唇や性器に痛み発疹を伴うヘルペス|何科を受診?うつる?症状・治療法など解説
命に関わる恐れはほとんどないものの、一度感染したら一生つきあっていかなければならない代表的な病気のひとつがヘルペス。病名を耳にしたことはあったとしても、病気の実情をくわしく把握している人は少ないのではないだろうか。ヘルペスとは、どのような病気で、何が問題なのか、効果的な治療法は? 横浜市の「まりこの皮フ科」院長の、本田まりこ先生に解説していただいた。
人やモノを介して感染
くちびるや口のまわり、性器やその周辺、お尻などにある日、かゆみを感じ、やがてその部位に赤い発疹が現れて水ぶくれになってしまう…。これはヘルペスの症状の一例だ。
「ヘルペスを引き起こすのは、ヘルペスウイルスです。ほとんどの脊椎動物に感染するウイルスで、人間も例外ではありません。ヒトに感染するヘルペスウイルスは8種類あります。代表的なものに単純ヘルペスと帯状疱疹があります。単純ヘルペスと帯状疱疹とではヘルペスウイルスの種類が違い、さらに単純ヘルペスウイルスには1型(HSV-1)と2型(HSV-2)があります」(本田先生、以下「」内は同)
まず単純ヘルペスについて、詳しく聞いていこう。
「どちらの型も最初の感染時は、場所を問わずに発生するのですが、単純ヘルペスウイルス1型は三叉神経節(頭部にあり、脳に顔の感覚を伝える神経)に潜み、関連する領域である口唇など主に上半身で再発を繰り返します。単純ヘルペスウイルス2型は腰仙骨神経節(腰の部分にある神経)に潜み、主に下半身で再発します」
唇やそのまわりにピリピリ、チクチクするような違和感やかゆみが生じた後、軽い痛みを伴う水ぶくれができるのが、単純ヘルペスウイルス1型が引き起こす、口唇ヘルペスだ。
「口唇ヘルペスは、症状が出ている人の水ぶくれや唾液、涙液などに接触することで感染します。また、ウイルスが付着したタオルやコップなどのモノを介して感染することもあります。特に赤ちゃんは単純ヘルペスウイルスに感染すると重い症状を起こす恐れがあるため、症状が出たときはもちろん、症状が起こっている人や、その人が使ったモノとの接触を避けることが大切です」
性器ヘルペスは、性器やその周辺、お尻に小さな水ぶくれができ、痛みやかゆみ、不快感などを伴う。
「水ぶくれが破れると粘膜がただれ、排尿時などに強い痛みが生じることがあります。ウイルスに感染している相手とのセックスが主な原因となりますが、ウイルスが付着したタオルや便座などを介して感染することも少なくありません」
便座などから感染する場合も
性器ヘルペスの場合、症状の出る場所がデリケートゾーンのため、他人に相談しにくく、受診をためらいがちになる人も多いという。
「性交渉が原因ではなく、便座などから感染する場合もありますし、高齢になり免疫力が落ちてくるとウイルスが再活性するリスクも高くなります。ヘルペスは初期症状としてピリピリとした痛みやかゆみ、水ぶくれが特徴です。兆候を感じたら、恥ずかしがったり我慢したりせず、皮膚科を受診するようにしましょう。一度発症した人は、再発の可能性が高いので以前受診した病院へ行くことをオススメします」
どちらのヘルペスも直接的、間接的問わず、とにかくウイルスとの接触に注意することが大切だ。海外渡航者や外国人来訪者が増えている今、本田先生は次のような懸念を抱いているという。
「日本では、性器ヘルペスの原因となる2型の保有者の割合は15%程度です。ところが、韓国や北アメリカでは30~40%と高く、トルコや南アメリカなどではさらに多くの保有者がいます。つまり、海外旅行先で座った便座から、おしりがアトピー性皮膚炎などでただれている場合、ウイルスに感染することがあるのです。国内でも外国人来訪者が多い場所で不用意に便座に座ると、うつる可能性があります。ただこれは、便座をふき取ることで防げます。単純ヘルペスウイルスはアルコールで簡単に死滅しますから、アルコール消毒液などを携帯することをオススメします」
再発の前ぶれを感じたら薬を飲む治療法
単純ヘルペスウイルスが問題なのは、一度感染すると一生、体内に潜伏することになることだ。近年の調査では、35歳で人口の約50%が感染し、70代以降になるとほぼ100%の人が感染することが判明している。生活する時間が長くなれば、接触するだけでうつるヘルペスは感染の機会が多くなるからだ。
「単純ヘルペスは伝染する病気ですから、どんなに気をつけていてもいつかは感染するものです。大切なのは再発の予防。再発は、疲労やストレスなどのほか、強い紫外線を浴びたり、風邪で発熱したりすることなどがきっかけとなることがあります。発症時に適切な治療を受けることはもちろん、患者さん自身が日常生活を見直して、再発に結びつくようなことをできる限り避けることが肝心です」
口唇ヘルペス、性器ヘルペスともに、治療の基本は抗ウイルス薬の服用となる。薬によってウイルスの増殖を抑えてしまうのだ。一般的に、初感染時には10日間、再発の場合は5日間、抗ウイルス薬を服用するという治療を行う。
「ウイルスの増殖を抑えるには、発症のできるだけ早い段階で薬を飲むことが重要です。口唇ヘルペスも性器ヘルペスも、症状が現れる前にピリピリとした痛みなど前駆症状を自覚します。ただ、そのときすぐに病院に行けないことのほうが多いでしょう。特に性器ヘルペスを引き起こす2型は、1型に比べて再発率が高く、患者さんの中には毎月のように再発し、精神的に参ってしまう人もいます」
再発の都度病院に行き、診察、処方、服薬といった段階を踏んでいては、ウイルスの増殖を抑えられない。こうした悩みを解決する治療が、2019年2月から可能となったという。
「あらかじめ処方された薬剤を、患者さんの判断で服用する『PIT』という治療法です。 PITとは『Patient initiated therapy』の略で、日本語では『患者主導の治療』という意味になります。前ぶれに気づいたら、そこで薬を飲むのです。そうすれば症状が重くならずにすみ、患者さんは安心して快適な生活を送ることができます。ヘルペスは生活の質を低下させてしまうばかりか、免疫力が落ちている人では、潰瘍に進行してしまうこともあります。再発に悩んでいる人は、医師にPITによる治療を相談してみるといいでしょう」
本田まりこ(ほんだ・まりこ)
まりこの皮フ科(神奈川県)院長、東京慈恵会医科大学皮膚科客員教授。1973年東京女子医科大学医学部卒業、東京慈恵会医科大学皮膚科入局。同大学院教授などを経て現職。日本研究皮膚科学会評議員。性の健康医学財団議員。日本性感染学会名誉会員。日本化学療法学会評議員。日本皮膚科学会功労会員。著書に『帯状疱疹・単純ヘルペスがわかる本』、『帯状疱疹の痛みをとる本』など。
取材・文/熊谷あづさ
●朝食を抜く、糖質制限、猫を飼う女性…データで見る死亡リスクを上げる生活習慣