快適介護に備える「環境作り」を考える 介護はいつから?【福祉用具専門相談が解説】<第1回> プロが教える在宅介護のヒント
介護のヒントを教えてもらうシリーズ、今回より登場する専門家は「福祉用具専門相談員」。
福祉用具専門相談員とは、介護保険で福祉用具を利用する際に、介護を受ける人が「生活しやすい環境か?」を見直し、用具の選び方や使い方のアドバイスを行ったり、調整をしたり、また住宅を改修する相談に乗ったりして、環境を整える専門家だ。
このシリーズでお話をうかがうのは、介護ヘルパーの経験を活かした独自の提案を行って、福祉用具を利用する人の自立を促す活動で、今、医療・介護関係者から注目されている山上智史さん。講演や、ハウツー講座なども行う山上さんに、在宅介護の環境づくりと福祉用具活用のポイントを聞いた。
快適介護の「環境づくり」は、介護保険でプロに相談!
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”転ばぬ先の杖”の発想で環境を整えよう
この頃は、要介護認定を受けると、まずケアマネジャーから「福祉用具専門相談員」を紹介され、訪問サービスなどを利用する前(または同時)に、生活環境を見直すことが一般的になってきました。
介護が必要になっても、生活環境を整えると“自分でできること”が継続できる場合は多いので、「環境づくり」が大切であると考えられるようになったのです。
また、環境づくりは、ご本人の介護予防・重症化予防になるだけでなく、ご家族の負担を減らすことにもつながります。そこでこの数年はとくに「まず環境を整えましょう!」と認識が高まってきました。
とはいえ、まだまだ環境づくりは「後手」になるケースが多く見られます。
長年住み慣れた家では、高齢による体の変化で、不自由なことが増えてきても、環境に合わせて生活を続けようと無理してしまいがちです。
無理をして転倒などの事故につながり、それがきっかけで機能低下が起こり、介護が必要になることがあります。
また、事故は起こらなくても、徐々に環境に合わせられなくなると周囲から“自立した生活ができない”と誤解され、自立の機会が奪われることもあります。
そのような問題が起きる前に予防する、先手の環境づくりが大切です。
日々の暮らしに不自由を感じたときに、介護認定を申請し、認定を受ければ、要支援の段階から介護保険を利用して、環境づくりをすることができます。
「環境に人が合わせる」のではなく「変化していく人(体)に合った環境に変えていく」という視点が、生活の安全を守り、介護予防・重症化予防に必要です。
暮らしの中で、以下の様子が見られたら、環境づくりを相談するタイミングです。
□ 同じ場所でよくつまづく、滑る
□ 次の動作に移るとき何かにつかまるようになった
□ 布団やトイレからの立ち上がりでふらつく
□玄関の段差や階段の昇降がつらい
□姿勢が悪くなった。長時間、同じ姿勢を保つのがつらくなった
□ 調理や洗濯物干しなどの家事ができなくなってきた
□ 食事に時間がかかり、残すようになった。食べこぼしが増えた
□ 入浴の回数が減った。湯船につからなくなった
□物を落としたり、壊すことが増えた
□外出や活動を控えている、減った
□ 寝ている時間が長くなった
手すりではない場所を、習慣的に“手すり代わり”に使っている高齢者は多く、転倒の危険があるので注意が必要です。足腰が弱り、事故の心配が出てきたら、「手すりをつける」ほかに、「家の中の段差に注意を促し、段差をなくす」「歩行補助杖を使う」などの工夫も必要かもしれません。
環境の改善方法は千差万別です。どのようすればいいかは、人、場所によって異なり、専門的な検討が必要ですので、福祉用具相談員に相談するときは、「やりにくくなってきた動作」、「できる、やっている動作」、「体のしびれや痛み」、「動作が不自由になって困っていること」、「やりたいこと」を伝えてください。
相談の結果、福祉用具専門相談員は「手すりが必要」と判断した場合、利用する人の状況により置き型・つっぱり型の「取り外し可能型手すり」(レンタル対象)か、壁に直接ビスで打ち込む「打ち込み型手すり」のどちらが適切かを検討し、「最適な位置」、「向き」、「長さ」、「高さ」などを選び、提案します。
また、実際に不自由さを感じている場所以外にも、家庭の中に活動を妨げている場所、改善ポイントがないかを専門家の目でチェックします。