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健康

手術には合併症や術後の生活の質低下リスクも 医師が警告する「高齢者が見直すべき手術20」

 年を重ねるにつれ体の機能は衰え、持病も増えてくる。医療機関を頼ることも多いだろう。だが、治療をすべて医者に委ねるのは危険だ。最新研究で効果が否定された手術により、かえって不健康になるケースが絶えないのだという。医者の言いなりにならず、自分の健康を正しく守るために、見直すべき医療行為を網羅した。

がん検診で早期発見できれば治療も楽になる

教えてくれた人

室井一辰さん/医療経済ジャーナリスト、上昌広さん/医師・元国立がん研究センター職員・医療ガバナンス研究所理事長、戸田佳孝さん/医師・戸田整形外科リウマチ科クリニック院長、平松類さん/医師・二本松眼科病院副院長

慎重に検討すべき手術が安易に勧められている現実

 薬体にメスを入れる「手術」には常にリスクがついて回る。とくに合併症リスクや術後の長期的なQOL(生活の質)の低下には留意が必要だ。

 医療経済ジャーナリストの室井一辰さんが言う。

「手術で病巣を取り除き、再発を予防することで生存率が高まる可能性はあります。しかし、術後のリハビリに苦労したうえ、回復に至らずにQOLが落ち込んだ状態のままの生活を余儀なくされるケースもある。個々の回復力や残りの人生を踏まえ、手術を行なうかどうかを慎重に判断すべきです」

 本来なら慎重に検討すべき手術が安易に勧められている現実もある。

 元国立がん研究センター職員で医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が指摘する。

「例えば高齢者に対するがんの外科手術は、体の負担を考慮して積極的には推奨されません。ところが実際には、医療機関や医師からの勧めや患者からの強い希望によって、術後の生活を十分考慮したとは言えないような手術が少なからず行なわれている」

 その背景には医療現場の経済的事情も絡んでいるという。

「日本では75才以下の人口が激減し、とりわけがん治療の対象となる患者数が減少しています。結果、外科医療の世界では経済的苦境が続いており、病院経営を維持するため、手術件数の確保に躍起になっている側面もあるのです」(上医師)

 やらないほうがいい手術を次項より具体的に見ていく。

手術しても生活の質が低下する可能性が

 慎重な検討を要する手術が多いのが、「がん」だ。

 肺がんの標準的な手術には、がんのある肺のブロック(肺葉)ごと切除する肺葉切除術があるが、上医師はこう言う。

「肺は一度切除すると再生しない臓器。大きく切除すると呼吸機能が著しく低下し、術後には少し動くだけで息切れがするようになる。さらに体を動かさなくなると足腰の筋力が低下して、そのまま寝たきりになる負の連鎖に陥りかねません。手術するにしても胸腔鏡での部分切除にとどめるべきです」

 食道がんの開胸・開腹手術も同様だ。とくに心肺機能が低下している人の場合、「食道亜全摘術はやめたほうがいい」と室井さんは話す。

「食道亜全摘術では食道の大部分のみならず、転移する可能性のあるリンパ節郭清まで行なうため、体の負担が大きい。

 2024年にアムステルダム大学が米国外科腫瘍学会誌で発表した研究では、食道を切除した患者の最大60%に肺炎などの合併症が発生すると報告されています。とくに合併症を引き起こしやすい75才以上の場合、術後の長期的なQOLの低下の可能性も指摘されています」

 大腸がんは、ほかのがんに比べれば安全に手術ができるとされているが、やはり術後のQOLには懸念があるという。

「術後は人工肛門の管理が必要になったり、排便回数が増えて外出に支障が出たりするなど、生活の質に影響するリスクがつきまといます」(室井さん)

 直腸がん手術などで肛門機能を温存できないケースはより深刻だ。上医師が解説する。

「人工肛門(ストーマ)になると、便を溜める袋(パウチ)の交換や皮膚のケアなど日常的な管理が必要になります。手元の細かい作業ができないなどの理由で家族の介護負担が激増するケースも多い。

 手術自体は成功しても、QOLが著しく低下してしまったら本末転倒です。手術せずに余生を過ごすという選択肢もある。主治医に『もし先生ご自身やご家族が80代だったら、この手術を選択しますか?』と率直に尋ねてみるのもひとつの方法でしょう」

脳・血管の手術も「経過観察」が有力な選択肢に

 脳・血管疾患にも「やらないほうがいい手術」があるという。

「脳動脈瘤ではクリッピング術(動脈瘤の根元を挟む手術)やコイル塞栓術(動脈瘤内にコイルを詰める手術)など、技術的に広く確立された方法がありますが、術後の入院による体力低下や認知機能の悪化リスクを無視できません」(同前)

 室井さんも言う。

「そもそも小さな脳動脈瘤は破裂する確率が非常に低いのです。サイズが7mm未満の動脈瘤が破裂する確率は年間約1%未満。すでに高齢の人なら、動脈瘤が破裂する前に寿命をまっとうできる可能性が高い。脳ドックで見つかっても過剰に不安にならず、経過観察を選ぶのが賢明でしょう。

 薬物療法の進歩によって、頸動脈狭窄症の手術も脳卒中や死亡率低下のメリットが乏しいことがわかってきました。近年は『症状がない高齢者には不要』とする論文が増えています」

 ほかにも、腹部大動脈瘤の人工血管置換術では術中に腎臓への血流を遮断することになるため、急性腎障害のリスクもあり、術後には人工透析を必要とする急性腎不全まで報告されている。

 長く「お腹を切る」のが当たり前とされてきた虫垂炎(盲腸)。今は傷口が小さく回復が早い腹腔鏡手術が主流だが、その手術も見直すべきだと報告されている。

「2020年に世界で最も権威ある医学雑誌『NEJM』で発表された、米ワシントン大学などによる研究で、抗菌薬を投与した患者群は腹腔鏡手術を受けた患者群に比べて、治療の有効性が劣らないことが明らかになりました。虫垂に穴が開く穿孔などがない限り、手術をする必要はほとんどありません」(同前)

100万円超えの手術費も根本的な解決にならないケースも

 整形外科分野にも手術がいらない疾患がある。その代表例が腰痛の多くの原因となっている腰部脊柱管狭窄症だ。戸田整形外科リウマチ科クリニック院長の戸田佳孝医師が言う。

「腰部脊柱管狭窄症は、加齢による骨の変形や靱帯の肥厚によって神経の通り道が狭くなり、神経が圧迫されることで痛みが生じます。ところが一部の医療機関では椎間板ヘルニア用の治療であるPLDD(経皮的レーザー椎間板減圧術)が勧められ、安易な日帰り手術が行なわれている。健康保険適用外で自由診療に当たるため、なかには100万円以上を請求されるケースもあるようです。

 しかし、PLDDを行なっても根本的な解決にはなりません。高齢になれば背骨の一か所だけでなく、複数の箇所で神経の圧迫が生じているのが一般的。ブロック注射などで痛みをコントロールしながら生活の質を保つほうが賢明です」

 神経を圧迫している背骨や靱帯の一部を切除して神経の通り道を広げる椎弓切除術も、手術を受けた人と受けなかった人の8年後の症状改善度を比較した海外の研究では「有意な差はなかった」ことが報告されている。「さらに約18%が再発し、再手術を受けていることも明らかになっています」(戸田医師)

 股関節が痛む変形性股関節症には、人工股関節置換手術が行なわれることが多いが、この手術も「高齢者には推奨できない」と戸田医師は話す。

「最大の懸念は術後の活動量低下に伴う深部静脈血栓症、いわゆるエコノミークラス症候群のリスクです。静脈の血流が滞って血の塊(血栓)ができ、それが肺に行って血管を詰まらせて肺梗塞(肺血栓塞栓症)を引き起こし、最悪の場合死に至る。また、加齢による筋力低下は人工股関節の脱臼リスクを高めてしまいます。変形性股関節症に対しては、保存療法で様子を見るほうがいいでしょう」

 加齢とともに増える目の病気が白内障だ。老化に伴って目のレンズである水晶体が白く濁って硬くなるのが原因で、二本松眼科病院副院長の平松類医師によれば「70代で90%、80代以上はほぼ全員がなる」という。

 目がかすんで見えにくいなどの症状を改善するために行なわれるのが、人工の眼内レンズを入れる手術で、比較的安全で視力回復も期待できるとされている。だが、術式には注意が必要だ。

「白内障手術にはレーザーを使う方法もありますが、自由診療で高額になるうえ、人の手で行なう手術と術後の結果はほとんど変わりません」(平松医師)

 視力の矯正手術も慎重になりたい。

「レーシックなどレーザーを当てて角膜の屈折力を調整する近視矯正手術では、多くの高齢者が悩む老眼は治りません。しかも角膜が薄くなって眼圧が測りにくくなるため、日本人の失明原因1位である緑内障の発見が遅れる可能性もある。手術後、光が大きな輪になって見えたり発光体がダブって見えたりするハロー・グレア現象が生じるリスクもあります」(同前)

 たとえ傷口が小さな手術でも、メスを入れれば必ず体に負担がかかる。そのことを肝に銘じたい。

慎重な検討を要する手術20

 ※上昌広医師、戸田佳孝医師、平松類医師、室井一辰氏への取材をもとに作成

【1】<肺がんの術式>肺葉切除術

(ポイント)

 肺を大きく切除すると、呼吸機能が著しく低下し息切れで生活に支障が出ることも。手術する場合は胸腔鏡を用いて腫瘍のみを小さくくり抜く「部分切除」にとどめるのが望ましい。

【2】<食道がんの術式>食道亜全摘術

(ポイント)

 食道の大部分と転移する可能性のある頸部から腹部までのリンパ節を切除するため、体への負担が大きい。海外の研究で術後患者の最大60%に肺炎などの合併症が起きるとの報告も。

【3】<前立腺がんの術式>前立腺全摘除術

(ポイント)

 進行が遅い傾向にあり、無症状のまま経過することも多い。手術により排尿障害や性機能障害などの合併症が生じやすく、おむつが必要になるなど、生活の質(QOL)が低下する。

【4】<胆管がん・膵臓がんの術式>膵頭十二指腸切除術

(ポイント)

 自覚症状があまりないため、発見時には進行・転移していることが多く、手術での治癒が困難。手術も長時間で体の負担が大きく合併症のリスクも高いため、緩和ケアの選択が一般的。

【5】<肝臓がんの術式>肝切除術

(ポイント)

 血管が多い部位であることもあり、手術の出血リスクや体へのダメージが大きい。術後の回復力が低下し、合併症リスクが高まる。

【6】<大腸がんの術式>開腹手術

(ポイント)

 手術手技も確立されており、比較的安全と言われるが、切除範囲により人工肛門(ストーマ)が必要に。その管理負担も大きいため、内視鏡で切除不可な場合は慎重な検討が必要。

【7】<喉頭がん・咽頭がんの術式>部分切除術・全摘術

(ポイント)

 手術で喉の痛みや嚥下障害、声が出なくなるなどの後遺症が出やすい。食事の摂取が困難になると栄養状態が悪化、全身の衰弱につながり、誤嚥性肺炎のリスクも高まる。

【8】<心房細動の術式>カテーテルアブレーション

(ポイント)

 心臓の原因部分を焼却して正常のリズムに戻す治療。心房細動を放っておくと血栓ができやすく脳梗塞のリスクが高まるが、米国の研究では手術と薬で脳梗塞の減少に差はなかった。

【9】<大動脈瘤の術式>人工血管置換術

(ポイント)

 英国の無症状の大動脈瘤の高齢患者を対象にした研究では、手術と経過観察で死亡率に差はなかったため、5cm未満と小さい瘤の場合は破裂予防で人工血管に替える必要性は低い。

【10】<未破裂脳動脈瘤の術式>クリッピング術・コイル塞栓術

(ポイント)

 サイズが7mm未満の脳動脈瘤の年間破裂率は約1%程度と低く、破裂前に寿命を迎える可能性が高い。死亡、神経障害のリスクを勘案すれば経過観察で十分。

【11】<頸動脈狭窄症の術式>頸動脈内膜剥離術・頸動脈ステント留置術

[ポイント]

 かつては脳梗塞予防で手術が推奨されていたが、薬物療法の進歩で、手術による脳卒中予防や死亡率低下のメリットが乏しい。手術により脳梗塞を起こすリスクが生じることもある。

【12】<虫垂炎(盲腸)の術式>腹腔鏡手術

(ポイント)

 全身麻酔を使うため、高齢者にはリスクがある。2020年に発表された米ワシントン大学の研究では、抗菌薬は腹腔鏡手術に比べて治療の有効性が劣らないことが明らかになっている。

【13】<腰部脊柱管狭窄症の術式>レーザー手術

(ポイント)

 高齢者の腰痛は骨や靭帯の老化など複合的要因で生じるため、椎間板だけに作用するレーザー手術は効果が限定的。自由診療で費用も高額になる。

【14】<腰部脊柱管狭窄症の術式>椎弓切除術

(ポイント)

 2015年に海外で脊柱管狭窄症患者を調べた研究では、手術を受けた人と受けなかった人の8年後に有意な差はなかった。さらに手術を受けた患者のうち約18%が再手術を受けている。

【15】<変形性股関節症の術式>人工股関節置換術

(ポイント)

出血量が多く体への負担が大きく、術後の活動量低下に伴う致死的な血栓症を起こすりスクも。加齢による筋力低下で人工股関節が脱臼しやすくなるので保存療法を優先する。

【16】<変形性膝関節症の術式1>半月板形成術

(ポイント)

 半月板損傷は老化現象で、必ずしも痛みの原因ではない。手術でも機能の改善は見込めず、ひざの「クッション性」を損なうリスクがある。

【17】<変形性膝関節症の術式2>冷却型ラジオ波治療法

(ポイント)

 エコーでひざの感覚神経を特定し、ラジオ波で神経を焼く手術方法で、2023年に保険適用となる。痛みを軽減するが、根本的な治療ではなく、痛みを取る効果も長続きしない。

【18】<椎間板ヘルニアの術式>経皮的レーザー椎間板減圧術

(ポイント)

 腰痛の原因は複合的なため、効果は限定的になるケースも。2013年に126例を対象とした調査では、15.9%の患者がこの手術を受けないほうが良かったと回答した。

【19】<白内障の術式>レーザー手術

(ポイント)

 検査を含めてすべて自由診療のため、費用が高額になる。精度は高くなるものの、人の手による手術でも合併症リスクは高くない。術後の見え方も人の手による手術と変わらない。

【20】<近視の術式>レーシック手術

(ポイント)

 角膜を削って近視を矯正するため、角膜が薄くなって眼圧が測りにくくなり、失明原因1位の「緑内障」の発見が遅れるリスクがある。老眼の進行で矯正効果が相殺される可能性も。

写真/PIXTA

※週刊ポスト2026年6月26日・7月3日号

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