ペットロスを乗り越えるには…「悲しみを、忘れようとする必要はない。感情は日記に」と専門家
大切なペットを失うことは、とてもつらいことだ。ペットロスに陥ったときに、どうしていいのかわからないこともある。これまでたくさんの人をサポートしてきた専門家が、乗り越える方法を教えてくれた。
元気になろうと思わなくていい
ペットロスを緩和する、あるいは長引かせない方法があるという。ペットロスに苦しむ人をサポートする臨床心理士・木附千晶さんが教えてくれました。
「まずは、もう生きていないということを納得し、受け入れることが大切です。そのためには火葬の前に、体をゆすって名前を呼んであげましょう。飼い主は、火葬の直前まで“もしかしたら目覚めるんじゃないか”と思いがちです。ペットの肉体を触って、冷たいことや動かないことを確認し、死を受け入れてから送り出してあげるのです」(木附さん・以下同)
これをやらなかったために、「本当は生きていたんじゃないか」「火葬によって死んだのではないか」などの思いに苦しむ人も少なくないという。そもそも、火葬をはじめとした葬式のセレモニーを行うことは、死を受け入れる過程で重要なのだという。
「大切なのは、きちんと悲しむ機会を設けることです。ペットを飼ったことがない人にはこの悲しみを理解できませんから、“たかが犬(猫)でしょ”などと言われるかもしれませんが、そんな言葉に惑わされる必要はありません。きちんと悲しみ、それを理解してくれる人に話して、悲しみを分かち合ってください。“早く元気にならなくちゃ”“いつも通りにしないと”などと焦り、悲しみと向き合わないと、ペットロスは長期化します」
ペットではなく家族を亡くしたという意識を、誰あろう飼い主こそが持ち、時には人目をはばからずに悲しんでもいいと思っておいてもよさそうだ。
仕事などのルーティンを続け、日記に残す
ペットロスに陥ると、そのつらさから仕事を辞めてしまう人も少なくないという。これに対し、木附さんはこうアドバイスしてくれた。
「つらくて体が動かないこともあるでしょうが、ペットたちが生きていた頃と変わらぬルーティンを続けることもまた、悲しみを癒す方法の1つです。家事をしたり、仕事をしていると気がまぎれ、悲しみの感情から距離を置けます」
仕事の最中でもふと涙が流れ、周囲に迷惑をかけてしまうと心配する相談者もいたというが、会社であろうと大いに泣いていいと、木附さんは続ける。
「会議室やトイレなどでぜひ泣いてください。ペットロスに苦しむ人はペットを飼っている人の数だけいて、みんな人知れず泣いています。自分だけではないと思ってください。心ないことを言う人の意見に耳を貸す必要はありません。悲しみを昇華できるまで、自分の感情に素直になっていいのです」
つらくて仕事も家事も何もできないという場合は、その感情を文字にして表すといいという。たとえば日記やブログなどだ。
「文章にすると、自分の状態を客観視でき、冷静になれるので、感情が乱れているときほど日記を書くのがおすすめです」
小柳ルミ子や中川翔子も、ペットロスの苦しみをブログに書き残している。SNSの場合、投稿を読んだ人から、「わかります」などの共感コメントを寄せられることもあり、同じ悲しみを持つ者同士、慰め合い支え合うこともできる。
新しい子を迎えることに罪悪感は不要
ここまでに、ペットロスを解消するさまざまな方法を紹介したが、実はさらにいい方法がある。それは、新しい家族を迎えることだ。
しかし、ペットロスを経験すると、「こんな悲しみは、二度と味わいたくない」と、ペットを飼えなくなる人は多い。また、新しい子を飼ってしまったら、前の子のことを忘れてしまってかわいそうに思えたり、薄情だと罪悪感を覚える人も多いだろう。
また、ペットよりも先に飼い主が死ぬようなことがあってはならないので、高齢の人に次の子を迎えるべきだとは言いにくい。しかし、飼育が可能な環境であれば、考えてみてもいいかもしれない。
「新しい子を迎えることはむしろ、前のペットの供養にもなります。というのも、“前の子はお手が得意だったけれど、今回の子は伏せが得意”など、目の前にいるペットを通して前の子の存在を感じ、幸せも倍になるからです。新しい子を迎えることで、逆に亡くなった子を偲ぶ機会が増えるので、罪悪感を覚える必要はありません」
ペットたちはむしろ、あなたが元気になり、笑顔を取り戻すことを望んでいる。
「死の現実を受け止められるようになると、“あなたと一緒にいられて幸せだった”という感謝の気持ちが芽生えてきます」
ペットを失った悲しみを、忘れようとする必要はない。一緒に過ごした思い出は消えない。その存在を感じつつ生きることが大切だという。
ペットロスを乗り越えるためのチェックリスト10
あらためて、ペットロスを乗り越えるための方法をチェックリストで確認してみてください。きっと気持ちに変化があらわれてくるはずですよ。無理せず、試してみてくださいね。
□ きちんと悲しむ
□ 火葬する前に体をゆすり、呼びかけるなどして、死んでいることを確認する
□ 葬式(送るためのセレモニー)を行う
□ 元気になろうと思わない
□ 泣きたいときに泣く
□ 仕事や家事などルーティンを続ける
□ 愛するペットを亡くした仲間と語り合う
□「たかがペットでしょ」などの発言はスルーする。そういう考えを持った人とは距離を保つ
□ ペットの魂が一緒にいてくれると考える
□ 月命日などの儀式を行い、死を少しずつ受け入れる
ペットにとって最大の不幸は飼い主が先に死ぬこと!
「ペットを飼ったら最期まで面倒を見る」というのが飼い主の鉄則だが、不可抗力はある。ペットにとって何よりの不幸は、飼い主が先に死ぬこと。これだけはなんとしても避けなければならない。代わりの飼い主を探してくれたり、代わりに世話をしてくれる団体もあるので、飼い主が元気なうちに、対応策を考えておこう。
[知っておきたい主な支援団体]
■公益財団法人日本アニマルトラスト
動物保護施設の運営と新しい飼い主のマッチングを行う。(https://happyhouse.or.jp/)。
■一般社団法人ファミリーアニマル支援協会
飼い主は協会と飼育費管理契約を結び、協会は信託会社の専用口座で管理。飼い主が死去したり、認知症などで飼育が困難になった場合は、協会が新たな飼い主に飼育費を支払い飼育してもらう。(http://fasa-animal.or.jp)
■東京ペットホーム
高齢化したペットだけでなく、飼い主が高齢化して飼育が難しくなったペットも引き取っている。(https://tokyo-cathome.com/)
取材・文/前川亜紀
教えてくれた人
臨床心理士・木附千晶さん/自らもペットロスを経験し、ペットロスに苦しむ人をサポートする。
※女性セブン2021年9月2日号
https://josei7.com/