椎間板ヘルニアなどの腰痛症に髄核細胞を使用した再生医療による治験開始
椎間板変性症は椎骨と椎骨の間のクッションである椎間板が変形し、近くの神経を圧迫することで痛みや痺れなどの症状を起こす。悪化して椎間板を取る手術を受けている人は年間約7万人もいる。
椎間板ヘルニアの根本治療として、椎間板の細胞を使った再生治療の研究は20年程前から行なわれていたが、ついに今年、慢性腰痛患者を対象に治験がスタートした。
20年取り組んできた椎間板の再生治療
腰痛が持病の日本人は約3000万人(日本整形外科学会調査)と推計されている。腰痛の原因はさまざまだが、30〜40歳代の男性に好発するのが椎間板変性症、とりわけ椎間板ヘルニアだ。この疾患は椎骨と椎骨の間にあり、クッションの役割をしている椎間板が激しい運動などで外に飛び出し、近くの神経を圧迫することで腰痛などの症状を起こす。椎間板ヘルニアが進行し、椎間板がすり減ってしまうと脊椎管狭窄症などに移行するケースも多い。
東海大学医学部付属病院整形外科の酒井大輔准教授に話を聞いた。
「椎間板ヘルニアなど、椎間板変性症の治療は痛みを取る対症療法を中心にリハビリや生活習慣の改善を組み合わせて行なわれてきました。治療しても、痛みが取れない場合は椎間板を取る手術後に椎骨同士を金属で止める固定術が行なわれていました。ただし、固定術ではその場所が動かなくなるので、上下の椎間板の動きは阻害され、数年後には上下の椎間板が障害されて再手術せざるを得なくなることもあります。そこで私たちは根本的な治療を目指し、椎間板の再生治療の研究に20年程前から取り組んでいます」
椎間板は血管がほとんどないため、血流で細胞に酸素や栄養分などが供給されにくく、修復は難しいとされてきた。再生治療では椎間板の中から髄核細胞を取り出し、体外で活性化、培養してから椎間板に戻す方法が考案された。ただ、椎間板の髄核細胞はわずかなので、効率よく培養する技術の確立が難しかった。
2009年、20代の慢性腰痛症の女性(剣道有段者)に臨床研究として再生治療を実施した。この患者は椎骨の4番と5番の間と、5番と骨盤の間がヘルニアになっていた。
まず下の方のヘルニア治療として椎間板を取り出し、固定術を行なった。この時、採取した椎間板の中から髄核細胞を取り出して体外で活性化させて細胞を増やした後、4番と5番の間の椎間板に注射で細胞を注入した。注射後、半年で腰痛が半減、7年後のX線画像では潰れて黒く映っていた椎間板が白くなり、再生していることが確認された。
今年、この研究に米国のベンチャー企業より共同研究の提案があり、他人の椎間板から培養した髄核細胞による再生治療の治験が始まっている。
「米国企業が椎間板から採取した細胞を体外で培養し、前駆細胞(椎間板になる状態の細胞)になったところで凍結保存します。対象の患者さんには液体窒素の容器で空輸されたものを使い、こちらで治療をします。X線画像を見ながら約1.0ccを注射するだけなので、患者さんの負担は他の治療法と比べ軽減されています」(酒井准教授)
治験参加条件は18歳から75歳までのMRIで中等度の椎間板変性症と診断された腰痛患者。手術以外の治療を3か月以上続けていても、効果がないなどの条件もある。
治験を希望する場合は現在治療を受けている医療機関からの紹介が必要だ。
※週刊ポスト2019年11月29日号