犯人捜しより、その人生を解釈、判断する『緊急取調室』5話の醍醐味
天海祐希主演の大人気シリーズ『緊急取調室』第4シーズン(テレビ朝日木曜夜9時〜)。第5話の犯人はロボット? 前代未聞のロボットの取り調べに真壁有希子(天海祐希)が取り組むが、捜査が進むにつれ、事件はやはり人間くさい方向に進展して……。ドラマを愛するイラストレーター・オカヤイヅミが『キントリ』の魅力を絵とテキストで振り返ります(ネタバレを含みます)。
犯人は見守りロボット?
第5話の取り調べ対象者はロボットだ。前回の瀕死(に見えた)の容疑者への取り調べも難題だったが、北斗刑事部長(池田成志)の「かぐや姫」ばりの無茶振りも勢いづいて来た感がある。なくなる予定が決まっている部署をこんなにしつこくいじるなんて、彼は実は「キントリ」のことが大好きなんじゃないか。
さて、そのロボットとは、独り暮らし老人の生活などを見守るために作られた「ハイリー」。いかにもロボットというふうな白く四角いボディに、可愛い顔のインターフェイスが搭載された「彼」が殺人を? 被害者と目されたのは、一人で立派な一軒家に暮らしている村松和代(夏樹陽子)だ。和代の息子の村松彰(小池徹平)は、ハイリーを開発、販売する会社の経営者である。
和代の死因は、ハイリーの頭部への落下。それだけなら事故に思えるが、頭部の傷が2箇所あったことから事件になった。ハイリーは意思をもって和代を襲ったのか? まさか……。では他になんらかの犯行計画が?
いつもは人間の心の機微を解き明かすキントリ班がロボットを取り調べることに。まず立ち塞がる問題は、音声認識のパスワードだ。和代の死亡時のデータを開示するためには、和代がふだん使っていたパスワードを突き止めなくてはならない。真壁がハイリーに投げかけてみる言葉がいかにも彼女らしい。
「ハイリーさんこんにちは」「スタート」「起動せよ」「ゴー!」
コミュニケーションロボットときちんとしたコミュニケーションを取ろうとしている。機械相手でもいつもの人間相手の取り調べのように、言葉に意味や気持ちが入ってしまうのだ。だが、ハイリーのこころ(データ)は開かない。
杉田かおるの図々しさ、黒川智花のキレっぷり
和代のまわりの人物にも捜査は及ぶ。「ときどき母の様子を見てください」と彰に鍵を渡されていた隣人の土居マサエ(杉田かおる)は、ときどき勝手に侵入して化粧品や高級食材を盗んでいた。それが和代にバレてトラブルになっていたことがわかる。土居は犯行には関係していなかったものの、杉田かおるの図々しくもちょっとかわいい小悪党っぷりには和んだ。
続けて、彰の秘書で恋人でもある飯塚万里(黒川智花)に容疑がかかる。過去の不祥事が和代にバレて、彰との仲を裂かれそうになっていたのだ。
思い込みの激しい飯塚の衝動的な行動がすごい。もつなべコンビ(鈴木浩介、速水もこみち演じる捜査一課刑事)に同行を求められると、身を翻して近くに止めてあった自転車にまたがって逃げ出し、爆走する(険しい一本道を自転車で!……安曇野の景色は美しかったが)。犯行への関与を認めたあとも、突然人間不信っぷりを爆発させ、喚いて暴れて手がつけられない(すぐ感情が振り切れてしまう黒川智花の演技が、ちょっと楽しんでるように見えるほどだった)。
孝行息子(小池徹平)の正体
結局、最終的に真壁が取り調べる対象、つまり真犯人は彰。衝動的な飯塚の性質を利用して、母親を殺すよう仕向けたのだ。犯行動機はそれもまた強固な思い込みだった。離婚によって長い間、離れて暮らしていた母と息子。彰は、少年時代に和代の再婚相手を死に追いやっていた。それを和代に悟られたことから、彰の猜疑心は、時間をかけて膨らみに膨らみ切っていた。母の行動の何もかもが「おまえが殺したことをわたしは知っているから」というメッセージに見えて、追い詰められていたのだ。
和代の設定していたパスワードは、母の日に彰が贈った「カーネーション」だった。開示されたハイリーのデータに彰の隠していた猜疑心を加えて解釈すると、犯行の一部始終がわかった。
自身も母である真壁は、目に涙を溜めながら「偽の孝行息子」を追い詰めた(ロボット相手にパスワードを探っていた時よりだいぶ手応えがありそうだ)。
「人生に解釈なんていらない」と彰は叫ぶが、解釈し判断するのがキントリの専売特許だ。
イラストと文/オカヤイヅミ
漫画家・イラストレーター。著書に『いいとしを』『白木蓮はきれいに散らない 』など。趣味は自炊。