「親が亡くなったら口座が凍結される?」疑問に専門家が解説!《遺言代用信託》ほか故人の預金を引き出す方法やサービス
親の介護を終え、旅立った家族の預金から葬儀費用や当面の生活費を工面したい――。そんなケースもあるだろう。しかし、故人の預貯金は引き出せなくなる。一体どうしたらようのだろうか? 故人の資金を活用するための制度やサービスについて、ファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
内外資系の生命保険会社を経て、2011年に母の介護経験をもとに介護者専門FPとして独立。その後、2018年にカワムラ行政書士事務所を開業。介護や相続、親の介護をめぐる家族会議支援など、将来に備えるサポートを幅広く行う。
親が亡くなった後もお金は必要に
私の父親は脳梗塞で倒れ、一旦落ち着いたものの数か月後に誤嚥性肺炎で亡くなりました。今後、どのような介護が必要になるかを考えていた矢先のことでした。
親の介護が終わった後も、家族にはさまざまな手続きやお金の準備が必要になります。我が家の場合、コロナ禍で比較的費用を抑えられる家族葬だったこともあり、葬儀などの費用は私たち子どもが工面しましたが、突然のことで必要な資金が準備できない場合もあります。
そこで知っておきたいのが、故人の預貯金口座の取り扱いです。お金や介護に関するセミナーの講師をすると、「親が亡くなったらすぐにお金を引き出せなくなるの?」と疑問に思われるかたもいらっしゃいます。
本人が亡くなると口座からお金は下ろせない?
一般的に金融機関が名義人の死亡を確認した時点から、預貯金口座は凍結され、払戻しなどの取引はできなくなります。
しかし、亡くなったらすぐに凍結されるわけではないため、親の生前に暗証番号を聞いていたのでATMで現金を引き出して対応したというケースもあるかもしれません。しかし、故人の預貯金は死亡した段階で「相続人全員の共有財産」になるため、その取扱いには十分注意が必要です。
繰り返しになりますが、原則として故人の預貯金は金融機関の所定の手続きが終わるまで引き出すことはできません(口座の凍結解除はされない)。
死亡から銀行口座凍結解除までの流れ
死亡届を役所に提出(死亡を確認した日から7日以内)
↓
相続手続きを開始(遺産分割協議書などを作成)
↓
凍結解除(銀行口座の引き出しや解約、名義変更などが可能となる)
とはいえ、相続手続きには、家族間の話し合いや多くの書類などが必要となり、一定の時間や手間を要します。一刻も早く故人の口座から葬儀費用や当面の生活費を捻出しなければならないケースもあるでしょう。そんなときに活用できる制度について考えてみましょう。
国が定める「預貯金の仮払い制度」
2019年から民法が改正され、「預貯金の仮払い制度」がスタートし銀行や信用金庫など金融機関で手続きをすることができるようになりました。この制度を利用すれば、相続手続きが完了する前でも故人の預貯金の一定額を相続人が引き出すことができます。
ただし、金融機関ごとに必要な書類や手順が異なり、いくつかのデメリットもあります。
預貯金の仮払い制度の懸念点
・引き出せる上限額が決まっている
・書類を揃える手間がかかる(故人の出生から死亡まですべての戸籍謄本、相続人全員の現在の戸籍謄本のほか、様々な書類が必要となる)
・相続放棄ができなくなるケースがある
戸籍謄本を揃えるのには時間や手間がかかるケースも。また、負の遺産があった場合などは相続を放棄することもできますが、この制度を使うと放棄できなくなるリスクも。やはり故人の預貯金を引き出すのはそう簡単なことではありません。
信託銀行などの「遺言代用信託」
自分の死後、家族などに預貯金をスムーズに渡すためのサービスには、信託銀行などが展開するサービス「遺言代用信託」を活用する方法があります。
本人が生前に契約し、契約内容に応じて指定された受取人が、信託財産を受け取れる仕組みです。自分の死後、子供に自分の預貯金を使ってもらいたい場合には便利なサービスです。一般社団法人・信託協会※によると、高齢化にともない、遺言代用信託の契約件数は年々増加傾向となっています。
※一般社団法人信託協会「遺言代用信託について」
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/archives/013/202507/NR20250708.pdf
遺言代用信託の内容は、信託銀行や商品などによって、さまざまなパターンがあります。本人の死亡後に「一時金」として受け取る方法のほか、年金のような形で「定期的に一定額を受け取る」もの、本人が生存中に受け取ることができるタイプもあります。
遺言代用信託(一時金タイプ)の主なメリット・デメリット
一時金タイプを例に挙げ、メリット・デメリットを考えてみましょう。
最大のメリットは、通常の相続手続きに比べて、簡単な手続きで早く資金を受け取ることができる点です。金融機関によっては販売手数料や管理手数料がかからない商品や、元本保証の商品もあります。さらに、受取人をあらかじめ指定できることもメリットのひとつです。
一方、デメリットとしては、中途解約に制限があることです。金融機関によっては、やむを得ない事情など一定の条件を満たした場合にしか中途解約が認められません。なお、中途解約には解約手数料がかかることもあります。
また、信託できる財産は金銭に限られ、不動産や有価証券などは対象外です。加えて、法定相続人の遺留分への配慮も必要であり、相続税の節税効果はありません。
このように、遺言代用信託にはさまざまなメリットとデメリットがあります。家族構成や資産状況などを踏まえ、自分や家族に合った商品かどうかを検討することが大切です。
遺言代用信託のメリット・デメリット
【メリット】
□手続きが簡単で早く資金が受け取れる
□販売手数料や管理手数料がかからない商品もある
□元本保証の商品もある
□受取人が生前に指定できる
【デメリット】
□中途解約に制限がある
□信託できる財産は金銭に限られ、不動産や有価証券などは対象外
□法定相続人の遺留分への配慮も必要
□遺言代用信託を利用しても相続税の節税効果はない
□認知症など本人の判断能力が低下している場合は契約できない?
※一般社団法人信託協会「遺言代用信託」
https://www.shintaku-kyokai.or.jp/products/individual/assetsuccession/testament_substitution.html
※一般社団法人全国銀行協会「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/article/F/7705_heritage_leaf.pdf
銀行の「予約型代理人サービス」
認知症などで判断能力が低下した場合に備えて「予約型代理人サービス」を設けている銀行もあります。
あらかじめ代理人を指定しておくことで、認知症などで判断能力が低下し、預金を下ろせなくなった場合、代理人に手続きを任せることができます。ただし、このサービスは本人が死亡すると契約が終了し、代理権が消滅するため、死亡後には使えません。
また、サービスは、金融機関によって利用できる制度や取扱いが異なるため、事前に確認しておきましょう。
高齢期の備えとしての「遺言代用信託」【まとめ】
高齢期には介護への備えだけでなく、亡くなった後の家族の生活も見据えた準備を進めておくことが大切です。故人の預貯金を残された人に託す遺言代用信託は、信託銀行などによって商品内容や手数料などは異なりますので、自分や家族の状況に合わせて検討してみてはいかがでしょうか。
