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『TOKYO MER~走る緊急救命室~』オリパラ中も放送休止なしで好調 TBSのドラマ制作への意気込み

 TBS「日曜劇場」をさまざまなテーマで考察する隔週連載。今回は、放映中の『TOKYO MER~走る緊急救命室~』に注目。大河ドラマも休んだ東京オリンピック・パラリンピック開催中も好調を保ち、鈴木亮平演じるチーフドクターの率いる救命救急チームの活躍は、困難を極める現実の医療の現場にも活力を与えてくれたように見えた。ドラマを愛するライター・近藤正高が、ドラマの真価を考察します。

オリンピック・パラリンピックを意識

 日曜劇場『TOKYO MER~走る緊急救命室~』が好調である。最新回である8月29日放送の第9話の世帯平均視聴率は、前話の14.5%を上回る15.0%を記録した。第1話~第3話は14%台で推移し、東京オリンピックが始まってからは第4話(7月25日)と第5話(8月1日)が10%台、さらに閉会式が裏で放送された8月8日の第6話は8.4%と1桁にまで落ち込んだものの、翌週の第7話は15.0%と盛り返す。第7話ではちょうど新たな人物が登場するなど劇中の空気が一変したが、それも“五輪明け”を見越した上での流れだったのではないか。

 日曜劇場では全10話で完結するドラマが多い。ただし、放送時期がオリンピックや世界陸上(1997年よりTBSが独占放送)の会期と重なると、短縮される場合もある。当連載で前回とりあげた『ナポレオンの村』(2015年)は北京での世界陸上と重なり、途中で大会中継による放送休止を挟んで全7話となった。翌2016年のリオデジャネイロ五輪と重なった寺尾總主演の『仰げば尊し』も、1週休止を置いて全8話だった。

 しかし、『TOKYO MER』は放送休止もなく、10話で終わるどころか最終章を前・後編に分けて全11話となった。日曜劇場のドラマで11話まで放送されるのは、2019年10月期の木村拓哉主演の『グランメゾン東京』以来である(ちなみに『グランメゾン東京』も『TOKYO MER』も脚本を黒岩勉が手がける)。こうして見ていくと、『TOKYO MER』は編成上かなり攻めているといえる。むしろ東京五輪と重なるからこそ、スポーツ中継に負けない見ごたえあるドラマをつくろうというTBS側の意気込みさえ感じる。

 実際、『TOKYO MER』は内容的にも、オリンピック・パラリンピックを意識したと思われる要素が少なくない。まず何より、毎回、主人公・喜多見幸太(鈴木亮平)をリーダーとするMERのチームが患者の命を救えるかどうか、一刻一秒を争うピンチに立たされ、何とか切り抜けようとするさまが、スポーツを観戦しているときにも似たハラハラドキドキを味わわせてくれる。

「TOKYO MER」の多様性

 タイトルにある「TOKYO MER」(MERはMovile Emergency Roomの略)とは、医師や看護師などで構成された東京都知事直轄の救命救急チームである。「1人も死者を出さない」というミッションを課せられたMERは、事故や災害などが起こるとすぐさま現場に駆けつけ、けが人や病人の救助にあたり、急を要する場合はその場で手術も行う。ただし、これは架空の組織である。劇中では都知事の赤塚梓(石田ゆり子)によって創設され、チーフドクターとして喜多見が知事直々の指名で抜擢された。

 チームのメンバーも、オリンピック・パラリンピックの謳う多様性を反映した布陣となっている。男女比こそ男性が4人、女性が3人と半々ではないが、女性看護師の1人、ミンはベトナム出身で、看護技術を学ぶために経済連携協定(EPA)に基づき来日したという設定だ(演じるフォンチーも、生まれも育ちも日本ながらベトナム人である。筆者は彼女がかつて在籍したアイドルグループのファンだったので、今回のメインキャストとしての起用は感慨深い)。

 また、ベテランの麻酔科医・冬木(小手伸也)が手術時には執刀医をがっちり支える一方で、研修医の弦巻(中条あやみ)が不慣れなところもありながら奮闘したりと、世代的な多様性もうかがえる。あるいはMERのメンバーではないが、その出動時に都庁の危機管理対策室からサポートする同室長の駒場(橋本さとし)は、車椅子に乗りながら指示を与えている。彼はもともと東京消防庁のハイパーレスキュー隊の隊長だったが、職務中に負ったけがが原因で足が不自由になったという設定だ。

 MERのメンバーもレスキュー隊員たちと同様、人命救助のため時には危険を顧みない(それゆえ、東京消防庁のレスキュー隊長の千住〈要潤〉は自分たちの領域を侵されると思い、当初は喜多見たちに反発していた)。MERの看護師である蔵前(菜々緒)もまた、トンネル崩落事故で車内に閉じ込められた人を救出するため、細くしなやかな体を活かして潜り込むなど(第4話)、体を張ることも辞さない。シングルマザーの彼女は、任務を終えるとすぐ気持ちを切り替えて保育園に娘を迎えにいく生活感覚も持ち合わせる。MERの臨床工学技士・救命士である徳丸(佐野勇斗)は、手術室を備えたERカーの運転のほか、医療機器などの取り扱いを通じてチームを技術面でサポートしている。第6話では、山で遭難した小学生たちの捜索・治療にあたり、事前に用意していた“秘密兵器”でチームをピンチから救った。

石田ゆり子の女性都知事

 このようにドラマでは、喜多見の指示のもとMERのメンバーそれぞれの能力を発揮し、結束を固めていくさまが描かれる。だが、それをよく思わない人もいる。赤塚の政敵である厚生労働大臣の白金眞理子(渡辺真起子)だ。権力の頂点を目指す白金は、同じく将来の首相候補と目される赤塚を敵視し、彼女を失脚させるべくMERをつぶそうと画策する。そのために腹心である厚労省医政局長の久我山(鶴見辰吾)に命じ、彼の部下である医系技官の音羽(賀来賢人)をMERに出向させ、内部からの組織つぶしをもくろんだ。

 医系技官とは医療関連の行政業務を担う官僚で、医師免許も持つ。だから音羽は手術も執刀できる立場にあり、隙あらば故意に死者を出してMERを陥れることも可能にもかかわらず、結局それをしない。それは音羽のなかで医者としての矜持が働いたのに加え、喜多見が彼に信頼を置き、チームに貢献させる方向に導いたからでもある。

 そんな喜多見にも大きな弱みがあった。それはMERのリーダーに抜擢される前の“空白の1年”だ。白金や久我山は、このことさえあきらかにできればMERをつぶせると踏んで、音羽に調査を命じていた。音羽は、喜多見の妹でNPO法人のスタッフである涼香(佐藤栞里)に近づくなどして、何とか探り出そうとする。ついには真相を喜多見本人から引き出すのだが、それまでに音羽の心中では、官僚とMERとどちらの任務を取るべきか葛藤が生じていた。

 音羽がそうなったのも、人間として底知れぬ器の大きさを見せる喜多見の存在ゆえだった。劇中ではMERのメンバーが困難な事態に遭遇するたび、喜多見が笑顔で「あなたならできます」と告げることで、相手をその気にさせてしまう。並みの俳優なら嘘っぽくなってしまうであろうところを、説得力を持って演じてしまうのが鈴木亮平という俳優のすごさだ。

 喜多見は仲間をけっして叱責したりしない。あくまでポジティブな言葉で諭す彼は、若い世代からも支持されやすいのではないか。理想のリーダー像という意味では、都知事の赤塚も同様だ。MERをつくったのは選挙のためと言いながらも、人命を何より尊重し、いざとなったらすべて自分が責任を負うと、現場の裁量に任せる彼女の姿勢は、コロナ禍のいま、もっとも求められる政治家のあり方だろう。

 ドラマなどに出てくる女性都知事は、えてして実在のあの知事のモノマネっぽくなりがちだが、赤塚はそうではない。石田ゆり子が『逃げるは恥だが役に立つ』などで演じてきたキャリアウーマンの延長線上にあるようなキャラクターだ。それでいて、赤塚もまたひそかに重大な秘密を抱え、それがもとで終盤に入り物語が急展開していく。

『コード・ブルー』『ドクターカー』『サマーレスキュー』『空飛ぶ広報室』の流れ

『TOKYO MER』のように人命救助を担う組織や個人を描いたドラマは、これまでにも数多い。海難救助を中心に活躍する海上保安官を主人公とした人気コミックが原作で、2004年の映画版第1作に続き、翌年には同じキャストでドラマ化もされてヒットした『海猿』(伊藤英明主演、フジテレビ系)がおそらくその嚆矢だろう。

 この系統の作品でのヒット作といえば、ドクターヘリをテーマにした青春群像劇『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~』(フジテレビ系)も外せない。山下智久・新垣結衣・戸田恵梨香・比嘉愛未・浅利陽介と若手俳優が集結した同作は、2008年のドラマ第1作以来、2018年まで劇場版を含め作品が継続して制作され、やはり人気シリーズとなった。同シリーズが始まったのは、ちょうど現実にドクターヘリの全国的配備を促進するための法律が公布された翌年で、ドラマが注目されるにともないその配備数増加に寄与したともいわれる。

 空で救急医療を行うドクターヘリに対し、陸路を医師や看護師を乗せて救急現場に急行し、収容した患者を治療しながら病院に搬送するのがドクターカーである。2016年にはこれをテーマにしたドラマ、その名もずばり『ドクターカー』(読売テレビ・日本テレビ系)が剛力彩芽の主演で放送されている。同作において主人公が、ドクターカーの廃止をもくろむ救命救急センター長と対立するという構図などは、『TOKYO MER』とどこか通じるものがある。

 日曜劇場でも、当連載でここ数回かけて紹介した『サマーレスキュー~天空の診療所~』(2012年)や『空飛ぶ広報室』(2013年)など、救命救助に尽力する人たちが登場するドラマが放送されてきた。こうした作品が生まれる背景には、『空飛ぶ広報室』にも出てきた東日本大震災のほか、毎年のように起こる風水害・土砂災害など、自然災害の頻発により救命救助にあたる人たちに注目が集まっているということもあるのだろう。

『TOKYO MER』はまた、さまざまな制約のあるなかで治療を行う点では『JIN―仁―』(2009年・2011年)、政治的な駆け引きのなかで主人公が翻弄される点では『半沢直樹』(2013年・2020年)などといったヒット作に連なる作品とも位置づけられる。久我山や与党幹事長の天沼(桂文珍)らヒール役の戯画的でやや過剰な演技は、『半沢』の影響もありそうだ。

コロナに感染からの復帰を祈る

 本作では毎回、MERが無事に任務を終えたあとで、都庁の危機管理対策室の女性スタッフである清川(工藤美桜)が「死者は……ゼロです!」と言うのがお約束で、視聴者のあいだでも話題を呼んでいる。わざわざ一拍ためて言うあたり芝居がかっているが、それがかえって新鮮な印象をもって受け止められたのだろう。ちなみにこの決めゼリフを任された工藤は、今年2月まで『魔進戦隊キラメイジャー』で戦隊ヒロインの1人を演じていた。『TOKYO MER』もどこか戦隊物っぽい雰囲気があるだけに、適役といえる。

『TOKYO MER』の第3話では、コロナ禍のなか、看護師の蔵前と娘が周囲の人たちから感染を恐れて接触を避けられるなど、差別に遭う様子も描かれた。そうした扱いも、蔵前の活躍がテレビで報じられたことで一変するという具合に、現場で懸命に治療にあたる医療従事者へのエールを送るような内容となっていた。

 社会問題といえば、第7話では来日外国人の不法就労の問題がとりあげられた。これをきっかけに、喜多見が例の空白の1年間に海外でテロリストと接触していたこともあきらかになり、終盤に入って物語は大きく動き出す。第9話では、喜多見の過去がとうとう世間に暴露され、頼りの赤塚も生命の危機に陥り、MERは窮地に追い込まれてしまった。次回予告では、MERの出動した現場でついに死者1名が出たことがほのめかされ、ますます見逃せない。

 気がかりなのは、ドラマの後半より喜多見の身辺を探る刑事役で登場した稲森いずみと馬場徹がコロナに感染してしまったことだ。とくに馬場は、日曜劇場では2014年の『ルーズヴェルト・ゲーム』以来、『陸王』『集団左遷!!』『天国と地獄~サイコな2人』など多くの作品に出演し、まさに常連というべき存在だけに、このあとにきっと見せ場が用意されていたのではないか。けっして無理はしてほしくないが、最終回の撮影までには無事に復帰してくれるよう祈らずにはいられない。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

 

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