高齢者の生きる力を生む「美」への意識 90代で美容整形も
今年2月、NPO法人『老いの工学研究所』が246人の男女(65才以上102人、65才未満144人)を対象に「高齢期に心配なこと、恐れを感じるもの」を調査したところ、65才以上は「配偶者の死(34%)」よりも「自身の外見の衰え(38%)」について、より多くの人が不安を覚えているという結果が出た。
また内閣府の調査でも、おしゃれへの関心があると答えた高齢者は、1994年に48.6%だったのに比べ、2004年は53.4%、2014年は69.1%と年々増えている(平成26年度「高齢者の日常生活に関する意識調査」)。
施設に入った姉の姿にショックを受け…
「いつまでも身だしなみをきれいに保ちたい」と思う高齢者たち。群馬県に住む、73才の女性が言う。
「施設に入った10才上の姉の姿にショックを受けました。作務衣のような寝間着を着させられ、暴れないようにとベッドにベルトで固定されていて。すっぴんの肌はくすんで真っ黒、髪の毛もぼさぼさ。入れ歯も外されていました。『あれだけおしゃれが好きだった姉ちゃんがどうして』と、とにかく悲しくて…。たとえ入院して動けなくなったとしても、私は髪を整えて、口紅も引きたい。娘にはそう伝えています」
「美」には生きるパワーが宿っている
「美容」だけでは物足りず、整形を受ける高齢女性も増えている。東京・銀座にあるアテナクリニックの定村浩司院長は言う。
「若い人たちは『さりげなく』を希望しますが、シニア女性は『とにかく全部やりたい、土台から変えてください』と整形したことがバレるのもいとわず、“大工事”を希望されます。熱意もすごい。
90才を超えた患者さんで、受付で文字を書くのも歩くのもやっと、というかたがいたんですが、診療台で鏡を持った瞬間に『ここのおでこの、大きなシミをとってください! ここのしわが許せない』って別人のようにピンピンし始めたのには驚きました。最後はきれいな自分でいたい、という気持ちが強いんです。それだけ、美には生きるパワーが宿っている」
定村院長によれば、友人や知人の葬儀をきっかけに、来院する人も多いという。
「白装束からのぞく首がしわとシミだらけで、自分が死んだときにこんな汚い姿は見せたくないと思ったとか、こんな顔の遺影は使われたくないから最高の一枚を撮りたいとか、お別れの悲しさで涙するより前に、自分の時はどうしよう、と強く衝撃を受けるのだそうです。知人や友人の葬儀が、“終活”のための整形を考える1つのきっかけになっているようです」
亡くなってからも自分らしくいたい
葬儀の現場においてもその変化は訪れている。亡くなったかたをきれいにし、化粧や着せ替えを行う納棺師はその変わりようを肌で感じている。死化粧や復元を取り扱う会社『NK東日本』の納棺師・大森明子さんが語る。
「納棺時に『こう見られたい』というイメージが明確なかたが増えているように思います。使っていた香水を最後につけてほしいとか、習っていたフラダンスの授業で着ていた衣装を着たいとか、お気に入りの着物をかけてほしいとか、生前つけていたかつらをつけたいとか…。
体形が変わってしまったけれど、結婚式で着たウエディングドレスを着たいというかたもいました。後ろのチャックは閉まらなかったのですが。亡くなってからも自分らしくありたいと考える人が増えたように感じます。美意識やこだわりを終活の中で家族に伝えるなど、故人の思いが反映されているのかもしれませんね」
※女性セブン2017年11月2日号
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