兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第41回 不動産売買と税務署」
ライターのツガエマナミコさんは、若年性認知症を患う兄と2人暮らしだ。
昨年、会社を退職した兄。ツガエさんは、日々の生活支援に加え、ハローワークや病院への付き添いも行っている。このたびは、確定申告の時期を迎え、兄の分の申告手続きにも頭を悩ませ…。
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
税務署に電話してみたら…
フリーランス歴も20年越えになりましたが、未だに“なんとなくこれでいいか”でやり過ごしている個人の確定申告でございます。そこに今回は兄の分と、マンションの売り買いをした分がのしかかってまいりました。
多くの方はご存じだと思いますが、不動産的なことで利益が出た場合は、特別な申告が必要でございます。
わたくしもうっすらの知識で、そこまではわかっておりましたが、我が家のように利益がなかった場合はどうなのかは考えたこともございませんでした。
税金を取られる要素はないものの、何かそれを証明する正式な書面が必要なのではないかと思い、3月も半ばになって税務署に電話で伺ってみたのでございます。
マンションを売り買いしたときの書面や証書は山のようにございます。もし「〇〇の領収書と△△が記された証書が必要です」と言われても、探し出すのに時間がかかるな~と懸念しておりました。
しかし、案ずるより産むがやすしで、正解はあっけないものでした。ざっくり申し上げると「別になにもしなくてもいい」です。
我が家のマンションの場合、購入したときの金額よりも安く売却しているので売って損しており、申告しなくてもいいようです。いや、語弊がないように申し上げれば、本来はマイナスだったとしてもマイナス所得として売買の金額やら手数料やらを申告すべきものらしいのですが、しても税金の額には影響がないので「別にしなくても犯罪にはなりません」という回答でした。
ただ、税務署からの『譲渡所得がある場合の確定申告のお知らせ』は記入して返信するように言われました。じつは不動産の売買は管轄の税務署が把握しているようで、事前に封書が届いておりました。
もしもそれを返信しない上に確定申告にも記載がないとなると、最悪は税務署の調べが入るとのことで、ビビったわけでございます。
中身は、売却した年月日と金額、その物件を購入した年月日と金額を書き入れるだけのじつに簡易な書面です。
“こんなの書くだけでいいの?“
少し不思議に思いました。
契約書や領収書のコピーも添付することなく済んでしまうということは、いくらでもズルができるではありませんか。逆に言えば税務署は金額まで把握しているのか?ならば利益がなかったことも先刻お見通しなのだからいちいち書面を送ってくるのは税金の無駄使いではございませんか?
とまぁブチブチ言いながらも、お上のなさることに逆らう勇気はございません。早速税務署の書面を返信させていただき、わたくしはわたくしで、個人的な確定申告をe-Tax(国税電子申告・納税システム)でビューーンと送らせていただきました。
そう、わたくし、昨年初めてe-Taxデビューしたのでございます。でもつい前日までその記憶がマルッと消えておりました。昨年の資料を取り出してやっと「e-Taxやってる自分!」と驚き、忍び寄る認知症に震えました。
昨年のe-Tax後にわざわざ税務署に源泉徴収票や領収書を持参した経緯もメモで残っており、「5年間保管すること」と自ら書いておりました。それを見ても書いたことを思い出せず「こんなにきれいに忘れてしまうものなんだ」と怖さが倍増いたしました。
こうして2020年春の確定申告物語は、あとは兄の源泉徴収票が届くのを待つばかりとなったのでございます。
つづく…。(次回は5月21日公開予定)
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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