「ママを殺した」と藤真利子、看取った後も引きずる思い
内閣府が発表した『平成28年版高齢社会白書』によると、「自宅で介護してほしい」と答えた60才以上の男性は42.2%、女性は30.2%にも上る。
しかし在宅介護の実情はきれい事では済まない。そんな現代において、女優・藤真利子(62才)が最愛の母・静枝さん(享年92)の11年にわたる凄絶介護を明かした『ママを殺した』(幻冬舎刊)が話題となっている。
「介護離職」で親子共倒れするケースも
高齢化が進み、親の介護を抱える子は増え続けているなかで、社会問題化しているのが「介護離職」だ。
介護を理由に仕事を辞め、退職金や親の年金で何とか暮らそうとするが、増え続ける介護費にいずれ生活は破綻し、親子が共倒れするというケースは後を絶たない。
親を自宅で介護したいという責任感が強い人ほど、このパターンに陥るというジレンマもある。
要介護5の母の介護にあたった藤を支えた存在
「要介護度5」の母親の介護に当たっていた藤も、まさにそうだった。仕事は激減し、友人もいなくなった。
出かけるということは「ヘルパー代がかかる」ということ。観劇や映画も行かず、家に引きこもる日々だった。
そんな藤を支えたのは長年の恋人の存在だった。
つきあい当初は母から結婚を反対されたというが、彼女の留守中は静枝さんに付き添い、ヘルパーの資格も取得したという。そんな彼の助けもあり、藤は自分の出演舞台に静枝さんを呼べたこともあった。
2016年に入ると静枝さんは急速に弱り始めた。2月には腸捻転で入院、医師の勧めで内視鏡の手術とストマ(人工肛門)の手術を受けた。
要介護5でも療養型病院に入れない現実
「怖さもありましたが、少しでもお腹が楽になり、覚えれば誰でもできるということで、私はこの手術にかけました。ママは“イヤ、イヤ”と泣いていたのに。
実際にはストマの便を捨てる処置も交換も厄介で、大量の便がたまったストマのパウチが剥がれ、便がベッドに流れだし、天井に飛んだこともありました。きれいにするまでに何時間もかかりました。
その後、むくみがひどくなって再入院。経過を見ながら療養型病院にも面接に行きました。でも、要介護5、身障者手帳もいちばん重い1級なのに、病院に入れる基準は『褥瘡(じょくそう=床ずれ)』だけ。
状況を見ていると自宅の方が手厚い介護をしてあげられると思ったんです。
退院の時に “家に帰ったら、またすぐに救急車呼ぶことになりますよ。そうなってもうちでは受けませんから!”と主治医に言われました。その言葉がずっと頭をよぎっています。もし入院したままだったら、今も生きてくれていたんでしょうか…」
1年経っても母の部屋はそのままに
2016年11月7日朝9時すぎ、静枝さんは息をひきとった。藤が台所でヘルパーと打ち合わせをしている間のことだった。
1年たった今も静枝さんの部屋はそのままで、歯ブラシやコップ、薬、清拭に使っていたタオルさえ捨てられずにいる。
藤が取材の時に着ていたアンテプリマの黒いニットも、静枝さんに思い切ってプレゼントしたものだった。
「だから、ちょっと私のサイズではないんですよ。でもいいでしょ? 少し余裕ができたときに、ママにプレゼントを買いたくて清水買いしたんです。
こうやって着られるものはいいんですけど、本当にママのものは何一つ処分できないんですよね。いつかどうにかできるのかなぁ」
母の足跡を残したくて本を書いた
11月7日の一周忌には親類や親しい友人ら30人ほどが集まった。
「とにかく母の足跡を残したいという思いで、なんとか一周忌に間に合うように懸命にこの本を書きました。
それで気持ちを切らさずになんとか生きてこられたところがあったと思います。
最近思うんです。いろいろな考え方の人はいます。でも私は結婚して、子供を産んで、ママのように女性としての生き方を選ぶべきだったのかな、と。考えちゃいますね」
介護のゴールにたどり着いた藤の苦しい時間は終わっていない。それでも彼女の眼差しは強く前を向いている。
※女性セブン2017年11月30日・12月7日号
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