暑くて眠れないときの”脳冷却”メソッド7 脳を冷やして夏の不調を解決【医師解説】
各地で「熱中症警戒アラート」が発令され、危険な暑さが続いている。夜は暑さで寝つきが悪いし、眠りも浅い…。最も眠りが浅いのは「夏」という調査結果も。「夏の不調の原因は、頭部内熱(脳の熱)にある」という専門医に話を聞いた。暑い夏を乗り切る7つの”脳冷却”メソッドとは。
夏の不調は「頭部内熱」が原因かも?
頭部内熱が上がると、全身の細胞や臓器の機能が低下する。それによって、さまざまな不調が引き起こされる。東京疲労・睡眠クリニック院長の梶本修身さんが話す。
「脳の熱が上がっているときの初期症状として、長風呂をしたときのような“のぼせ感”や、かぜをひいて鼻がつまっているときのような、頭がボーッとする感覚があります。
この状態が長く続くと、自律神経失調症のほか、心臓、肺、胃腸などすべての器官の働きが悪くなり、体温調節がうまくできなくなって、体も熱中症になりやすくなる。夏バテもしやすくなるほか、うつ病のような気持ちの落ち込みや倦怠感、めまい、肩こり、頭痛、耳鳴り、ふらつき、血流の低下といった、さまざまな症状が出てきます」
「ここ1か月くらいで、急に寝つきが悪くなってきた」と感じていたら、頭部内熱のせいかもしれない。脳の温度は、内臓の温度を表す「深部体温」の一種。深部体温は通常、朝起き抜けが最も低く、活動し始めると上がり、16時頃をピークに下がっていく。
人間の体は、深部体温が下がることで自然な眠気が訪れ、睡眠中に脳がクールダウンされるようにつくられているが、このリズムが頭部内熱によって乱される。
「日中の深部体温は、活動量や緊張状態の有無によって左右されるので、必ずしも一定に変化するとは限りません。しかし、脳の熱をうまく排出できず、夜になっても頭部内熱が高いままだと、寝つきが悪くなったり、夜中に突然目が覚めたり、眠りが浅くなったりするなどのトラブルが起こるのです」(外山さん)
事実、四季の中で最も眠りが浅いのは「夏」という調査結果もある。夏の不調の原因は、すべて頭部内熱にあると言っても過言ではないのだ。
脳の熱を発散させる「脳冷却」ベストな温度は?
もちろん、ストレスやスマホだけでなく、単純に夏の暑さと湿度も、頭部内熱を上げる大きな要因の1つだ。
「脳の熱をうまく発散するには、“エアコンをガンガンに効かせた部屋で、鼻で呼吸をする”のがいちばん。というのも、脳にとって快適な温度は、23~24℃、湿度は50%くらいなのです。その冷たい空気を鼻から吸い込むことで、ちょうど鼻の奥にある自律神経の中枢をダイレクトに“空気冷却”することができるのです」(梶本さん)
働きすぎると熱を持つパソコンや冷蔵庫が、内蔵のファンで冷やされるように、鼻呼吸で冷たい空気を送り込めば、脳を冷ますことができるということだ。TH東洋総合治療センター代表の外山仁さんも言う。
「吸い込むときは、鼻から吸った酸素が脳を通って全身にめぐる様子をイメージしながら行うのがコツです」
エアコン25℃で生産性が向上
日常的にマスクを着用するのが当たり前になり、特に真夏は暑苦しさで口呼吸になりがち。鼻から吸った空気は鼻毛や粘膜で少し温められるので、エアコンの設定温度は、24℃前後が望ましい。高温多湿の日本の夏は、せっかくの“空気冷却”がムダにならないよう、室温を下げておく必要があるのだ。日本人、特に女性は冷房が効きすぎるのを嫌う傾向にあるが、これはたんに筋肉量が少なく、体感温度が低い「寒がり」なだけだ。
「筋肉の量や体感温度に関係なく、脳にとって快適な温度はどんな人も同じです。体ではなく脳に合わせて温度を設定してほしい。厚労省が推奨する居室の温度は28℃以下なので、電気代がもったいないと感じるかもしれませんが、実は28℃は『熱中症の警戒温度』であり、28℃にすれば熱中症にならないという根拠はどこにもありません。むしろ、設定温度が高い方がもったいない。
ある研究では、室温が26℃を超えると、そこから1℃室温が上がるごとに、人間の生産性は2%ずつ落ち込むことがわかりました。厚労省のすすめる28℃に設定すると、26℃から2℃も高い。つまり、生産性は4%も下がり、結果的にダラダラ残業することになり、エアコンを長時間つけ続けることにもつながります」(梶本さん・以下同)
事実、2019年に兵庫県姫路市役所が、7~8月の間、エアコンの設定温度を25℃にする実験を行ったところ、生産性が向上し、結果的に残業時間は14.3%も減少、4000万円もの節約につながった。外資系企業などでは、こうした科学的な根拠をもとに、夏場はオフィスの室温を徹底して低くするように取り決めているところも少なくない。
眠るときは頭は冷やして首から下は温める
とはいえ、あくまでも冷やすべきなのは「脳」だけであり、ガタガタ震えるほど全身を冷やしてはいけない。
「わきの下や首を冷やすと体温が下がるのは、全身をめぐる血液を冷やしているから。当然、脳を冷やすことにもつながりますが、それでは脳だけでなく全身の体温も奪う。寒すぎても自律神経の働きが悪くなり、血流や内臓の働きも悪くしてしまいます。
理想は、室温は24℃程度にして、室内では冬物の長袖の服を着たり、ブランケットをかけたりして過ごすこと。
頭は冷やし、首から下は温めるのが鉄則です。冷房の効いた部屋から蒸し暑い屋外に出るときのあの強烈な温度差も、脳や自律神経にとって大きなストレスになるので、屋外での暑さ対策も忘れずに。
眠るときも、エアコンの設定温度を低くして、タオルケットなどの夏用の寝具ではなく、冬用の羽毛布団を一年中使うようにしてほしい。タオルケットは、冷房がない家が多かった時代のもの。いわば“昭和の寝具”です」
夏の快眠に…脳を冷やす「4・7・8呼吸法」
そして、就寝時間になったら自然な眠気がくるよう、あらかじめ湯船で体を温めておくことも大切だ。
「脳を含む深部体温が下がると眠気が訪れるので、入浴で体を温めておくと、次第に体と脳の熱が放散されて眠くなり、熟睡できて、乱れた自律神経が整います。寝床に入る直前に入浴すると、まだ体が熱く、かえって寝つけなくなるので、就寝したい時間の1~2時間前には、入浴を終わらせるようにしてください。湯船の温度は、38~40℃程度の、熱すぎないお湯がいいでしょう」(外山さん・以下同)
それでも寝つけなければ、応急処置的に、ひたいに保冷剤をつけてみるのも手だと外山さんは言う。
「ただし、保冷剤はカチカチに凍ったままだと不快感がストレスになるので、冷蔵庫でやわらかくしたものを、タオルなどで巻いて使うようにしましょう。眠っている間に取れてしまっても大丈夫。むしろ取れないようにきつく頭に結びつけると負荷がかかり、かえって眠りを妨げることになります」
入浴後は、エアコンの効いた部屋で、ゆっくりと冷たい空気の中で深呼吸してほしい。
梶本さんは、「4・7・8呼吸法」をすすめる。
「4秒かけて鼻から息を吸い、7秒間息を止め、8秒かけて口から吐くだけ。鼻から冷たい空気を吸うことで脳を冷やし、温まった空気を口から吐くことで、鼻腔での『熱交換』ができるのです。頭がボーッとする、だるい、集中力が切れた、飽きた…など、脳に熱がこもっている前兆が表れたときなど、一日のうちいつ行ってもかまいません。毎日の習慣にするなら、入浴後のリラックスタイムに行うのがベストです」(梶本さん)
スポーツでアツくなると脳が疲れる
また、負荷が重すぎるスポーツや激しいトレーニングは、自律神経のバランスを乱しかねないので、運動は1日15~30分程度の散歩など、疲労感を感じない程度にとどめるのがいい。
「近年、スポーツをした後の疲労感は、筋肉ではなく、脳が疲れているからだということがわかってきました。運動中に心拍数や血圧、発汗、体温調節のために呼吸を速めるなど、体の恒常性を維持するために、自律神経が絶えず働いていることが、疲労の原因だったのです。同じ距離を歩いても、気温が高いときの方が疲れやすいのは、自律神経が疲弊するからです」(梶本さん)
激しい運動はせず、ゆっくりお風呂に入ったら、部屋をエアコンでキンキンに冷やして、暖かい格好でぐっすり眠りなさい──こんな快適すぎる健康法、実践しない手はない。
クールな脳になる7つの秘訣
【1】1日15~30分の散歩で運動&スマホ離れを。
【2】 口呼吸は酸素不足のもと。鼻で呼吸する習慣をつけよう。
【3】エアコンの温度は24℃前後に設定して厚着を。
【4】夏でもタオルケットではなく羽毛布団を。脳は冷やしても体は温めること。
【5】シャワーではなく湯船につかる。寝床に入る1~2時間前までには入浴を済ませておく。湯舟の温度は38~40℃のぬるめがベスト。
【6】「頭が熱い」と思ったら、カチカチの保冷剤はNG。冷蔵庫でやわらかくしたものをひたいに当て、タオルやバンダナなどで頭に巻いて寝る。
【7】「4・7・8呼吸法」を実践する。4秒かけて鼻から吸い、7秒間息を止め、8秒かけて口から吐く。
教えてくれた人
梶本修身(おさみ)さん/東京疲労・睡眠クリニック院長
外山(とやま)仁さん/TH東洋総合治療センター代表
※女性セブン2021年7月29・8月5日
https://josei7.com/
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