「世帯」を分ければ介護費用が減る!手続き5分の簡単裏ワザ【役立ち情報再掲載】
ただでさえ、家計は年中火の車。収入を増やすのは簡単にはできないし、支出を減らそうにももう限界。そんな悩みを救う最後の手段が「家族構成」を変えることだという――。
「世帯分離」は家計を救う最後の手段!
都内に住む主婦・田中美紀さん(50才)と母(76才)の話し合いは一向に進まない。
「いまさら親子の縁を切るって言うの!? 私を家から追い出すつもりでしょ!」
母はそうまくしたてるばかりだった――。
田中さんは4年前、父を亡くしたことを機に母と同居を始めた。世帯年収は飲食店を営む夫の400万円と自分のパート収入100万円。だが、コロナショックで夫の収入は激減した。この先さらに収入が落ち込む可能性は高い。そこで、少しでも家計を楽にしようと、「世帯分離」を進めようとしていたのだ。
同じ屋根の下に暮らしても世帯を分けることができる
「世帯分離」とは、親と同居している状態で「親の世帯」と「子の世帯」に分け、住民票を登録することを指す。同じ屋根の下に暮らしていても、世帯を分けられることは意外に知られていない。
『「世帯分離」で家計を守る』の著者で杉並区議会議員の太田哲二さんが説明する。
「世帯を分けることで、介護保険料や国民健康保険料を低く抑えることができるお得な制度です。申請も役所で簡単にできますよ。ですが、世帯分離について、“親子の縁を切るのか”などと嫌悪感を示す人が多いのも実状です」
仲よしだったはずの田中さん親子が言い争うことになったのは、まさにそんな誤解からだったのである。
では、もし世帯分離ができたなら、どれだけ得するのか。太田さんは「特に影響が大きいのが介護費用」と説明する。
「介護保険料などの社会保障費は『世帯ごとの所得』に基づいて計算されるので、所得が高いほど自己負担額も大きくなります。親子の世帯を分ければ、親の世帯では親の所得にのみ基づいて社会保障費が計算されることになる。高齢の単身世帯なら収入は低いので、自己負担額は下がることが多いのです」
田中さんの場合、母の年金収入は年間36万円。世帯分離前は、田中さん夫婦と母の3人世帯の所得から算出されるので、母には年間6万3000円の介護保険料がかかっていた(東京・杉並区の場合)。
だが、分離すると、母の介護保険料は母の年金収入だけで算出され、年間2万8020円と約3万5000円も安くなった。一方で、「子の世帯」である田中さん夫婦の介護保険料が高くなることはないので得になるわけだ。
役所に届けを提出するだけ
さらに、世帯分離は介護保険制度の介護サービス費でも大きな節約につながるという。介護サービスの自己負担額は、世帯全体の所得に応じて上限が決まる。上限を超えた分は「高額介護サービス費」として払い戻しされるので、世帯を分けて所得を小さくし、上限を下げた方が戻るお金も多くなる。
田中さんのケースだと、世帯分離前の自己負担上限額は月額4万4000円。分離すれば、母の自己負担上限額は1万5000円まで下がり、月に約3万円、年間で36万円も得することになる。
そのほか、特別養護老人ホームでの食費や居住費、後期高齢者医療保険料や国民健康保険料が軽減されることもあり、メリットは豊富だ。また、世帯分離をすると、介護や医療のみならず、年金においてもメリットがある。
「年金生活者支援給付金」は、国民年金のみの受給者など年収約88万円以下の人に月額最大5030円が支給される制度。ただ、「同一世帯の全員が住民税非課税」という条件があり、社会人の子供と年金暮らしの夫婦が同一世帯だともらえない。そこで世帯分離をすると、65才以上の年金暮らしの夫婦で、前年収入が約88万円以下なら、給付金が支給される。
「ただし、世帯分離はあくまで高齢の親と現役世代の子供が検討すべきもの。介護保険料などが一定額を超えると世帯内で合算して安くできるルールもあり、高齢者同士の世帯分離は避けた方がいいでしょう」(ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さん)
世帯分離の手続きは意外に簡単だ。住んでいる市区町村の役所に「世帯変更届(住民異動届)」を提出するだけ。必要なものは運転免許証などの本人確認書類、印鑑、保険証などで、手数料はかからない。必要事項を記入した書類を窓口に提出し「親と生計を共にしていないので世帯分離をしたい」と申し出れば、通常5分ほどで手続きは終わる。
ただ、「介護費用を安くしたいので世帯分離したい」と伝えると承認されないこともあるので、余計なことを言う必要はない。
「世帯分離はあくまで『制度上の言葉』であって、実際に親子の縁を切ることではありません。むしろ、浮いたお金を有意義に活用できる“親孝行な制度”です。せっかくの制度ですから、正しく理解して有効活用したいものです」(前出・太田さん)
教えてくれた人
杉並区議会議員・太田哲二さん、ファイナンシャルプランナー・風呂内亜矢さん
※女性セブン2021年1月28日号
https://josei7.com/
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