男性(68)はこう話す。
「同じ時期に妻の母と私の母の介護問題が出てきた。私は長男だから『母を引き取る』と言うと、妻は『自分の母親の面倒を見たい』と言う。話は平行線で熟年離婚の危機まで迎えたが、最終的に腰が悪く1人で歩けなくなっていた私の母を介護施設に入れることで折り合いをつけた。妻は満足していましたが、私の母は面会に行くたびに『親を捨てた』と言ってろくに口もきいてくれなくなってしまった。やりきれない気持ちです」
どうすりゃいいの?と生島ヒロシ氏に学ぶこと
出しゃばりすぎても揉め、妻に任せっきりでも責められ、無関心でもこじれてしまう。
どうすりゃいいの?義父母の介護問題にどう向き合っていくべきか。
“成功例”から学べることは多い。認知症の義母を8年間介護したフリーアナウンサーの生島ヒロシ氏がそうだ。
「義母は毅然として礼儀にも厳しく、品格のある素敵な女性でした。それが80歳を過ぎた頃から認知症の症状が出始めた。義母に、誰に介護してもらいたいかと聞くと『娘』だと。私はそれを受け入れ、一時は私の自宅で介護を始めましたが、住み慣れた家に戻りたいということで、義母の家で、妻と義姉、ヘルパーさんなどが交代で介護する体制にした。私は洗濯や掃除、ゴミ出しや皿洗い、義母の車椅子での散歩の手伝いと、できることはなんでもやり、夫として妻を支えるサポートに徹しました」
こうなると自分たちの生活にも支障をきたすことになる。
生島氏が続ける。
「妻が義母の介護にかかりっきりになってしまい、当初は自宅の洗濯物が畳まれていないことなどに小学生の子供たちが文句を言ったりしましたが、『お母さんがおばあちゃんのお世話を一生懸命しているんだから、お母さんを助けてやろうよ』と話したら息子たちも分かってくれて、役割分担して協力してくれるようになった」
家族全員が妻のサポートに回ったのが成功のポイントだ。
森永卓郎氏の場合
脳溢血で倒れて寝たきりになった父親を介護した経験のある経済アナリストの森永卓郎氏は、いま、87歳で要支援の状態にある義母を通いで面倒を見ている。
「ばーちゃん(義母)の自宅は私の自宅から徒歩数分の距離。同居だとぶつかりやすいけれど近所だからすぐに行ける。妻はしょっちゅうばーちゃんの家に行って世話をしています。“近居”なら調子が悪くなってもすぐに病院に連れて行ける。そうすればばーちゃんが望む自宅での暮らしをできるだけ長く続けられる。私は介護をすることはありませんが、食事や買い物、ちょっとした旅行など、妻と一緒にばーちゃんと行動しています。今までできなかった親孝行をしているところです」
この距離感が、義父母の介護では重要なのかもしれない。
※週刊ポスト7月13日号
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