のどの筋肉を鍛えて誤嚥を防ぐ「腹話術風あいうえお」と「舌トレ」を専門家が解説
「運動不足による体の不調とともに、のどの運動不足も進んでいる」と、専門家は言う。その原因はマスクだ。マスクをすることで口の動きが封じられ、のども運動不足になるんだとか。このままの状態が続くと、声が出しづらくなるだけでなく、飲み込む力にも影響を及ぼす。そこで、専門家にのどの鍛え方について聞いた。
のどを鍛える前にまずは呼吸を整えよう
「のどを鍛える前に、呼吸を整えるべき」と、山﨑さんは言う。
人は1回の呼吸で約500mlの空気を吸い、そのうちの約350mlが肺の細胞で換気されている。しかし、呼吸が浅くなると吸う量も吐く量も減るため、肺に残っている空気(残気)がうまく交換できない。
「お腹に手を当て、“スッ、スッ”と4回言いながらお腹が凹むのを感じ、最後に“スーッ”とゆっくり息を吐き切ってください。こうすると、肺の奥にある空気を可能な限り吐き出すことができ、自然と新鮮な空気で肺を満たすことができます。
この呼吸を1日に5~10回行えば横隔膜がよく動くようになり、腹筋も鍛えられますよ」(山﨑さん・以下同)
腹話術のように口を閉じ「あいうえお」を発声
この呼吸法は準備体操のようなもの。次に、腹話術のように口を軽く閉じた状態で「あいうえお」と発声すると、のどを鍛える効果が高くなる。
「母音を発声する際に重要なのは“口の形”ではなく、のどの奥にある“咽頭部と喉頭部の動き”です。なぜかといえば、ここが形を変えて5つの音を作り出しているからです。
声を出すためには息を吐く必要があるので、口をほんの少し開け、歯を軽く閉じたまま、『あいうえお』と言ってみましょう。鼻に息が抜けると五音すべてが『う』に近い音になってしまいます。のどを開くように意識すれば、聞き取りやすい正しい声が出せます」
手をのどぼとけのあたりに添えて声を出すと、音が変わるたびにのどが動き、響いて音が出ていることが指先で感じられる。これをゆっくり繰り返せば、のどまわりの筋肉が鍛えられるだけでなく、気管そのものが柔軟に動くようになる。
■腹話術風「あいうえお」のやり方
「のどは空気の通り道の気管と、飲食物の通り道の食道が交差する複雑な場所です。のみ込む際には誤嚥をしないように喉頭蓋(がい)が気管に蓋(ふた)をして、飲食物を食道に送る役目をしています。この部分が動きやすくなれば喉頭蓋の切り替えもスムーズになるため、誤嚥防止につながります」
のどの奥で母音を作って響かせられるようになれば、滑舌も、声もよくなるという。毎日、昼と夜に1セットずつ行おう。
「舌トレ」で嚥下の底力をつける
“のみ込み力”をつけるには、のどの動きが重要なようだが、「舌の動きも大きく関係している」と、平野さんは言う。
「口の中がどのように動くかを意識してから唾液をのみ込むと、“ごっくん”とする直前に、舌を上あごにべったりとつけ、上へ押し上げていることがわかります。つまり、舌はのみ込むときの“力こぶ”になっているんです」(平野さん・以下同)
このほか、舌には口の中の食べ物を自由に動かして咀嚼(そしゃく)を助け、のみ込みやすい形にまとめ、のどの奥に送り込む役割もある。舌はほぼ筋肉でできているため、意識して動かすことで鍛えられるのだ。
「高齢者のかたで、のみ込む際に、のどがヒクヒクと動いてしまい、うまくごっくんとできないかたがいますが、のどぼとけを引き上げる舌のパワー不足が原因かもしれません。このトレーニングを続ければ、舌に力がつき、瞬間的に力を入れてのみ込む動きがスムーズになります」
■舌のトレーニング術
【1】舌を出し、下あごの先を触るつもりで下にグーっと伸ばす。
【2】舌で鼻の頭を触るつもりで、上にグーっと伸ばす。
【3】舌を左右、斜め下に向けてグーっと伸ばす。
【4】舌で口のまわりをぐるりと、右回り、左回りに動かす。
【5】 スプーンなどを舌に当てて押し、その力に抵抗するように舌を上げる。上下左右行う。
教えてくれた人
山﨑広子さん/音楽・音声ジャーナリスト
「声・脳・教育研究所」代表理事。著書に『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)などがある。
平野浩彦さん/東京都健康長寿医療センター歯科口腔外科部長。
80才で20本の歯を残す「8020運動」に加え、健康長寿につながる「オーラルフレイル管理」の重要性を発信している。
取材・文/山下和恵
※女性セブン2021年7月22日
https://josei7.com/
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