ひざの痛み<変形性膝関節症>9割は軟骨のすり減り 薬や手術に頼るべきか?専門医が解説
「ズキッ」「ミシミシ」──立ち上がったり歩いたりした時、ひざにそんな違和感を覚えたら、「変形性膝関節症」かもしれない。だが、医者に通うのは面倒、かといって自力ではどうしていいかわからないと我慢している人も多いことだろう。実はその痛み、「少しの工夫で消えていく」と専門医は明言する。
ひざの痛み、9割は「ひざ軟骨」のすり減り
フリーで働く50代男性が悲痛な悩みを明かす。
「コロナ禍のリモート勤務で癖になった運動不足を解消しようと久しぶりにジョギングしたら、ひざが痛くて走れなかった。その後も駅の階段で、特に雨の日ほど痛むように。でも病院に行くほどではないかなと思い、たまに市販の鎮痛薬を飲んで様子を見ています」
そんなひざ痛持ちにとって、「梅雨」は憂鬱な季節だろう。
「雨の日にひざがズキズキ痛むのは、気圧の低下で自律神経が乱れ、元々“硬く”なっていたひざに、症状が出やすくなるからと考えられます」
そう説明するのはひざの名医として知られる東京医科歯科大学大学院運動器外科学教授の古賀英之医師。
「ひざの痛みを抱える人の9割はひざ関節の軟骨が徐々にすり減って変形し、痛みや腫れを起こす『変形性膝関節症』が原因です」(同前)
なぜ、ひざの軟骨はすり減ってしまうのか。『ひざ痛を自力で治す』の著者で日本関節学会評議員の戸田佳孝医師(戸田整形外科リウマチ科クリニック院長)が言う。
「ひざを伸ばす筋肉は老化しやすく、20歳の筋肉量を100とすると、70歳で40、つまり半分以下になる。筋肉が衰えた分だけ、あるいは体重が増えた分だけ負荷が大きくなり、軟骨がすり減ってしまうのです」
ひざ関節にかかる負荷は、歩行時や立ち上がり時に体重の2〜3倍、階段の昇降時は3〜4倍とも5〜6倍ともいわれる。激しい運動をせずとも、日常的な動作で大きな負荷がかかる。
変形性膝関節症の症状(痛み)には段階がある。「立つ・座るなどの動作や長時間の歩行で痛む」という初期から、「じっとしていても痛み、夜も眠れなくなる」の末期まで幅がある。
軟骨が摩耗する程度は運動習慣や体質などで人により異なるが、症状を放置しておくと、生活面で大きなリスクを背負いかねない。
「変形性膝関節症になると将来、要介護になるリスクは約6倍、認知症リスクは約4倍になるという厚生労働省などの調査報告があります」(古賀医師)
症状を自覚したら、どのように対処すればいいのだろうか。
ひざの痛み、治療すべきか?
再生医療関連事業を手掛けるセルソースが実施した調査(2023年)によると、ひざの痛みで病院を受診中と答えたのはわずか3%だった。
しかも、そのうち6割以上が「治療に満足していない」と答えている。理由として挙げられたのが「痛みが取れない」「完治する見込みがない」ことだった。
整形外科を受診すると痛み止めの薬を処方されることが多いが、戸田医師はこう言う。
「痛み止めを使うなとは言いませんが、その場しのぎの『対症療法』に過ぎず、『痛み止めの薬を飲めば歩ける』と考えていつも通りに動くと、変形性膝関節症が悪化しかねません。痛みを和らげながらひざを守る根本治療には『運動療法』が欠かせないのです」
ひざに負担をかけない歩き方や運動療法などもあるが、戸田医師によると、病院を受診しても運動療法を指導せず「すぐに手術を」と勧められるケースもあるという。
「画像診断をもとに『人工膝関節手術』を勧められることがあるようですが、手術をしてもひざ痛が残る人もいるうえ、術後は運動制限が必要になったり、可動域が狭まったりするなどのデメリットが生じます。
また、人工関節の耐用年数である2015〜2025年で再手術が必要になる場合があります。手術は『最終手段』と考え、まずは自身のひざの状態を確認したうえで、生活習慣の改善や運動療法に取り組むことを考えてほしい」(同前)
ひざの痛みの状態を知るには、フランスの著名な整形外科医・リキーネ氏が作成した「質問票」でまずは自分のひざの状態を把握したい。
変形性膝関節症の「セルフチェック」
まずは自分の「ひざ痛」の程度を知ろう!
□寝ている時に痛む
□朝、目が覚めた時に痛む
□30分以上立っていると痛む
□歩き出した時に痛む
□椅子から立ち上がると痛む
□10分以上歩くと痛む
□階段を上がる時に痛む
□階段を降りる時に痛む
□しゃがむ時に痛む
□でこぼこの道を歩くと痛む
2つ以下→軽少
3~6つ→中等症
7つ以上→重症
※週刊ポスト2024年6月28日・7月5日号
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