ウイルス・菌から体を守る「粘膜免疫」強化したい IgA抗体って何?
気温が下がるごとに空気の乾燥を感じ、インフルエンザなどの感染症が気になる季節になってきた。さらに今年は新型コロナウイルスとの「同時流行」も心配されている。そこで今注目されているのが、病原体から体を守る「粘膜免疫」。その代表的な物質である「IgA抗体」がインフルエンザやコロナ対策の鍵になるという。専門医が解説する。
【目次】
粘膜免疫とは?
会社員の夫と、小学生の子供2人と都内で暮らす40代の主婦は不安を漏らす。
「冬場は毎年、子供から始まって、家族が順番に風邪をひくのがお決まりです。今年は新型コロナが心配なので去年以上に気をつけたいけれど、正直、これ以上どんな対策をすればいいのか思いつきません」
外出時はマスク着用、こまめな手洗いとうがい、アルコール消毒の徹底はもはや日常となった。さらに今年の冬は、新型コロナの感染拡大を予防するため、なるべく外出を控え、暖かい室内で過ごす時間が増えるはずだ。例年以上に体調を気遣う意識が高まっている人は多いだろう。
→新型コロナ感染予防をおさらい 正しい手洗い、咳エチケット、3つの密
「それでも不安」という人は、近年、体にウイルスや細菌を侵入させないために注目されている「粘膜免疫」に注目してほしい。みえ呼吸嚥下リハビリクリニック院長の井上登太さんが言う。
「体には『粘膜免疫』という仕組みがあり、病原体などから体を守っています。個人差はあるものの、自己管理によって短期間で改善することが可能です。いまからでも粘膜免疫の強化に取り組めば、明日にもいい影響を受けることができます」
逆にいえば、粘膜免疫が落ちている人は風邪をひきやすいということ。すぐにでも強化に取り組みたい。
粘膜免疫の主戦力…IgA抗体とは?
そもそも粘膜免疫とは何なのか。体の免疫システムは大きく分けて2種類ある。
1つは、「体に入ってきた異物と闘う」免疫。風邪をひいたときに熱や咳が出て治るのは、体の中でウイルスと闘う免疫システムがあるからだ。
もう1つは「体の中に異物を入れないようにする」免疫で、ウイルスを体の中に侵入させないように防御している。粘膜免疫は後者だ。
「鼻や口、のどの『上気道』や、胃や腸管などの『消化管』 は、外部からの空気や食べ物が直接通る場所のため、病原体やアレルギー物質が侵入する脅威につねにさらされています。そのため、上気道や消化管には身を守るために『粘膜免疫』という仕組みがあり、体内に病原体が侵入しないように阻止しているのです」(井上さん・以下同)
粘膜免疫の中でも代表的な物質が、「IgA抗体」と呼ばれるものだ。
「粘膜免疫の“主戦力”として働いているのがIgA抗体です。ウイルスなどの病原体やアレルギー物質にくっつき、その動きを鈍らせたり止めたりして体内への侵入を阻止しています。
粘膜免疫の働きがいい人ほど病気にかかりにくくなり、アレルギーや食中毒などの症状も起こしにくい」
ウイルスを粘膜免疫で食い止めて、インフルエンザにかからないようにするワクチンの研究も進んでいるという。
「従来の注射タイプのワクチンは、弱くしたウイルスを体内に注入することで免疫がつくられ、再度そのウイルスに感染しても重症化を防ぐものでした。一方、鼻腔にスプレーするタイプのワクチンは、IgAの活性化ももたらすといわれます。粘膜免疫の効果で、感染そのものを防げるのではないかと期待されています」
→「インフルエンザ感染予防に、皮下注射は意味がない」その理由とワクチン最新事情
私たちの体にもともと備わっている免疫力は30代をピークに低下する。さらに、免疫細胞の一種であるNK(ナチュラルキラー)細胞の活性は高齢化に伴い半減するため、風邪をひきやすくなる。しかし、年齢以上の問題がある。
「加齢ももちろんですが、粘膜免疫は生活環境に非常に影響を受けやすい特徴があります。
実際、医療従事者を見ていると、若い人ほど風邪をひきやすい。それは環境が変わり生活サイクルが安定していないことが原因です。どんな人でも、生活習慣を改善すれば粘膜免疫を鍛えることが可能です」
生かすも殺すも自分しだいだ。
教えてくれた人
井上登太さん/みえ呼吸嚥下リハビリクリニック院長(http://www.mie-enge.jp/original14.html)
※女性セブン2020年11月26日号
https://josei7.com/