最終話『緊急取調室』が暴いた父子の残酷な真実 罪にまみれた政治家は裁かれたか
天海祐希主演の大人気シリーズ『緊急取調室』第4シーズン(テレビ朝日木曜夜9時〜)が先週放送の9話で最終回を迎えた。やはり、桃井かおりの登場にSNSに衝撃のが走った1話を巡る物語が大きく動く。事件の真相は? 宮越(大谷亮平)の罪は裁かれるのか? キントリは本当に解散してしまうの? ドラマを愛するイラストレーター・オカヤイヅミが『キントリ』の魅力を絵とテキストで振り返ります(ネタバレを含みます)。
天海祐希VS大塚寧々
前回の最後で、宮越肇(大谷亮平)の秘書・須田(尾上寛之)に切りつけたとして菱やん(でんでん)が逮捕されてしまった。まあもちろん、我らが菱やんはそんなことしないわけだが、留置されながら黙秘を貫いている(きっと理由がある)。
ここで突如、手を差し伸べてくるのが、ハイジャック犯・大國塔子(桃井かおり)の国選弁護人・羽屋田空見子(大塚寧々)だ。彼女の不穏さになんとなく気付きつつ、
「少なくとも敵じゃない。今は」
ということで、今回、真壁有希子(天海祐希)がまず距離を詰めていくのは、羽屋田に対してだ。
面会に向かった所轄署の廊下で並んで座る二人の服装は、パンツスーツにスニーカーの真壁とスカートにピンヒールの羽屋田と対照的だ。お互いが仕事にプライドを持っていることを確認しあい、一緒に戦おうと約束するが、面会した菱やんも羽屋田に対して何か思うところがありそうだ。
思春期みたいに辛そうな工藤阿須加は……
そして前回からずっと、どうもモヤモヤした顔ばかりしている人がいる。山上善春(工藤阿須加)だ。告げ口したり菱やんを監視したりと宮越と刑事部長(池田成志)側についているのかと思いきや、部長の振りかざす「正義のために綺麗ごとだけを言ってはいられない」というお題目にどうやら納得してはおらず、しかしキントリや仲間たちが家族的な信頼関係を築いているのにも入り切れず、もはや思春期みたいに辛そうな顔だ。
確かに周りはあまりに大人ばっかりだものね。そんな引き裂かれた山上の心に踏み込んだのはやっぱりバディの渡辺鉄次(速水もこみち)だ。真正面から問い詰め、納得いかない言動に殴りかかりすらする。その結果、渡辺の「信じてる」が山上に届き、ずっとキントリ周辺を監視していたことをみんなに告白。羽屋田が宮越と繋がっていたことも話す。確かに事件の流れを一番掴みやすいのは彼だったのかもしれない。
だいぶ忙しい最終回
羽屋田は、宮越に指示され、体調不良を訴える大國塔子を無視して死に追いやったのだと告白する。さらに菱やんに濡れ衣を着せる計略に一枚噛んでいたことも(実際は、宮越自身が秘書に切りつけていた。羽屋田は、警察の事情聴取に対して、宮越と秘書の供述内容の口裏を合わせる指示をしていた)。
宮越サイドの人だったのね! ということは羽屋田を操って大國塔子を死なせたのは宮越……さあ、宮越を追い詰めろ! と見えたが、それも違った。
大國の訴えを無視したのは、羽屋田の独断だとわかってしまう。その動機は、実は羽屋田が宮越に深い恨みをもっていて、大國の死を利用して陥れようとしていたから…。複雑! いろんな人の心理がぐるんぐるんに暴かれていき、だいぶ忙しい最終回だ。
果たしてキントリは、宮越を法的に追い詰めることはできるのか……。
しかし本シリーズに通底しているのは、事件の真相ではなく人間の心情の方を解きほぐしていくという方向性だ。「本当の最後の大勝負」は取調室では行われない。
「罪に問うことが我々の仕事じゃないよね」
「そんなつまんない仕事じゃないよ」
と言い合う春さん(小日向文世)と菱やんのかっこよさよ。
初めての元気な「ウェーイ!」
常に不敵な笑みを浮かべる宮越を追い詰めたのは、幼い少年。1話で殺された宮越の第一秘書・東修ニ(今井朋彦)の息子・奨太(石田星空)だ。
菱やんに罪を被せるために宮越に切りつけられた秘書は、やはり政治家だった宮越の父の忠実な部下だった。一生残る顔の傷を負いながらも、宮越がその父の後を立派に継ぐことを夢見ていた。
羽屋田の家族は、30年前、北海道で宮越の父の開発事業のせいで借金を負った。宮越のあからさまなほどの悪徳っぷりと嫌な性格はどうやら父をトレースしている。宮越にとって父とはどんな存在なのか?
奨太は宮越にまっすぐ問いかける。
「先生は先生のお父さんが嫌いなの? 僕はお父さんが好き」
少年の一撃は、宮越を打ちのめした。そのことばが「父のような政治家になる」信条を打ち砕いたのだろう、ラスト、宮越は就任した大臣の座を辞す。
法の裁きという終幕ではなかったが、事件は一応の解決を見せ、予告通りキントリは解散する。
最後、初めての元気な「ウェーイ!」が切なかった。でも、なんとなく「まだある」って気も、わりと、する。
イラストと文/オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。