連載

認知症の母の失禁対策に異変…息子を悩ます不穏な“トイレットペーパー”問題

 岩手・盛岡でひとり暮らしをする認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。コロナ禍で帰省の頻度が減り、母の認知症の進行が心配だ。失禁の回数が増え、春にはポータブルトイレを設置したのだが、新たな問題が発覚し――。

認知症の母の失禁対策の経緯

 母の失禁回数が急に増え、オムツを検討したこともありましたが、母は嫌がりました。そこで以前に記事「ひとり暮らしの認知症の母の失禁対策としてポータブルトイレに施した工夫」でも書いたのですが、寝室にポータブルトイレを設置しました。

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 おかげで、母がポータブルトイレで用を足すようになり、床やふとんやシーツを汚す回数が減って喜んでいました。

 ところが、全く予想していなかった新たな問題が浮上したのです。

 これまでは、尿パッドや失禁パンツを使って対策をしてきました。さらにその前は、シングルのトイレットペーパーを何回か畳んで下着に挟み、尿パッドのように使っていました。

 なぜ母独自の対処法が分かったかというと、洗濯物に大量に付着した紙くずが原因でした。最初は、衣類のポケットの中にあったティッシュペーパーを取り忘れたまま、洗濯したのだと思っていました。

洗濯物がトイレットペーパーまみれ…

 しかし、あまりに何度も繰り返されるので不思議に思い、洗濯前にすべての洗濯物をチェックするようにしたのです。すると、母の下着に折り畳んだトイレットペーパーがついていました。

 母はトイレットペーパーをトイレに流すのを忘れてしまい、洗濯機に汚れた下着をそのまま入れてしまったために、洗濯物が何度も紙まみれになっていたのです。

 尿パッドを使うようになってからは、洗濯物が紙まみれにならなくなって安心していたのですが、今度は尿パッド自体を洗濯してしまい、尿パッドが破れて、中の透明な吸水ポリマーが洗濯物に付着。結局、洗濯前の洗濯物チェックは欠かせなくなりました。

 しばらくの間、紙くずとの格闘から解放されていたのですが、ポータブルトイレの設置をきっかけに、眠っていた母の記憶を呼び起こしてしまったのです。

原因は常に見えるところにあるこれ!

 下の写真は、わが家のポータブルトイレです。トイレ左側に、トイレットペーパーホルダーがついていますが、これがいけなかったのです。

 これまで、母の寝室にトイレットペーパーは置いてなくて、タンスの中にあった尿パッドを使ってきました。しかし、ポータブルトイレの設置によって、常にトイレットペーパーが見える環境になってしまったのです。結果として、母の失禁対策はトイレットペーパーに逆戻りしてしまいました。

 基本、母はひとり暮らしなので、この流れは止められません。洗濯したあとに、洗濯物が紙まみれになる事件が、再び多発するようになっていきました。

 さらに、トイレットペーパーの復活は、他の生活にも影響を及ぼすようになっていったのです。

はみ出した口紅を拭き取るにも…

 認知症が進行しても、母は化粧までは忘れていません。

 特にデイサービスへ行く日はしっかり化粧をするのですが、台所で顔を洗い、近くのキッチンテーブルに座ってファンデーションを塗り、口紅を塗ります。その口紅のはみ出した部分を、トイレットペーパーで拭きとっていたのです。せめてティッシュを使って欲しいところですが…。

 口紅を拭き取る分には問題ないのですが、たまに濡れた顔までトイレットペーパーで拭く日もあります。キッチンテーブルの上にポロポロと落ちている紙くずを最初見たときも不思議に思ったのですが、観察し続けたところタオル代わりに使っていました。

 それでも母はキレイ好きなので、自分で紙くずを拾ってキレイな状態を保っているのですが、どうやら認知症の影響でトイレットペーパーとティッシュペーパーの用途の違いが分からなくなっているようです。

 理解してもらえるかもしれないという淡い期待から、母のためにトイレットペーパーとティッシュペーパーの使い分けを試してもらったことがあります。紙を水で濡らしたあとの状態を母に見てもらって、ティッシュのほうが水に溶けにくいことを教えたのです。

 しかし、その瞬間は理解できても、テスト1時間後にはまた、あらゆるものをトイレットペーパーで拭き取っていました。

 ポータブルトイレの設置のおかげで、失禁が減って寝室の掃除がラクになって喜んでいたのですが、今度は家中のあらゆるところから、トイレットペーパーの紙くずが出てくるようになるという新たな課題が増えてしまいました。

 それでも、ポータブルトイレを止めてしまうと、ふとんやシーツの洗濯が大変になります。洗濯や掃除の手間を考えると、やはりポータブルトイレの設置は正解だったといえます。

 ポータブルトイレが利用できているということは、母が自立して元気で動き回れる証拠でもあります。いずれ寝たきりになってしまうと、それこそオムツを利用する日が来ます。それまでの間は、紙くずと格闘していく覚悟です。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。

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