毒蝮三太夫が指南「ジジイやババアとちゃんと話す技術」【第2回 ヨイショ】
高齢者とちゃんと話すのは、こう言っては何だが、なかなか容易ではない。毎週、ラジオの生中継で「ジジイ、ババア」と愛ある毒舌を吐きながら、会場に集まった多種多様な高齢者たちを大笑いさせている毒蝮三太夫さん。「ジジババ・コミュニケーション」の達人に、高齢者と楽しくスムーズに話す技術や心得を伝授してもらおう。(聞き手・石原壮一郎)
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相手の心をほぐさないと会話は始まらない
年寄りっていうのは、強がっているように見えても、年下の世代に対して遠慮というか引け目というか、そういう気持ちを持ってたりするんだよな。耳は遠くなるし、物忘れだってどんどん多くなる。身体も思ったように動かない。自分はうとまれてるんじゃないか、嫌われてるんじゃないかと不安にもなるしね。
だから、こっちが何の気なしに「おじいちゃん、また同じ話して」なんて言うと、叱られたみたいな気持ちになって殻に閉じこもっちゃう。プライドも傷つくしさ。若い側は「年寄りなんだから年寄り扱いしても、たいして気にしないだろ」と思いがちだけど、そうじゃないんだよな。年寄りだからこそ「年寄り扱い」に敏感なんだよ。
だから、初対面の年寄りや久しぶりに会った年寄りとちゃんと話そうと思ったら、何はさておき「警戒しなくていいんだ」「この人は味方なんだ」と安心させなきゃいけない。そうじゃないと、防御本能が働いてとりあえず壁を作っちゃうから。自分の親や親戚の年寄りだって同じだよ。むしろ近しい関係ほど、ついぞんざいな態度を取って壁を作らせちゃうかもしれない。
年寄りの心をほぐすために有効なのは、やっぱりヨイショだね。だからって「若いときは女優さんだったんですか」とか、そんな力の入ったヨイショをする必要はない。「今日のシャツ、オシャレですね」とか「お元気で肌つやがいいですね」とか、そのくらいでいいんだよ。「この腰の曲がり具合がいいですね」なんてのもいいね。曲がってないほうが少ないんだから。
ヨイショして心をほぐせば、年寄りはホッとしてちゃんと話そうとしてくれる。話の内容にも、合間合間で「面白いですねー」「それはすごいですねー」って大げさに反応すると、張り切ってどんどん話してくれるよ。まあ、張り切らせすぎて話が止まらなくなっても困るけど、そこはサジ加減だな。
「心にもないウソを言うのは嫌だ」と思う人もいるかもしれない。そうじゃないんだ。年寄りだって、本気で言ってるわけじゃないのはわかってるさ。だけど、自分を喜ばせようとしてくれてる気持ちを受け止めて、こいつは味方なんだと感じて安心してくれる。ヨイショっていうのは、言葉の内容じゃなくて気持ちを伝えるものなんだよ。
心の中で相手を下に見て適当におだてておけばいいと思っているかというと、それも違う。年寄りっていうのは「人生の先輩」なわけだ。長く人間をやってるから、自分よりたくさんの経験があって、ものもたくさん知っている。それだけで尊敬に値するんだよ。尊敬っていうと大げさかもしれないけど、敬意を表されてしかるべき存在だってことだな。
まずはそういう前提で、敬意を示す方法のひとつとして、ヨイショで相手の不安を取り除く。それは若い側の役割だし、当たり前のマナーと言っていいんじゃないかな。「年寄りをヨイショするなんて嫌だ」「なんで自分が」と思うほうが、よっぽど年寄りを下に見ていると思うよ。
ヨイショが苦手だったら、ニッコリ笑って「いいお天気ですね」って言うだけでもいいんだ。それだって立派なヨイショだよ。ちょっとした一言で相手の心がほぐれてくれたら、こっちだって気持ちがいい。ヨイショは人のためならず、だね。
■今回の極意
毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの『毒蝮三太夫のミュージックプレゼント』でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
撮影/政川慎治