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老いて「死」が怖くてたまらない…落ち込む男性を毒蝮三太夫が激励「まずは今日をどう生きるか考えよう」

 誰もが歳を取るし、歳を取ればガタが出てくる。そして、誰もがいつかは人生を終えなければならない。それは避けようのない運命だとわかってはいても、時に人は、歳を取ることへの不安や死ぬことへの恐怖を覚えてしまう。かなり気持ちが沈んでいる様子の80歳男性に、マムシさんが喝を入れつつ励ましの言葉を贈る。(聞き手・石原壮一郎)

今回のお悩み:「死を考えると怖くてたまらない」

 どの相談か具体的には言わないけど、ここで俺が悩みに答えた人から、お礼のメールをもらった。息子さんも俺の回答を喜んで「一生の宝になるね」なんて言ってくれたらしい。本人もすごく喜んでたけど、少しは役に立てたみたいで俺も嬉しいよ。

 相談者にしても読んでくれている人にしても、俺の回答に心の底から納得できるとは限らない。そんな時も、袋小路から抜け出すヒントになったり、別の角度から考えるきっかけになったりすればいいと思ってる。悩みというのは、いろんな顔を持ってるからね。

 今回は、80歳の男性からの相談だ。おいおい、ずいぶん重いことを言ってるな。

「マムシさん、こんにちは。どうすればマムシさんのように、元気はつらつな高齢者になれますか。体力には自信があったんですけど、いわゆる『後期高齢者』になった頃から、体のあちこちにガタがきました。物忘れもひどくなって、だんだん年老いていく自分が嫌でたまりません。この先、さらに歳を取っていくのかと思うと、『もうやめてくれ!』と叫びたくなります。そして、その先にある『死』が怖くてたまらない。我ながらバカげた相談だと思いますが、少しでも前向きになれるヒントを授けてください」

回答:「今できるのは、毎日を楽しくいきること。悲観的な考えこそ不幸の原因だ」

 これはねえ、叫んだところで老いは止まらないし、「死」にしても怖がったところでいつか必ずそうなる。まるで自分だけが世界の不幸をしょってるみたいな気になってるかもしれないけど、みんな同じなんだ。あなたがもし「自分はなんて不幸なんだ」と思っているとしたら、その悲観的な考え方こそが不幸の原因を作ってるんじゃないかな。

 あなたは80歳だけど、こうして文章を書いて俺にメールで相談できてる。たいしたもんだよ。もっと若くて認知症になることもあるし、それこそ死んじゃうヤツもいる。寝たきりになってるのもいるだろう。むしろ「自分はなんて幸せなんだ」と思ってほしいね。

 ウジウジ考えていても、元気は出てこない。「あちこちにガタ」ぐらいで、動けないわけじゃないんだろ。外に出かけてみると、いろんな年寄りに会えるよ。自分と同年代ぐらいで元気なのがいたら「しょぼくれちゃいられない」と対抗意識が湧いてくるし、自分より弱ってるのがいたら、ちょっと行儀は悪いけど、心の中で「俺は恵まれてる」と思えばいい。

 老いていくことを嫌がったり死を怖がったりなんて、もったいないよ。今、あなたは生きているし、元気だって残ってる。今日をどう生きるか、明日は何をするかを考えようじゃないか。今できるのは、毎日楽しく過ごして「生」を充実させることだけなんだ。

 人間はオギャーと生まれた瞬間から、死に向かっての旅が始まる。生まれることと死ぬことは、朝起きて夜寝るのと同じでセットなんだ。死を嫌がるなんてのは、これほど無駄な抵抗はない。もし神様がいて、そういう人間を見たら「愚かだなあ」と鼻で笑うだろうね。死ぬことを心配する暇があったら、自分がちゃんと生きてるかどうかを心配しよう。

 直木賞作家で国会議員もやった今東光和尚は「人生は冥土までの暇つぶし」と言った。暇つぶしだからダラダラと過ごせばいいという意味じゃない。せっかくなら、なるべく上等の暇つぶしをしようってことだ。避けられない「死」を怖がっているのは、あんまり上等な暇のつぶし方じゃないね。

 奈良の斑鳩に「吉田寺(きちでんじ)」というお寺がある。ここは「ぽっくり往生の寺」として大人気なんだ。お参りすると苦しまずに死ねると言われている。ここに来る人は、早く死にたくて来ているわけじゃない。命の終わりが来る日まで、いい人生を送りたい、よく生きたいと願っている。だからみんな明るく笑いながら参拝してるんだ。

 四国八十八ヵ所のお遍路さんだって同じだよ。遍路の旅に出る人は白装束に身を包んでるけど、あれは死に装束なんだ。金剛杖は「お大師さま(弘法大師)」の分身であり、頭のところのカバーを外すと卒塔婆の形をしている。もし旅の途中で死んだら、どこかに埋めて卒塔婆を立ててくださいってことなんだよ。だからって、死のうと思って旅をするわけじゃない。どう生きるかを考えるために、死を身近に感じながら旅をするんだ。

 普通の人もお遍路さんも変わりはない。死とともに生きて、人生という旅を続けてる。充実した毎日を過ごせば、いい死に方ができる。俺はそう思って、日々を過ごしているんだ。えっ、なんだって、「いい死に方って、どういう死に方か?」って。俺に聞くなよ。まだ死んだことないんだから。

毒蝮さんに、あなたの悩みや困ったこと、相談したいことをお寄せください。
※今後の記事中で、毒蝮さんがご相談にズバリ!アドバイスします。なお、ご相談内容、すべてにお答えすることはできませんことを、予めご了承ください。

毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!
YouTubeでスタートした「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、たちまち絶好調! 毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

超実用 好感度UPの言い方・伝え方

●大切な人を亡くしたら…毒蝮三太夫さんが教える「残された人ができること」

●「施設入居者の暴言、暴力が辛い」女性の悲痛な叫びに毒蝮三太夫は「介護職は神に近い仕事である」【連載 9回】

●「親が認知症になったら…」毒蝮三太夫がズバリ!アドバイス

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