親の施設入居、どうやって説得する?【マムちゃんの毒入り相談室:第4回】
親にはいつまでも楽しく穏やかに過ごしてほしい――。親自身も同じように願っているはずである。しかし、現実にはスムーズに行かないことや気持ちのすれ違いも多い。毒蝮三太夫さんがズバリ答える「マムちゃんの毒入り相談室」。今回のお悩みは「介護施設への入居をどう説得するか」。マムシさんのアドバイスやいかに!?(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「介護施設への入居をどう説得するか」
全国の高齢者諸君、元気にしてるか! コロナで外に出づらいからって、家でションボリしてたら弱っちまうぞ。いい季節なんだから、きっちり感染対策をして、お日様の光をたっぷり浴びようじゃないか。年寄りも光合成をすれば、背筋が伸びるらしいぜ。
今回の相談は、ひとり暮らしの父親を心配する54歳の女性から。
「母は5年前に他界。それ以来、83歳の父がひとり暮らしをしています。頭はしっかりしていますが、ここ1年ぐらい身体の衰えが目立ってきました。実家までは車で2時間ぐらいかかるし、私も仕事があるので頻繁には行けません。妹もいますが似た状況です。訪問介護も『俺には必要ない』と言うばかりで受けようとしません。冷静に考えると、遠からず介護施設に入居したほうがいい状況だと思います。どう説得すればいいでしょうか。ただ、自分の中にも正直、施設に入れることは『厄介払い』なんじゃないかと、抵抗があります……」
回答:「介護施設に、マイナスイメージを持つのをやめよう」
これはややこしい問題だけど、まず最初に変えなきゃいけないのは、あなた自身の介護施設に対する考え方だな。介護施設とひと口に言っても、介護付き老人ホームとか住居型の老人ホームとか、あるいはグループホームとか、入る人の状況や目的によっていろんなタイプがある。共通しているのは「けっして姥捨て山ではない」ってことだ。
あなたの頭の中には、もしかしたら古いイメージの老人ホームが浮かんでいるんじゃないかな。最近の施設は、どこもキレイで明るいよ。もちろん、改善が必要な部分もまだまだあるけど、そこは施設側だってがんばってる。俺が言いたいのは、「死ぬのを待つ場所」じゃなくて「残された時間を有意義に過ごすための場所」だってことだ。
あなたがた姉妹は、たまにしか会いに行けない状況にある。いや、いいんだよ。親の面倒を見るために自分の生活を犠牲にする必要はない。ただ父親にとっては、いくら自分の家でも、毎日ひとりで過ごすのが、はたしていい環境なのかどうかは難しいところだ。とくに男性は、友達を作って無駄話するのが苦手な人が多いから、どんどん孤独な生活になっていく。
介護施設に入ることを考えるにしても、まずはデイサービスやショートステイで徐々に慣れていく必要がある。おだてたりすかしたりしながら、そのへんのお膳立てをしてやるのが子どもの役目だ。親の好きにさせてあげるっていうのは、まわりにも自分にも聞こえはいいけど、できないことがどんどん増えていく状況で、かえって親に苦しい思いをさせることになるかもしれない。何より事故や火事のリスクもあって、危険でしょうがないよ。
そうそう、どう説得するかっていう相談だったな。自分が介護施設に対してマイナスのイメージを持っているままだったら、どう言っても親は納得しないだろうね。無理やり入れたとしても、毎日ふてくされたまま過ごすだろうし、あなた自身も罪悪感を抱えなきゃいけない。在宅の介護サービスを受けることに対しても、同じことだ。
コロナ禍じゃなければ、入れそうな介護施設をいくつか見学させてもらうのが、いちばんいいんだけどな。代わりに、本を読んだりインターネットを使ったりして、今の介護施設がどういうものかを知るといいと思う。なかには「いいことばっかり言ってるけど実際は……」という施設もないわけじゃない。そのへんも意識して勉強してみてくれ。
本人が納得するまで説明することが大切
入れたほうがいいと思っていざ話すとしても、言い出しづらいし、父親だって最初は「俺は嫌だよ」と反発するかもしれない。それでも根気よく「お父さんにはまだまだ元気で過ごしてほしいから」「家に毎日ひとりでいたら、認知症になっちゃうわよ。いろんな人と話ができたほうが楽しいと思うな」なんてことを言えば、だんだんその気になってくれるよ。
「お母さんがいなくなってから、ひとりで頑張ってきたお父さんはすごいよね。おつかれさま」と、苦労をねぎらってあげるのも効くかもしれないな。口では強がっていても、身体が言うことを聞かなくなってきたのを誰よりも感じているのは自分だからね。
聞いた話だけど、子どもがいきなり施設を決めちゃって、ロクに説明もしないで強引に施設に入れるケースもあるんだってさ。それは絶対にやっちゃダメだ。そういうことをする子どもに限って「俺は親思いだから、親のために頑張ったんだ」なんて得意になってるらしい。どこに住むかっていうのは、人間にとってとても大事な問題だ。どんなに面倒でも、本人が納得するまで根気よく説得してやってくれ。親が新しい環境での生活を気持ちよく楽しむためにも、子どもが後ろめたさを覚えないためにも、それが不可欠なんだ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。84歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評! 4月21日にYouTubeで「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)がスタート! 第一回のゲストは、俳優の古谷敏さん。取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治